働くママのウェブマガジン

Column あの人に聞きました

あのひとに聞きました社会学者・古市憲寿さんが考える、待機児童問題解決の方法

2016.08.26

今年2月の「保育園落ちた、日本死ね!」というブログの書き込みをきっかけに、待機児童問題が注目を浴び、国会でも取り上げられました。保育士の待遇の低さも指摘され、2017年から保育士給料が2%引き上げられることに。

都知事選でも、待機児童問題は争点のひとつとなりました。Hanakoママの読者にとっても、とても関心のあるテーマではないでしょうか。この問題が改善されていくために何が必要か、という視点を、編集部としても常に持ち続けたいと思います。

お母さんが人間だって気づいたのはいつですか?

ところで、『保育園義務教育化』という本があるのをご存知ですか? 固そうなイメージのタイトルですが、この本を読んで「泣いた」というママがたくさんいます。

本の冒頭は「お母さんが人間だって気づいたのはいつですか?」という問いかけから始まり、この国のママたちが置かれている特殊な状況を説明しています。

電車にベビーカーで乗れば白い目で見られる。新幹線や飛行機で子どもが泣くと、嫌がられる。仕事を頑張ると「子どもがかわいそう」と言われる。小さな子どもを預けて旅行にでも行ったものなら鬼畜扱いを受ける。
「電車に乗る」ことも「仕事を頑張る」ことも、「旅行をする」ことも、多くの人が権利だと意識することもなく当たり前にしていることだ。
それなのに、「お母さん」が同じことをすると社会の反応はまるで変わる。
「お母さん」になった途端、誰からも文句を言われないストライクゾーンが極度に狭まってしまう。

(『保育園義務教育化』p9より引用)

「たしかにそうかも」。日ごろ、ママとしてモヤモヤしていることをスッキリ説明してもらった感じなのです。

お母さんをケアしている本があまりにも少ない

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著者の古市憲寿さんは、新進気鋭の社会学者。この本で古市さんは、保育園の待機児童問題をはじめとした、いまの日本のお母さんたちが置かれている状況をわかりやすく整理し、お母さんたちをねぎらい、問題の解決策まで提示してくれています。

なぜ保育園に縁のない古市さんが書いたのか。素朴なギモンをぶつけてみました。

「同年代の友人や妹が出産して育児を始めて大変だ、という話を身近に聞くようになり、興味を持ったのがきっかけです。少子化問題をテーマにしている本はたくさんあっても、子どもを産んでくれたお母さんをケアしている本があまりにも少ない。調べていくうちに、お母さんを取り巻く状況が厳しくて、これでは子どもが増えるわけがない!と思いました。そこに寄り添うことから本を書きたい、と思ったんです」。

これまでは「若者代表」として、若い世代の本を多く出してきたイメージが強く、子どももなく、結婚もしていない古市さんが保育園の本を書く。「部外者だ」という反発も予想されたのでは?

「保育士さんの給与が上がらないことや、首都圏では土地が足りなくてなかなか保育園が増えないことなども、当事者の人ほど『すぐには仕方ない』と考えてしまいがち。事情がわかりすぎているんです。あえて部外者の自分が書くことに意味があると思いました」。

本には、「産後ケアは大事だ」「お母さんは、一人目の育児については完全な『素人』」「ひとりぼっちの子育ては辛すぎる」など、ママの気持ちに寄り添うようなコメントがたくさん書かれています。

3世代同居で育った古市さんにとっては、実家に頼ることができず、夫も仕事に忙殺され、結果的にひとりで子育てしているお母さんが多いという状況がまず心配だった。お母さんを孤立させないためにも、保育園のような場所に通わせることが、お母さんにも赤ちゃんにとってもハッピーなはず、というところから「保育園義務教育化」というアイディアに行きつきました。

乳幼児期に子どもたちに良質な教育を与えるという「保育園義務教育化」の考えは、子どもたちだけでなく、社会全体にとってもメリットがたくさんある、と話は展開し、日本全体が取り組むべき大きなテーマだということが伝わってきます。

ノルウェーの保育園事情からわかること

保育園の問題は、子育て世代の問題だけではなく、国全体の問題。そのことに最初に気づいたのは、古市さんが学生時代、ノルウェーに留学したときのこと。

「北欧の国々は人口が少ないので、生まれてくる世代を増やすことが国の根幹にかかわる問題。ヘタをすれば国が滅んでしまうわけですから。そして、ノルウェーにも30年前には日本と同じように保育園などの施設が十分に整備されていない、という時代があったんです」。

専業主婦が多かった時代から、労働力不足のために女性が働きに出るようになり、それに伴って保育園の問題が浮上。国を挙げて制度を整えていったという経緯があるのだそう。「30年前のノルウェーにできるのだから、日本でだってできるはず」と古市さんは考えます。

「保育園義務教育化」と聞くとちょっと突飛な気もしますが、フランスでは3歳からの保育園は無料、イギリスや韓国では義務教育開始を5歳に引き下げているなど、世界的にも義務教育の年齢を下げるという流れが。

年金問題も、医療費の問題も、景気の問題も、根っこにあるのは、高齢者が増えすぎてあまりにも若者が少ないという人口バランスの悪さが原因。それを解決するのが、子育てをめぐる問題です。そう考えたら、待機児童問題はお母さんと子どもだけに関わること、なんて言えないはずですよね。

保育園の問題について、お母さんたちに非はありません。制度に問題があり、それは国や自治体の責任。

今年は待機児童問題がこれまでになく注目されていますが、それでも、子育て世代だけの問題と思われがち。この問題については、国民すべてが当事者意識をもつべき。そう思います」。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

NEWS!!
『保育園義務教育化』の書籍の本文をHanakoママwebに掲載することが決定しました。この本全体のおよそ8割が無料で読める、ということ。そこには、古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いがあります。ぜひ、ご期待ください!

 取材・文◯宮本博美