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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化1女性が「お母さん」になった途端に、できなくなること【古市憲寿/保育園義務教育化・1」】

2016.10.28

先日Hanakoママでご紹介した、社会学者・古市憲寿さんのインタビューには大きな反響がありました。

インタビューのきっかけにもなった、古市さんの著書『保育園義務教育化』は、現代日本が抱えている少子高齢化という問題を、保育園の待機児童問題をテーマにわかりやすく説明しています。なかでも、多くのママたちの心を動かしたのは、いまの日本のお母さんたちが置かれている状況をわかりやすく整理し、ねぎらい、問題の解決策を提示していること。

今回、古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いから、特別に、Hanakoママウェブに書籍の内容が掲載できることになりました。毎週3回更新、約3か月にわたってお届けします。

ぜひ、こちらの内容を読んでいただき、共感したかたは、できるだけ多くのかたに広めていただければ幸いです。

保育園問題。そしてその先にある、日本のこれからについて、編集部もみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

まずは、第一回目。書籍の「はじめに」からお届けします。


(書籍『保育園義務教育化』「はじめに」より)

「お母さん」が「人間」だって気づいてますか?

親が人間だって何歳のとき気づいた?

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好きで、よく人に聞いてしまう質問がある。

「親が人間だって何歳の時に気づきましたか?」というものだ。

親も人間であり、機嫌のいい時もあれば悪い時もある。子どもを褒めたり叱ったりするのも、いつもきっちりとした理由があるわけではない。起きたくない朝もあるだろうし、子育てが嫌になる時もあるだろう。

だけどこの質問をすると、たじろいでしまう人がいる。おそらく、「親」が「人間」かどうかなんてその時まで考えたこともなかったのだろう。

冷静に考えればわかることだが、こと「自分の親」、特に「お母さん」となると、その人も人間であることを忘れてしまいがちだ。

同じ人間であるはずの母親も、「お母さん」という名前が与えられた途端に、何を頼んでも聞いてくれる超人のような存在と錯覚されてしまう。

朝起こして欲しいと頼んだら、絶対に起こしてくれる。ちょっと遅れただけで子どもは文句を言う。普通の女性が、子どもを産んで「お母さん」になった途端、そんな聖母のような存在であることが求められるのだ。

さらに「お母さん」には一般の「人間」以上の規律が課される。

電車にベビーカーで乗れば白い目で見られる。新幹線や飛行機で子どもが泣くと嫌がられる。仕事を頑張ると「子どもがかわいそう」と言われる。小さな子どもを預けて旅行にでも行ったものなら鬼畜扱いを受ける。

「電車に乗る」ことも、「仕事を頑張る」ことも、「旅行をする」ことも、多くの人が権利だと意識することもなく、当たり前にしていることだ。

それなのに、「お母さん」が同じことをすると社会の反応はまるで変わる。

「お母さん」になった途端、誰からも文句を言われないストライクゾーンが極度に狭まってしまう。日本の「お母さん」には基本的人権が認められていないようなのだ。

たとえば同じ親であっても「お父さん」であればこうはならない。僕の知人でも、子どもが生まれてから1ヶ月の間に数回しか赤ちゃんに会っていないという企業家がいた。しかし、彼を咎める人は少ないだろう。むしろ「子どものために一生懸命働いて偉い」と評価されるのかもしれない。

なぜか一人の女性が子どもを産んで「お母さん」になった途端に、人間扱いされなくなってしまうのである。それはもしかしたら、この国の多くの人は「お母さん」が「人間」であることに未だ気づいていないせいかもしれない。

保育園に入れるための「一時離婚」

「お母さん」を人間扱いしてくれないこの国は今、子育てをしやすい状況にあるとはとても言えない。

僕の友人も『東京での子育てはまるで罰ゲームみたいだ」と言っていた。彼曰く、子どもを認可保育園に入れるのは至難の業、送り迎えは夫婦で分担しても大変、さらに出産準備期を含めて子育てには想像以上のお金がかかる。

それがまるで「罰ゲーム」のようだというのだ。

もっと驚くような事例がある。

子どもを保育園に入れるために一時離婚した夫婦までいるというのだ。認可保育園では、親が独身のほうが優先的に入所できることが多いからだ。

インターネット上では、ここまでして子どもを保育園に入れる親に対して「偽装離婚はひどい」「頭がおかしい」と批判の声も散見される。だけど、本当にひどくて頭がおかしいのは、ここまで待機児童問題を放置し続けてきた国のほうだ。

実は待機児童の問題は、もう20年以上も前から認識されていた。厚生省(当時)が待機児童問題の調査を始めたのが1994年のこと。その時すでに少なくとも2万6000人の保育園に入れない子どもがいた。

その後、待機児童の数は増え続け、2014年で待機児童数は公式発表で4万3000人だ。

しかし、この数は氷山の一角と言われている。子どもを持つ専業主婦の多くは「子どもを保育園に預けられれば働きたい」と考えているからだ。

専門家の試算によれば、潜在的な待機児童数は少なくとも100万人、中には300万人以上という推計もある。

日本には今、二つの大きな社会問題がある。少子化と労働者不足だ。

そんな時代に子どもを産んで(少子化解消の貢献)、なおかつ働きたいと思ってくれる(労働力不足に貢献)お母さんは、本来なら国が表彰してもいいくらいの存在だ。

それなのに現実に起きていることは完全に真逆。労働力不足と少子化解消に貢献しているはずの親たちは、地獄の保育園探しに苦しみ、苦肉の策として「一時離婚」という案をひねり出すと炎上する。

もう完全に異常だとしか思えない。

日本も実は「一人っ子政策」をしている

子育てをめぐる状況を聞けば聞くほど、実は日本も「一人っ子政策」をしていたのではないかと思えてくる。

高額な出産・育児費用。なかなか見つからない保育園。不足している育児支援の仕組み。子育てのしにくい労働環境。「お母さん」に対して異様に厳しい社会の目線……。

子どもを減らしたい国の政策だったら、惚れ惚れしちゃうくらいに完璧だ。

社会の制度も雰囲気も、笑ってしまうくらい子どもを持つ家族に厳しい。子育てに疲弊している親は僕の知人だけでも数え切れない。

日本は中国のように法律によって「一人っ子政策」をすることはなかった。しかし社会的には立派に「一人っ子政策」(下手したら「0人っ子政策」)をしているも同然なのだ。

もっとも、子育てとはそんな大変なことだけではないのだろう。

最近子どもが産まれた僕の友人も、「初めて他人に恋をした。人生ってこんな楽しいことがあるなんて知らなかった」とうっとりしていた(パートナーには恋していなかったのか)。

子どもを持った人の多くは、子どもを持つことの素晴らしさを語る。どう考えても人類ならだれでもできるだろうことに対して「うちの子どもはすごい!」と褒め称えたり、猿にしか見えない産まれたての赤ちゃんを「イケメン」と絶賛したりする。

そもそも、子育てが純粋な「罰ゲーム」で、かつ何らメリットのないことだったら、人類はどこかで滅んでいただろうから、それをただの苦行というつもりはない。

だけど現代日本の子育てをめぐる状況は、あまりにもおかしいことになっている。

国は「子ども・子育て本部」を作り、「少子化対策担当大臣」を任命し、何とか対策を立てようとしているらしい。しかし、一向に少子化が解決しないどころか、子育てをめぐる状況が良くなっているようにも思えない。

次回は、「子どもより猫が欲しい!? 日本の少子化の現実」

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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日・水曜日・金曜日に更新します。
古市さんのインタビューはこちらから