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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化3必要なのは、専業主婦のママも使える保育園【古市憲寿/保育園義務教育化・3」】

2016.11.02

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく新連載。

前回は、いまの日本では、子育てすることの不安が大きく、実際に子どもを育てるより猫や犬を育てる人のほうが増えている、という驚きの現象についてご紹介しました。

今回は、この書籍のタイトルにもなっている『保育園義務教育化』という考え方について、です。


(書籍『保育園義務教育化』「はじめに」より)

世界で始まっている保育園義務教育化

big game in plastic in the hall of kindergarten

この本では「義務教育」というのを柔軟な概念で捉えている。たとえば、子どもを保育園に預けるのは毎日でもいいし、週に1度1時間でもいいと思っている。

専業主婦の人でも、定期的に自分の時間を持ちたいと思うこともあるだろう。現在も一時保育などの制度は始まってはいるが、それをもっと柔軟にだれもが利用しやすくしたほうがいいと思っている。

児童虐待死の8割は、子どもが3歳の時までに起こっている。子育て経験のある人はよく「子どもに手をあげてしまう気持ちがわかる」という。誰にも相談できない、孤立した育児は、こうした最悪の事件を招いてしまう可能性がある。

また虐待死までいかなくても、専業主婦の人には育児不安が多いというデータもある。昔のように、地域や家族に無条件に育児を頼れない時代だ。バリバリと働く女性以外にも、保育園が必要なのである。

実は、義務教育の早期化は世界的な潮流だ。

フランスでは3歳からの義務教育化が真剣に検討されているし、ハンガリーでは2014年から3歳の義務教育が始まった。「保育園義務教育化」は世界的に見れば突飛なアイディアでもないのだ。

アメリカでさえも、オバマ大統領が誰もが就学前教育を受けられる環境を整えることが急務だと訴えている。

「保育園義務教育化」は世界的にブームの兆しが来ていると言ってもいい。

おうち保育園の誕生

保育園の質を心配する人がいるかもしれない。

最近では「保育崩壊」と言われることもあるように、保育の現場では質の低下が問題になっている。無理やり保育園の数だけ増やしても、悲惨な子どもが増えてしまうだけかも知れない。だから保育園の質の向上ももちろん重要だ。

また、保育園を増やすことに対して「ハコモノをこれ以上作るのか」とか「都心部には保育園を建てる土地はない」といった批判をする人がいるかも知れない。

実はそういった批判に応える、画期的な試みが始まっているのだ。

暑苦しいことで有名な社会企業家の駒崎弘樹さんたちが中心に進めている小規模保育園(「おうち保育園」)だ。

かつては認可保育園をつくるためには「子どもの定員数は20人以上」という決まりがあった。しかし駒崎さんの働きかけで、「子ども9名に対して保育者3名」といった小規模保育園は、国も認めるところとなった。

2015年4月に施行された法律によって「小規模認可保育所」が誕生したのである。

別名「おうち保育園」と呼ばれるように、小規模保育所はマンションやビルの一室に設けられることが多い。一般の保育園のように園庭などはない。

「園庭がない保育所」と聞くと悲惨なイメージが浮かぶが、「信頼できる保育士さんの家に子どもを預ける」と思えばいい。事実「アットホームで手厚い保育を受けられた」と利用者の満足度も高いという。

このような小規模保育所は、人口が減りすぎて、保育園自体が閉鎖されてしまうような地方でも活躍できる。家でもできるし、移転も簡単だ。

そう、「保育園義務教育化」といったところで、何も大きな保育園ばかりを作る必要はないのだ。

ちなみにこの本では「保育園」という言葉も広い意味で使っている。日本では法律上「幼稚園」と「保育園」という言葉が用いられているが、最近では共に「教育」を提供していたりどんどん差がなくなってきている。

だから本書の「保育園」とは、小学校に入学する前の「公的な就学前教育」という意味だと思って欲しい。別に保育所と幼稚園のどちらが優れているかという議論をするつもりもない。

日本全体の「レベル」を上げる

保育園義務教育化は、少子化対策だけに意味があるのではない。

実は、日本全体にとって非常に重要な「未来への投資」という意味もあるのだ。そしてこの点のほうが僕は大事だと思っている。

2章で詳しく見ていくように、実は子どもを教育するなら早ければ早いほうがいいということが明らかになっている。乳幼児期の教育は、子どもの学習意欲を高め、結果的にその後の進学率や平均所得を高めるという研究が多く発表されている。

乳幼児期の教育が大切というのは、きっと多くの人が直感的にも理解していることだ思う。事実、街にはたくさんの幼児教室があるし、書店に行けば膨大な数の幼児教育に関する書籍や雑誌が並んでいる。

そこでは知育玩具が大事とか、平均台やボール遊びをしなさいとか、鉄分や不飽和脂肪酸を欠かしてはいけないとか、無数の「0歳からすべきこと」がささやかれる。

全国の親たちは、子どもを賢く、そして健康にするために必死だ。

確かに自分の子どもの「レベル」を上げることも大事ではある。

だけど、せっかくなら自分の子どもだけではなく、この国に住むすべての人の「レベル」が上がったほうがいいと思わないだろうか。

そうすれば、自分の子どもが付き合う友人や仲間の「レベル」も上がり、結果的に自分の子どもの「レベル」も上がりやすくなる。

貧困と犯罪には関係があることがわかっている。もちろん、貧しい環境で育った人が全員犯罪者になるわけではない。だけど、子どもの頃にきちんとした教育を受けられずに罪を犯してしまう人も多い。

乳幼児期から全国民に対して、一定程度以上の教育をすることは、この国を豊かで安全にすることにもつながるのだ。

子どもを安心して育てられる国へ

僕は今年、30歳になった。今のところ結婚をする予定も、子どもを持つ予定もない。その意味でこの本は育児をする「当事者」が書いたものではない。

だけど、まだ結婚や子どもを持つことに踏み切れない多くの人間という意味での「当事者」ではあるし、保育や少子化は何も子どもを持っている人だけの問題ではない。子どもが産まれない国は、いつか亡びる。

今、日本は本当なら第三次ベビーブームが起こっているはずの時期だった。日本で団塊の世代(ビートたけしさんや平野レミさん世代)の次に人口が多い団塊ジュニア世代(SMAP世代)がちょうど出産適齢期を迎えていたからだ。

しかし、依然少子化は解決しないし、このままでは出産できる年齢の女性は減っていく一方である。現在の政権は少子化に対して「第三子支援」や「3年間赤ちゃん抱っこし放題」などの提案をしているが、そんなのんびりしたことを言っている場合ではない。

僕は何も、誰も彼もが子どもを産めと言っているのではない。

結婚するのか、しないのか。

子どもを持つのか、持たないのか。

それは個人の自由だ。だけど、今よりもう少し、「子どもを持ちたい」という人の希望が叶いやすくなる社会になるといい。

この本は「こんな社会になっていたら安心して子どもを産める」という希望とともに書いた。実際に子育てしている人にも、「こんな考え方もあるんだ」とか「こうなったらいいな」とか思ってもらえるような本になっていたら嬉しい。

次回は、「「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない」

「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日・水曜日・金曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから