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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化4「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない【古市憲寿/保育園義務教育化・4】

2016.11.04

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

前回は、「保育園義務教育化」という考え方が、突飛なわけではなく、実は世界の潮流である、ということについて説明しました。

今回から本論に入ります。まずは、第1章、この国のお母さんが置かれている状況について、古市さんが分析します。


(書籍『保育園義務教育化』「1章」より)

1章「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない

この国では、「お母さん」が日々取り締まられている。子どもが泣いた時は「すべて私が悪い」と謝罪することが求められ、ベビーシッターを使おうとすると「母性がないのか」と糾弾される。

そしてこの国は、「子ども」を大事にするあまり「お母さん」のことを心配しない国だ。

たとえば未だに子どもが3歳まではお母さんが育てるべきだという「三歳児神話」を信じている人がいる。

しかし、その神話は文部科学省が公式に否定している上に、専業主婦など、外部との交流がないお母さんほど育児不安になる割合が高いことがわかっている。また虐待死の多くも、子どもが3歳の時までに起きている。

「子ども」によかれと「お母さん」に対して強制していることが、実は必要以上にお母さんを苦しめているかも知れないのだ。「母乳教」もその一つだ。

それなのに、日本では父親の育児参加が世界的に見て、非常に少ない。育児の負担が過剰に「お母さん」一人に集中しているのだ。

この章では、現代日本における「お母さん」をめぐる異様な状況を見ていこう。

「最高のお母さん」が「毒親」になるとき

Little baby boy in stroller playing with his sock

ダウンタウンの松本人志さんがツイッタ―でつぶやいた一言が話題になった。

松本さんが、新幹線に乗った時、どうやら近くで子どもが騒いでいたらしいのだ。それに対して松本さんは、子どもに罪はないが、親には問題があるのではないかと、次のようなツイートをした。

新幹線で子供がうるさい。。。
子供に罪はなし。
親のおろおろ感なしに罪あり。。。

確かに松本さんの気持ちも想像できる。特に仕事で疲れて新幹線で寝ようとしている時だったら、子どもの泣き声がうるさく感じる時もあるだろう。その時、親が堂々としいていることに苛立つ場合だってあるかも知れない。

松本さんが出演する『ワイドナショー』という番組でも、このツイッタ―が話題になったことがある。僕が抱いた感想は「親と子どもは違う個体だから、仕方がないんじゃないか」というものだった。

日本では、子どもが小さい時には「悪いのはすべて私です」とオロオロするお母さんが好まれる。一方で、僕のように「子どもと自分は違う個体なんで」と堂々としている親は批判の対象になる。

つまり、母親と子どもが「一体」であることが求められているのだ。子どもが泣くのも、全部母親のせい。それはすべて母親が何とかすべきこと。子どもは母親の力で何とかできる。そんな風に信じているお母さんが「よき母親」とされるのだ。

だけど不思議なのは、そういったお母さんは、子どもがある年齢を超えると「毒親」扱いされてしまうことだ。高校生になっても、子どものすべてを支配しようとすれば、子どもからも社会からも「気持ち悪い」と言われてしまうだろう。

子どもの時に100点だったお母さんが、「毒親」や「モラ母」扱いされてしまうのだ。これってとっても不幸なことではないだろうか。

だったら、初めから「親と子どもは違う個体」という意識を徹底させ、「お母さん」と「子ども」を切り分けてあげたほうがいいと思う。

「ベビーシッター」を使ったらダメですか

人気ファッションモデルの道端アンジェリカさんが炎上した。彼女の結婚観に対してネット上で批判が殺到したのだ。

道端アンジェリカさんは日本テレビ系『解決!ナイナイアンサー』に出演、座談会形式で理想の結婚について語った。

そこで彼女は結婚しても「一週間に一回は男と女に戻りたい」と言い、子どもができたらどうするのという問いに「私は絶対ベビーシッターさん」と答えたのだ。「結婚して子どもができても一週間に一回は預けたい」と言い、夫婦の時間を大切にしたいということらしい。特に夜は旦那と二人きりで過ごしたい。そんな時も「ベビーシッターさんに寝かしつけてもらうのが理想」と答えている。

他にも結婚相手に求める年収は5000万円など、素直な意見が続く座談会だったのだが、一番問題視されたのは、彼女が無邪気に「ベビーシッターを使う」と発言していた箇所だった。

番組放送後、ツイッタ―などでは「育児をなめている」「こういう奴が子どもを産んだらダメ」「ベビーシッターを使うなんて子どもがかわいそう」「お母さんになって欲しくない」といった意見が飛び交った。

確かにアンジェリカさんが炎上しやすいキャラということはあったかも知れない。

だけど何も彼女は、育児放棄をしようというのではない。番組では、夜に二人で過ごすために昼間は子どもと精一杯遊び、子どもが寝やすくなるようにするとも発言している。それでも「子どもを誰かに預ける」という一点において糾弾されてしまったのだ。

ちなみに、出生率が高く、子どもを育てやすい国として知られているフランスでは、ベビーシッターを使うことは当たり前で、国から補助金も出る。実際、3歳未満の子どもの約2割は、主にベビーシッターが面倒を見ているという。

ベビーシッターの利用が「経費」としてさえも認められない日本とは大違いだ。

それにしても、僕もよく炎上するが、さすがに「ベビーシッターを使いたい」と言ったぐらいでは、ここまでの騒動にならないと思う。おそらく「お母さん」と「お母さん」予備軍には、通常よりも厳しい監視の目が向けられているのだ。

次回は、「産後の身体はガタガタなのに。お母さんを気にかけてくれない社会」
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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日・水曜日・金曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから