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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化5産後の身体はガタガタなのに。お母さんを気にかけてくれない社会【古市憲寿/保育園義務教育化・5】

2016.11.07

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

前回から本論に入りました。まずは、この国のお母さんの状況。ベビーシッターを使うことでバッシングされてしまうほど、子育ての負担はお母さんがするもの、という認識が浸透している日本。

今回は、そんな社会のなかでお母さんたちの感じる不安についてです。


(書籍『保育園義務教育化』「1章」より)

本当は「お母さん」を心配していない日本

Closeup photo of pregnant woman

2014年に子どもを出産したモデルの山田優さんも不幸な炎上に巻き込まれた。

まだ妊娠中だった山田さんが、インスタグラムに金髪のベリーショートにした姿を公開した時のことだ。出産と育児に備えて、ロングだった髪をばっさり切ったのだという。

これもまた炎上した。

「ヘアカラーは妊婦によくない」「妊娠中に金髪なんて信じられない」という意見がネット上で多く寄せられたのだ。何でもパーマ液が毛穴を通じて赤ちゃんへ届くのではないかという理屈らしい。

しかし医学的には妊娠中のヘアカラーが胎児に悪影響を及ぼすというデータはないようだ。専門家にも話を聞いてみたいと思って、『とくダネ!』のコメンテーターとして一緒になる産婦人科医の宋美玄さんにも話を聞いてみた。

宋さんといえば、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』の著者として有名(だけど最近は第二子を妊娠したこともあり、セックスに詳しいキャラを変えようとしているらしい)。

結論からいえば「そんなの心配ない。何でも文句つけたい人がいるんだよ」とのことだった。

宋さん曰く、「お母さん」に厳しい目線が向けられる一方で、実は「お母さん」本人のことを真剣には心配していないのが日本社会だという。特に、産後ケアの重要性があまりにも認知されていないというのだ。

実際、数多くの育児ノウハウはあふれているのに、子どもを産んだ「お母さん」の身体に対して日本はあまりにも無頓着だ。

お腹の大きい妊婦さんのことは周囲もすごく大事にするくせに、赤ちゃんが産まれた途端、みんなそっちに夢中。赤ちゃんを産んだ「お母さん」のことにまで目がいかなくなってしまうのだ。

産後ケアはとっても大事

だけど、出産は母体に大きなダメージを与える。宋さん自身も、「出産後の身体は本当にガタガタだった」という。

骨盤底筋群が痛んだり、骨盤そのものが緩んでしまうこともある。なので本来はできるだけ直立歩行をしないで1ヶ月くらいは安静にしていたほうがいいという。産後の早いうちから力仕事などをすると、最悪の場合、子宮脱になってしまうこともある。

今年、イギリスのキャサリン妃も第二子を出産後、翌日には病院から住まいのケンジントン宮殿に戻った。キャサリン妃のように身の回りのことをケアしてくれる人がいればいつ退院してもいいのだろうが、全ての人がそういうわけにはいかない。

日本には里帰り出産という習慣がある。

僕の友人たちも、出産後は実家に戻り、自分の親に1ヶ月くらいは育児を手伝ってもらうという人が多かった。自分の肉親で、しかも育児経験もあるということで、安心して一緒に赤ちゃんを育てることができるシステムだ。

しかし誰もが実家に頼れるわけではない。実家との関係が良好でない人もいるだろうし、親が働いていて忙しい場合もあるだろう。

そんな場合、「お母さん」たちは途端に孤独になってしまう可能性がある。なぜなら、日本の育児は、家族がいて初めて何とかなるようになっているからだ。

しかも男性の育児休暇取得率は約2%。それも、せいぜい数日程度。親に頼れない「お母さん」たちは、一番不安な時期の育児を、たった一人でしないとならない。

本当に「お母さん」のことを考えるなら、ベビーカーや金髪に目くじらを立てていても全く意味がないのだ。

赤ちゃんを持つことの不安と重さ

僕の友人に、最近ママになったファッションエディターの小脇美里さんという人がいる。彼女は育児を「じゃあよろしくねと、答えのない無理難題を与え続けられるようなもの」と表現していた。

生後まもない赤ちゃんは常に死の危険性があり、命をずっと預かるというプレッシャーははかりしれない。だから一瞬たりとも目が離せない。

育児には体力も知恵もかなり必要。周りの人は「かわいいでしょ、幸せでしょ」とは言ってくれるけど、その重みまでは背負ってくれない。

小脇さん自身は子どもが欲しいと強く望んでいたので、そのような「重み」に耐えられるという。だけど、誰もが覚悟と自覚を持って子どもを産むわけではない。

だから、本当はその「重み」を社会で分け合うことが必要なのではないだろうか。

僕が思ったのは、現代の育児というのは、相当の「情報強者」か「経済強者」でないと務まらないということだ。「赤ちゃんに何を食べさせたらいいのか」「子どもに黄疸が出たらどうしたらいいのか」「どこの保育園に入れるのがいいのか」など、無数の育児情報が世の中に溢れている。

親はその中から自分の子どもに最適そうなものを選ばなくてはならない。

その上、出産・育児にはお金がかかる。いくら出産育児一時金があるとはいえ、ほとんどの場合は妊婦健診、出産費用などには、10万円から数十万円の持ち出しが出てしまう。

さらにベビーカーやベビーベッドなどマタニティ用品にも平均10万円前後のお金がかかる。その後もオムツ代、粉ミルク代だけで毎月1万円以上の出費が出る。

しかも、都心にはオムツを売っているコンビニが少ない。ドラッグストアにさえも置いていないことがある(これを知らない独身者は意外と多い)。

それで結局「Amazonファミリー」に頼る人が多いようだ。実質年会費が無料で、オムツとおしりふきはいつでも15%オフ、それを最短当日に無料配送してくれる。

オムツと粉ミルクくらい国が送ってくれてもよさそうなものだが、なぜかアメリカ企業が都心のママの子育てを支えているのである。


次回は、「母乳?ミルク?の問題が、お母さんを追いつめる」
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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日・水曜日・金曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから