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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化8「子どもがかわいいと思えない」。理想と現実のギャップ【古市憲寿/保育園義務教育化・8】

2016.11.14

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

前回は、なぜ日本のお父さんたちは育児に参加できないか、ということについて。

今回は、子どもをかわいいと思えないほど、育児で孤立化してしまっているお母さんたちの現状についてです。


(書籍『保育園義務教育化』「1章」より)

哀しい叫び「子どもがかわいいと思えない」

もう40年以上前だが、「日本人にとって母とは、宗教のようなものだ」と指摘した研究者がいた。

日本の母たちは、常に子どものことを生き甲斐として、我が子のためになら喜んで自分という存在も犠牲にする。そして、子どもがどんな逆境に陥った時でも、母だけは必ず子どもの味方になる。そんな「母」が日本では戦中、戦後と理想とされてきた。

実際、テレビドラマや文学作品などに登場する母親は、全人生を子どもに捧げる「聖母」のように描かれている。確かに『サザエさん』でも『クレヨンしんちゃん』でも、日本の物語に登場する「お母さん」は、とにかく子どものためには献身的になる。

今でも母親に「聖母」性を求めている人は少なくない。

だから、道端アンジェリカさんの「ベビーシッター事件」のようなことが起こる。母親は遊んだりせずに、常に子どものことを考えていなくてはならないという考え方が、まだまだ今の日本に根強く残っているのだ。

しかし、これはあくまでも「お母さん」はこうあって欲しいという社会の勝手なイメージだ。

実際には「お母さん」もただの「人間」なのだから、子育てに疲れることもあるし、自分の時間を持ちたい時もある。

発達心理学者の大日向雅美さんの研究によれば、多く母親たちは今も昔も理想と現実のギャップに苦悩してきたという。

「子育ては楽しいと思っていたけど毎日がつらい」「子どもって、もっとかわいいものだと思っていた」「産まれれば母性が芽生えると思っていたけれど、子どもが何をしても泣きやんでくれない。首に手をかけていたこともある」

大日向さんのもとには、そんな悲鳴が子育てをしている母親たちから届くという。

少し古いデータになってしまうが、大日向さんが1994年に実施した全国調査によれば、「子どもがかわいく思えないことがある」という母親は実に78.4%、「子育てがつらくて逃げ出したくなる」と答えた人は91.9%にも及んだ。

また最近、日本保育協会が行った調査でも、10%の保護者が「子どものいない人がうらやましい」、16.3%が「子育てが重荷」、38.4%が「時間に追われて苦しい」と答えている。少なくないお母さんたちが苦悩の中にいるのだ。

ひとりぼっちの子育ては辛すぎる

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このような声を聞いて、「子どもを産んだんだから当たり前だろう」「育児は甘いものじゃない」と批判する人がいるかも知れない。

だけど、そもそもなぜ「お母さん」は減点法で評価されないといけないのだろう。

これが「お父さん」だったらどうだろう。ちょっと育児休暇を取っただけの人が「イクメン」と呼ばれるように、「お父さん」はほんの少しでも育児に関わっただけで褒められる傾向にある。

「私たちが若い頃は子育てに文句なんて言わなかった」という人がいるかも知れない。だけど、そういう批判をする人が忘れていることがある。

子どもをめぐる環境は昔とまるで変ってしまったのだ。

かつては、子育てを祖父母が助けることは珍しいことではなかった。しかし、厚生労働省の調べによると、児童のいる世帯のうち三世代家族の割合は約16%にまで下がっている。

親世代と子ども世代の別居化が進んでいるのだ。

さらに、この10年でも社会環境は大きく変わっている。三菱UFJリサーチ&コンサルティングによれば、2002年には「子どもを預けられる人がいる」と答えたお母さんの割合は57.1%だった。それが2014年の調査では27.8%にまで減っている。

さらに「子ども同士遊ばせながら立ち話をする人」「子連れで家を行き来できる人」「子育ての悩みを相談できる人」がいると答えるお母さんの割合も大きく減少した。

育児は今、ますます孤独になっているのだ。

次回は、「虐待をしてしまう親に共通すること」
連載第1回目から読む方はこちらへ

【「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない】
【産後の身体はガタガタなのに。お母さんを気にかけてくれない社会】
【「子どもがかわいいと思えない」。理想と現実のギャップ】
【虐待をしてしまう親に共通すること】
【将来の平均年収をUPさせる、子ども時代の4つのルール】

「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日・水曜日・金曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから