働くママのウェブマガジン

Column あの人に聞きました

保育園義務教育化13IQを高めるなら幼児期。乳幼児教育は、コスパがいい!?【古市憲寿/保育園義務教育化・13】

2016.12.19

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

まだまだ「人生の成功は6歳までにかかっている」という2章は続きます。前回は、アメリカの実験で、未就学児の子供に質の高い教育を受けさせたところ、人生で成功する確率が高くなったというデータがあるということ、彼らを成功に導いたのは「学力」より「非認知能力」だったという内容でした。

今回は「非認知能力」は乳幼児教育でこそ身につけやすい、コスパがいい、ということについてです。


(書籍『保育園義務教育化』「2章」より)

ノーベル賞受賞者が断言「5歳までの環境が人生を決める」

Two-year old girl throwing money into piggy bank. Shallow depth of field.

乳幼児期の教育が子どもの「非認知能力」を高め、それが「人生の成功」において非常に重要なこと。これを学問的に証明したのが、ノーベル経済学賞受賞者であるシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授である。

このヘックマン教授が最近、日本にも来ていた。その時、日本のメディアへのインタビューに対して「5歳までのしつけや環境が、人生を決める」と答えている。

その根拠として教授は、「ペリー幼稚園プログラム」よりも低い年齢を対象にして行われた「アベセダリアン・プロジェクト」を例に挙げていた。

この実験は、貧しい家に生まれた平均生後4.4ヶ月のアフリカ系アメリカ人を対象に行われたものだ。ここでもアメリカらしく、きちんと保育園に通わせるグループと、通わせないグループの比較実験が行われた。

保育園に通った子どもたちは、一日に6時間から8時間、週5日間、当時の最新理論に基づいた学習ゲームなどをさせられた。同時に教師は保護者面談を定期的に実施、家庭学習の進め方を教えた。

結果、どうなったか。

するとやはりペリー幼稚園プロジェクト同様の結果が出た。教育を受けた子どもたちは、学校の出席率や大学進学率が高く、「いい仕事」に就いている割合も高くなったという。

実験に参加した一人はテレビのインタビューに次のように答えていた。大学を卒業後、ニューヨークで就職、「人生の成功者」になった黒人男性だ。

「僕のことを賢いとか頭がいいとかいう友だちがいます。でもそうじゃない。僕は学ぶことが好きなだけです。勉強が好きになったのはすべて早期教育のおかげです。多くの人は勉強は学校に上がってからでいいと言いますが、僕には確信がある。学習はずっと前から始まっています」

そしてヘックマン教授は、これらの実験を踏まえてある残酷な事実を突きつける。

「20代で集中的な教育を施しても、幼児期ほどIQを高めることはできません」

「人生はいつでもやり直せる」とか「人生に手遅れはない」というが、実際は人生は後から挽回するのが非常に難しいというのだ。

最近、日本語訳が出版されたヘックマン教授の『幼児教育の経済学』という本でも、「学力」やIQなどは幼少期に確立され、大人になってから子どものIQや問題解決能力を高めるのが非常に難しいことが述べられている。

もっとも、ヘックマン教授とは違って、人生はもっと後からでもやり直せるという研究も存在する(じゃないと救いがないよね)。ただそれでも多くの研究者が賛成するのは、乳幼児教育のほうが「コスパ」がいいということだ。

マシュマロを我慢できた子どもは成功する

中室さんに教えてもらったこれらの研究は、非常にショッキングだが、同時に直感的に理解可能なものだ。

確かに、この社会、「学力」だけでは生きていけない。むしろ「やり抜く力」や「意欲」や「根気がある」といった「非認知能力」が重要になる局面は多い。

ヘックマン教授らの研究によれば、人生における「成功」は筆記試験で計れるような「賢さ」よりも、この「非認知能力」が重要になることがわかっている。

意欲や、長期的計画を実行できる力、他人と働くために必要な感情の制御が、大学進学率や年収、健康、犯罪率に大きく関係する
というのだ。

マシュマロ・テストという実験がある。

4歳から5歳の幼児たちに「今すぐに1個マシュマロをもらう」のがいいか、それとも「15分待ってマシュマロを2個もらう」のがいいかを選ばせる。

要するに、子どもたちの自制心を見る実験なのだが、このマシュマロ・テストをした子たちを追跡調査したのだ。

その結果、マシュマロ・テストで我慢できた子は、その後の人生で社会的成功を収める確率が高いことがわかった。

マシュマロを待てる秒数が長いほど、大人になった時に自尊心が強く、ストレスにうまく対処でき、肥満率まで(!)低かった。

小学校に入る前の段階で、人生の「勝負」の大部分がついているのだ。

もちろん、マシュマロを待てなかった子がみんな社会的敗者になるわけではない。自制心がなくても成功している人はたくさんいる。

勝手な推測だが、脳科学者の茂木健一郎さん(頭がモジャモジャしている人)は、マシュマロ・テストで我慢できなかったタイプだろう。

僕と対談した時も、同じ場所に長い時間座っているのが苦手らしく、突如立ち上がって会場中を歩き回ろうとしていた(残念ながら固定マイクだったので、転んでいた)。

[次回につづく]

これまでの連載はこちらから

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから