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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化14将来の平均年収をUPさせる、子ども時代の4つのルール【古市憲寿/保育園義務教育化・14】

2016.12.26

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

前回は、人生の成功のカギを握る「非認知能力は」乳幼児期の教育で身に着けやすい、つまり、コスパがいいということをご紹介しました。そのなかで、マシュマロ・テストという、「いますぐ1個のマシュマロをもらう」か「15分待ってマシュマロを2個もらうか」を選ばせる、自制心を見る実験が登場しました。マシュマロを我慢できた子がその後の人生で成功する確率が高いというのです。

今回はその続きです。


(書籍『保育園義務教育化』「2章」より)

「生まれ」は「育ち」で変わる

「生まれ」か「育ち」かという議論がある。

(前回ご紹介した)マシュマロ・テストのように、4歳から5歳の段階でその子の将来がある程度予測できてしまうなら、結局のところ「遺伝」ですべてが決まるということなのだろうか。

このあたりは専門家の間でも意見は分かれるところなのだが、最近の研究では遺伝子がすべてを決めるという考え方は否定されつつある。

なぜなら、どんな素晴らしい遺伝子を持っていても、その遺伝子が効果を発揮するかは、その人の生活習慣や環境次第だということがわかってきたからだ。

だから最近流行している遺伝子検査も、実は相当怪しいものだと言われている。

僕の友人(男性)は唾液を送る個人用遺伝子検査を受けたところ「エコノミー症候群と子宮筋腫に注意」という結果が返ってきたという。まったく役に立たない検査結果だ。

しかも、同じ唾液を送っても、調査会社ごとに検査結果が違うことも多い。遺伝子検査は、科学の装いをした占い(もしくは「呪い」)くらいに思っておくのがいいだろう。

環境が遺伝子にまで影響を与えるのなら、結局は「生まれ」と「育ち」をきれいに切り分けることができない。だからこそ、子どもの育つ社会的環境を整えることが大切なのだ。

夏休みの宿題ができなかった子どもは大人になっても太っている

Son gives mom a bunch of purple clover

しかしこうした研究は主にアメリカで行われたものだ。しかもペリー幼稚園プログラムなどは、いくら大規模実験といってもサンプル数は100程度だ。

限られたサンプルに対して行われた研究を、どれくらい一般化することができるものなのだろうか。

教育経済学者の中室牧子さんによると、アメリカではペリー幼稚園プログラムに限らず、アベセダリアン・プロジェクトなど類似の実験が行われてきた。

興味深いことに、それぞれの実験は、異なる時期に、異なる場所で行われた研究にもかかわらず、その結果は基本的に、ペリー幼稚園プログラムと同様の結果を示している。「乳幼児期の教育が重要だ」というのは、多くの研究で裏付けられているのだ。

またアメリカほど大規模な実験ではないが、実は日本でも似たような研究が発表されている。

行動経済学者の池田新介さんの研究によれば、子どもの頃、夏休みの宿題をギリギリまでやらず、休みの最後にしていた人ほど、借金が多く、喫煙傾向にあり、肥満者になる確率が高いのだという。

子どもの頃に自制心のない人は、大人になってからもダメなのだ。「なかなかダイエットに成功しない」と嘆いている人は、実は子どもの頃から身についてしまった習慣がそうさせているのかも知れない(救いがないけど納得できる)。

子どもの頃に受けたしつけが、その人の年収に影響を及ぼしているという研究もある。

京都大学の西村和雄さんたちの調査によれば、子どもの頃「うそをついてはいけない」「他人に親切にする」「ルールを守る」「勉強をする」という四つのことを教えられた人は、大人になってから、そうでない人と比べて平均年収が約57万円高かったのだという。

この調査は、「子どもの頃に周りの大人からよく言われたこと」を聞いたものだが、上記の四つのことが、他のしつけよりも効果があったことが証明されたという。

ちなみに高学歴の人と、そうでない人を比べた場合、「ルールを守る」などは高学歴の人が多く言われていた。一方で「ありがとうと言う」「大きな声を出す」などのしつけは、学歴には関係がなかった。

このような研究からわかるのは、子どもが小さい時の教育が、「人生の成功」において、いかに大事かということだ。

こういった研究結果を見て、「すごくわかる!」という人も多いのではないだろうか。たとえば締め切りを守ることとお腹が弱いことで有名な直木賞作家の朝井リョウくんも、夏休みの宿題は7月中にやるタイプだったらしい。

そして僕は、自分が「これからの人生に役に立つ」と踏んだ宿題はきちんと7月中に終わらせていたが、ラジオ体操やプールに行かなくてはいけないという宿題は、「これからの人生に必要ない」と自主的に放棄していた。

小学生の頃までに身についた習慣は、大人になってからもなかなか変わらないということらしい。僕の周りにもダイエットが趣味になっている人がいるが、そうした人は子どもの頃に持続性という「非認知能力」を身につけることができなかったのかも知れない。

次回は「スマホ時代の子どもにとって、「学力」より大切な「力」とは?
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古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
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