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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化16入試の知識は大人には不要。では生きるための力を学ぶには?【古市憲寿/保育園義務教育化・16】

2017.01.09

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

前回は、学校で身に着けるもののなかで大切なことは「意欲」「努力」「文化資本」といった、学力以外の部分なのではないか、という考え方についてご紹介しました。

今回は、その続き。そもそも学校でならった知識がどれだけ社会に出てから必要なのか、ということ。むしろ、正解がわからない時代に、自力で調べながら答えを探す「カンニング能力」こそ求められているのでは、という話です。


(書籍『保育園義務教育化』「2章」より)

そもそも、学校で習ったこと、覚えてますか?

ここでいきなりだが問題を出してみよう。

まず理科。

・アサリなどの軟体動物が体の表面を覆う膜を何というか。
・示準化石と示相化石とはそれぞれ何だろうか。
・一酸化炭素を吸い込むと体が危険な状態になるのはなぜか。

続いて社会。

・江戸時代末期、旧幕府軍が戦いを起こしたが破れ、戊辰戦争が始まるきっかけになった場所はどこか?
・「すべて国民は 健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書かれた憲法25条が規定している権利を漢字三文字で何というか。

これらは、すべて近年の東京都立高校の入試試験からの抜粋だ。

公立高校の入試というのは、当然中学校で教わるべきことの中から出題される。しかも中学校までは義務教育だ。つまり、上に挙げた問題は日本人であれば、解けないほうがおかしい問題ばかりのはずだ。

だが「示準化石」や「示相化石」なんて言葉を久しぶりに聞いた人も多いのではないだろうか。またマスコミでもよく話題になる生活保護だが、その根拠が憲法25条の「生存権」だとぱっと出てくる人はどれくらいいるだろうか。

繰り返すが、これらは中学生レベルの問題である。これが高校生となるとよりレベルが上がる。大学入試センター試験より難易度が低く、ネット上でも「簡単」とうわさされる高等学校卒業程度認定試験(昔の「大検」)の問題を見てみよう。

まずは「世界史B」。

・1597年にイスファハーンに都を移してサファヴィー朝最盛期を築いた君主は誰か。
・オーストリアの君主で、七年戦争においてプロイセンと戦った人物は誰か。

続いて「日本史B」。

・中世に堺の商人と結び、中国の寧波で勘合貿易の実権争いを展開した守護大名は誰か。
・江戸時代に繊維を染める染料として普及した米沢藩発の商品は何か。

履修科目にもよるが、高校進学率を考えると上の問題は日本中の誰もが解けてもおかしくない問題だ。特にこんな文字ばかりの本を読んでくれる人なら尚更だ。

でも正直わからなかった人も多いと思う。というか、僕がわからなかった問題ばかりを引用した。

要は、学校が教えてくれることで大人になってから必要な知識はごく一部なのである。言い換えれば、記憶とは反復によって定着するものだから、学生時代は覚えていても、生きるために必要のなかったことはどんどん忘れていくのだ。

人狼が弱くても生きていける社会

この一年くらい友人たちと、「人狼」や「タイムボム」、「レジスタンス」といったカードゲームにはまっている。下手したら12時間くらいひたすら人狼をしていたこともある。

しかし僕はこうしたゲームが基本的に弱い。自分で言うのも何だが、僕は一応「学歴」だけを見れば高い人間だし、学校の成績も基本的には良かった。

なのにこうしたゲームが明らかに弱いのだ。もしこの社会が「人狼」で社会的地位が決まる世界だったら、間違いなく落伍者になっていた。

ちなみに、僕の友人でダントツに人狼の才能があるのが佐藤健くんなのだが、彼は彼で「強そう」と周囲から警戒され、最後まで生き残れない。世の中難しいものだ。

この前、人狼の合間に「レジスタンス」というカードゲームをやった。

解放軍とスパイに分かれて勝敗を競うゲームである。解放軍は誰が味方か敵かわからない中で、うまく味方を見つけてミッションを成功させなくてはならない。

その中で「マーリン」という役職がある。解放軍の中で「マーリン」だけは、誰がスパイかを知っているのだ。通常はゲームにまるで貢献できなかった僕だが、この「マーリン」になった時だけは、やたら鋭くなり、勝負に貢献することができた。

当たり前である。「マーリン」は誰が味方かをわかっているのだ。自分を「マーリン」と名乗ることはルール上できないが、誰が味方かという情報をもとに、ゲームを有利に進めていくことができる。

ゲーム中には「古市くんが鋭すぎる。おかしい。マーリンでしょ」と何度も言われた。

しかし現実社会で「マーリン」になることは、決して難しいことではない。

本を読み、専門家に話を聞き、インターネットで正確な情報を取捨選択できれば、ほとんどの知識は手に入れることができる。何が「正解」かわからない時代だからこそ尚更、「カンニングする能力」が大事なのだ。

[次回につづく]

これまでの連載はこちらから

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから