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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化21ほとんどの病気の原因は「母親」にある!?【古市憲寿/保育園義務教育化・21】

2017.02.13

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

第3章では、私たちが当たり前のように使っている「母性愛」という言葉がそもそもなかったこと、子どもが大切に育てられたわけではなかったことなどを歴史的事実をもとにご紹介しています。

今回は、いまも聞かれる「三歳児神話」というのが、1960年代に作られた根拠のない話だということを紹介し、3章をまとめます。


(書籍『保育園義務教育化』「3章」より)

根拠なき三歳児神話誕生の起源

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文部科学省も「合理的な根拠がない」と公式に否定している「三歳児神話」が生まれたのも、ちょうど「専業主婦」が一般的になり始めた時期と一致する。

「三歳児神話」という「3歳までは母親が子どもを育てるべき」という価値観は、1961年に始まった三歳児検診がその起源と言われている。

この時の厚生省児童局長が「事情の許す限り、母親は職場から家庭へ本拠を戻してください」という考え方の持ち主だった。日本経済の発展、そして「立派な人間」を育成するために、乳幼児期の家庭教育が重要だと訴えたのだ。

そこでマスコミを巻き込んで、「三歳児」までの教育が大事というキャンペーンを展開させたらしい。

三歳児検診のスタートと共に、NHKは『三歳児』という母親向け幼児教育番組を制作、書籍化もされ50刷を超えるベストセラーとなった(うらやましい)。新聞などでも三歳児特集が繰り返し組まれ、「三歳児神話」の布教がどんどん進んでいった。

さらに1979年には小児科医の久徳重盛さんの『母原病』という本がベストセラーになる。この本は、現代の子どもの異常の60%は母親の育児が原因であると断じ、「母親が原因の病気」である「母原病」が流行していると述べた。

乳幼児期の母親が育児方法を間違うと、ぜんそくやアトピー性皮膚炎、不登校、過食・拒食になるというのが同書の主張だ。久徳さんはとにかく何もかもを母親のせいにしたいらしい。

特に久徳さんが大事だと訴えたのは3歳までの教育だ。

「他人任せの育児をする母親」が増えてきたことに久徳さんは警鐘を鳴らす。3歳までに保育園に預けられた子どもたちは「基本的な人間形成に障害があらわれやすい」というのだ。

『母原病』は続編も出版され、100万部を超えるヒット作になったというが、全体的に根拠がほとんどない「私の経験」本だ。確かに小児科医としての臨床経験はあるのだろうが、本当は久徳さんが、病気の原因を「母親」と断定できるはずがない。

確かに2章で見てきたように、乳幼児教育の重要性は教育経済学者たちも認めるところである。だが、それは何も「母親」だけが担わなくてはいけないものではない。

おそらく久徳さんの病院を訪れたのは、当時の専業主婦率の高さを考えれば「母親」ばかりだったのだろう。

そりゃ、母親ばかりを見ていればほとんどの病気の原因が「母親」に見えてくるのも不思議はない。しかし本当は、病院に子どもを連れても来ない「父親」に原因がある家庭も多かっただろう。

「母性」にすべてを押しつけるな

「三歳までの教育が大切だ」という主張と「それは母親がするべきだ」という主張は、全く別のものだ。

この章で見てきた通り、「母親だけが子どもを育てる」のは日本の伝統でも何でもない。むしろ「育てられない子どもを捨てる」という風習のほうが、歴史的には「日本の伝統」と呼ぶのにふさわしい。

また江戸時代には父親が積極的に育児に関わっていたというし、明治時代以降も、「産みの親」と「育ての親」が違うという人は珍しくなかった。

海外を見渡してみても、「母親だけが子どもを育てる」というのは普遍的な現象ではない。

フランスはベビーシッターを活用しながら両親で子どもを育てるのが当たり前だし、北欧では父親の育児参加時間も高く、「専業主婦」自体ほぼ存在していない。またアフリカやアジアの貧しい国では、生活をしていくために男女共働きが当たり前だ。

人類は時代や環境に応じて、育児をしてきた。それなのに「母性本能」や「三歳児神話」という言葉で、「母親」だけに「育児」を任せてしまう発想はとても短絡的だ。そしてそれは、父親や社会から子どもを育てる機会を奪ってしまうとも言える。

確かに、「専業主婦」という存在が合理的な時代もあったのだろう。しかし、時代は変わった。今や家事もだいぶ楽になった。家を守るのはセコムとルンバにでも任せておけばいい。機械にできることに忙殺される必要はない。

3章のポイント

・「母性」は「本能」ではなく、社会や環境が生み出したもの
・江戸時代半ばまでは、道に子どもが捨てられている光景が当たり前だった
・「母性」「母性愛」という言葉が日本で初めて使われたのは大正時代
・専業主婦は大正時代に生まれ、戦後に普及した新しい生き方
・「三歳児神話」は1960年代に「創られた」もの

次回は、「「専業主婦」は極めてリスキー。その理由は?」

連載第1回目「女性が「お母さん」になった途端に、できなくなること」

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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
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