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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化24夫婦にとって最大・最強の「保険」とは? 【古市憲寿/保育園義務教育化・24】

2017.03.06

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

女性が待望される時代。「男らしさ」が社会から求められることが少なくなったいま、女性の活躍の場所は広がっています。第6章も今回で終わり。「共働き」は、家庭を営んでいくうえで、最大のリスクヘッジ、という話です。


(書籍『保育園義務教育化』「6章」より)

日本と韓国だけ! 女性が育児に追われて働けない社会

社会は女性化しているのに、制度がそれに追いついていない。現代に適応しているという意味で「優秀」な女性を活かす環境が十分に整っていないのだ。

たとえば今でも日本では女性が出産や育児の期間、休職することが珍しくない。

年齢別の労働力曲線が30代で凹むことから「M字型曲線」と呼ばれるが、この「M字」が残るのは日本と韓国くらいのものである。

ヨーロッパでは1970年代に労働力不足が深刻になってから、出産を挟んでも女性が働き続けるのは当たり前のことになった。

それが日本では今でも「仕事を続けるか、子どもを産むか」の二者択一を迫られる女性が少なくない。特に都市部では待機児童問題が深刻で、近親者の助けがなければ子どもを育てながら仕事なんてできない。

この状況は、あらゆる意味で不幸だ。働く女性自身が大変なのはもちろんだが、この本で繰り返してきたように、それは国家存亡の危機と言っても過言ではない。

女性が子どもを産みにくい社会では少子化が進む。

少子化が進むと、現役人口に対する高齢者人口の割合はますます増えるから、世代間格差は深刻になる。戦争が起こったわけでもないのに、これほど急激に人口が減っていく社会は歴史上ほとんど例がない。

逆にいえば、この状況を変えることができるならば、社会には希望が生まれる。

デンマークの社会学者エスピン=アンデルセンは、女性の役割の変化こそが、社会に革命をもたらすと言う。

ロジックはこうだ。まず女性が働きやすく、子どもを産みやすい環境を整えれば出生率が上がる。育児休暇や保育施設の拡充などがこれに当たる。出生率が上がれば世代間格差のバランスも改善する。

女性が育児期間中も働けば、その分税収が増える。女性がキャリアを中断しないで働いてくれれば、その分生涯所得も世帯所得も上昇する。課税基盤が安定する。

さらに、たくさんの子どもを持つ共働き世帯が増えれば、新規産業と雇用が創出される。保育園やベビーシッターはもちろん、託児サービス付きのレストラン、遊園地など「子ども」向けのサービスが多く生まれて、経済も潤う。

要するに、いいことばっかりなのだ。「働く女性が増えると日本の伝統的な家族が崩れる」なんて妄言を吐く人もいるが、このままでは伝統的な家族どころか日本自体が崩壊してしまう。保守派の人ほど少子化を真剣に考えるべきだ。

まあ今まで散々、女性に育児や家事を押しつけてきて、経済がやばくなると今度は「女性が社会を変える」なんて言うのは、ちょっと都合良すぎる気もするけど。

共働きは家庭を営んでいく上でのリスクヘッジ

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これからは「女性の時代」だってことを散々説明してきた。でもそれは男性が今より不遇になるという意味ではない。むしろ女性の時代の到来は、多くの男性にとっても生きやすい社会になるはずだ。

男女が共に働くようになれば、男性だけが長時間労働をする必要はなくなる。

世帯単位で考えても、男一人が16時間働くのは大変だが、男女がそれぞれ8時間働くのならば現実的だ。

共働きは家庭を営んでいく上でのリスクヘッジにもなる。どちらか一人が失業しても、もう一人がカバーすることができるからだ。こんな不安定な時代に、たった一人が家族を支えるなんて無理があるに決まってる。

『世界一受けたい授業』でジェンダー論を教えた東京大学教授の瀬地山角(「せち・さんかく」ではなく、「せちやま・かく」)さんは、「将来は専業主婦になりたい」という女子学生に対して、「それは否定しないが、それによって失う生涯賃金が1億も2億もあることを知った上で判断してほしい」と伝えるという。

日本では、子どもが生まれても働き続ける女性の割合が未だに少ないが、実はそれは相当の生涯賃金の損失になっているというのだ。

たとえば年収350万円だとしても、出産後25年間働き続ければ、退職金や年金をあわせて約1億円の収入になる。女性が大卒で、もっと条件のいい会社に勤めていれば、この金額は2億円以上になる可能性がある。

一方で、夫に対して「今よりも2億円多く稼いで」というのは、至難の業だ。「私が内助の功で旦那を支える」という人がいるかも知れないが、夫の生涯賃金を2億上げるのはそれはもう一大プロジェクトだ。

それよりも、自分も働いて男女共働きになれば、世帯の生涯賃金は確実に上がる(もちろん、そのためには男性が育児・家事を積極的に関わるのが必須だ)。結婚して男女がともに働くことは「最大の保険であり、最大の金融商品だ」と瀬地山さんは言うのである。

男性が強がる時代の終わり

同時に瀬地山さんは、「結婚はゴール」という幻想に対しても突っ込みをいれる。

瀬地山さん曰く、結婚を「永久就職」と呼ぶのは、「倒産率3割の会社に入って喜んでいるようなもの」だ。

厚生労働省の調べによると、現在の日本は結婚しても3組に1組が離婚する時代だ。「もし週刊誌などで『倒産確率3割』と噂されている会社に入れて喜ぶ人はいないだろう。互いのリスクヘッジのためにも、やはり男女共働きのほうが合理的」と瀬地山さんはいう。今まで男性は過剰に下駄を履かされてきたのだろう。

本当は弱くて、卑屈で、頼りない人であっても、強く、たくましく、マッチョであることが求められてきた。それは経済成長期の社会の要請でもあった。国家を背負い、家族を背負い、ねずみ色のスーツに身を包み、一心不乱に生きてきた。

だけど、そんな愚直な生き方を褒めてくれるのも、今では中島みゆきくらいだ。

もう男性が強がる時代は終わりだ。同時に、男性に期待をしすぎる時代も終わりだ。

履かされていた下駄を脱いで、男女共に同じ目線でフラットに世界を眺めてみればいい。それは意外と楽しい経験かも知れない。

6章のポイント
・独身男性のうち年収400万円以上はわずか25%
・「男性」に有利な職業が減少し、「女性」に有利な職業が増加している
・「女らしさ」を求めるのもセクハラなら、「男らしさ」を求めるのもセクハラ
・共働きは家庭を営んでいく上でリスクヘッジ

[次回につづく]

連載第1回目「女性が「お母さん」になった途端に、できなくなること」

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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
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