働くママのウェブマガジン

Column あの人に聞きました

保育園義務教育化26英才教育ではない。世界が注目する義務教育 【古市憲寿/保育園義務教育化・26】

2017.03.20

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

長きにわたった連載も、今回から最終章に入ります。


(書籍『保育園義務教育化』「7章」より)

「義務教育」にはみんなが従う

「保育園義務教育化」ではなく、「保育園無償化」でもいいと思うかも知れない。この本のタイトルを色々な人に相談していた時も「義務というニュアンスはきつすぎる」とアドバイスをくれた人がいた。

だけど「義務教育」と呼ぶことで、子どもを保育園に預ける時の「後ろめたさ」を感じてしまう人の、抵抗感を軽減できると思ったのだ。

国までが根拠がないと認める「三歳児神話」だが、「小さい子を保育園に預けるのはかわいそう」という偏見がまだまだある。

また、ベビーシッターを使うことに理解が得られなかったり、育児を「外注」することに、この国では抵抗感がまだまだ根強い。

一方で日本は「お上」の言うことには比較的従ってしまう国だ。特におじさんにその傾向が強い。

頭著な例が「クールビズ」だ。

少し前まで日本のサラリーマンたちは均熱の夏でもスーツにネクタイをするのが当たり前だった。それが「クールビズ」という「お上」からの号令によって、夏の日本には男子高校生の制服を着たみたいなおじさんが溢れることになった(褒めてます)。

みんな「国が言うから仕方ない」「上が言うんだから仕方ない」と、堂々と軽装の言い訳ができるようになったのだ。

同じように子どもを小学校や中学校に行かせることに、「賛沢だ」とか「子どもがかわいそう」と言う人はいない。なぜならそれが「義務教育」であり、「行くことが当たり前」だからだ。

「保育園」も「義務教育」とすれば、「国が言うから仕方なく保育園に行かせている」という言い訳を誰もが堂々と使うことができる。ここは「女性」ではなく、「国」が悪者になるべきだ。

保育園義務教育化は人生の成功者を増やす

furuichi_26

「保育園義務教育化」は、子どもにとっても意味があることだ。

2章で見てきたように、教育経済学の分野では、「子どもの教育は、乳幼児期に一番お金をかけるのがいい」ということが定説になっている。アメリカでは様々な実験が行われてきたが、その多くが「良質な保育園に行った子どもは、人生の成功者になる可能性が高い」といった結果を示している。

それは、赤ちゃんに対して数学や英語などの英才教育を施せばいいという話ではない。

良質な保育園に通った子どもたちは、そこで「非認知能力」なるものを身につけていたのだ。

「非認知能力」とは、意欲や忍耐力、自制心、想像力といった広い意味で、生きていくために必要な力のことである。

「非認知能力」は人生の成功において非常に重要なのだが、それは小学校に入る前の段階で磨くのが一番いい。たとえば、夏休みの宿題がぎりぎりまでできなかった子どもほど、大人になっても計画性がないことがわかっている。

そして「非認知能力」は集団の中でこそ磨かれるものだという。だから、育児は家でひっそりするよりも、みんなの中でしたほうがいい。

その意味で、「保育園義務教育化」は全国の子どもたちにとって、今すぐにでも実施したほうがいいアイディアなのだ。

実は、ノーベル経済学賞を受賞したへックマン教授の功績もあり、乳幼児教育の重要性に今、世界中の国々が気付き始めている。

フランスではすでに3歳からの保育園は無料だし、その義務教育化も検討されている。イギリスや韓国では、義務教育の年齢を5歳にまで引き下げている。

さらにハンガリーでは2014年から3歳からB歳までが義務教育となり、国が幼児期の子どもの発達に責任を持つことになった。

[次回につづく]

連載第1回目「女性が「お母さん」になった途端に、できなくなること」

こちらも読んで!
【「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない】
【産後の身体はガタガタなのに。お母さんを気にかけてくれない社会】
【「子どもがかわいいと思えない」。理想と現実のギャップ】
【虐待をしてしまう親に共通すること】
【将来の平均年収をUPさせる、子ども時代の4つのルール】

「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから