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保育園義務教育化27人生を成功に導く力は、保育園でこそ磨かれる【古市憲寿/保育園義務教育化・27】

2017.03.27

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

長きにわたった連載も最終章。ここであらためて「保育園義務教育化」というアイディアが持つ可能性についてご紹介します。


(書籍『保育園義務教育化』「7章」より)

保育園義務教育化は人生の成功者を増やす

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「保育園義務教育化」は、子どもにとっても意味があることだ。

2章で見てきたように、教育経済学の分野では、「子どもの教育は、乳幼児期に一番お金をかけるのがいい」ということが定説になっている。

アメリカでは様々な実験が行われてきたが、その多くが「良質な保育園に行った子どもは、人生の成功者になる可能性が高い」といった結果を示している。

それは、赤ちゃんに対して数学や英語などの英才教育を施せばいいという話ではない。

良質な保育園に通った子どもたちは、そこで「非認知能力」なるものを身につけていたのだ。

「非認知能力」とは、意欲や忍耐力、自制心、想像力といった広い意味で、生きていくために必要な力のことである。

「非認知能力」は人生の成功において非常に重要なのだが、それは小学校に入る前の段階 で磨くのが一番いい。たとえば、夏休みの宿題がぎりぎりまでできなかった子どもほど、 大人になっても計画性がないことがわかっている。

そして「非認知能力」は集団の中でこそ磨かれるものだという。だから、育児は家でひっそりするよりも、みんなの中でしたほうがいい。

その意味で、「保育園義務教育化」は全国の子どもたちにとって、今すぐにでも実施したほうがいいアイディアなのだ。

実は、ノーベル経済学賞を受賞したへックマン教授の功績もあり、乳幼児教育の重要性に今、世界中の国々が気付き始めている。

フランスではすでに3歳からの保育園は無料だし、その義務教育化も検討されている。 イギリスや韓国では、義務教育の年齢を5歳にまで引き下げている。

さらにハンガリーでは2014年から3歳から16歳までが義務教育となり、国が幼児期の子どもの発達に責任を持つことになった。

保育園義務教育化はコスパがいい

このように、世界各国で乳幼児教育に積極的に取り組んでいるのは、何もただの善意からではない。子どもの時に良質な保育園に入れる人が増えれば、その社会は犯罪者や生活保護受給者が減る。

結果的に、「コスパ」がいいのだ。

これまで国がやる福祉といえば「再配分」が多かった。お金持ちからたくさん税金を取って、貧しい人に生活保護をわたすといったやり方だ。

だがへックマン教授は「事前分配」の大事さを訴える。日本でも「生活保護」にはバッシングも大きいが、「恵まれない子どもたちの環境を改善しましょう」という考え方に反対できる人は少ないだろう。

特に格差が広がる社会ほど、「保育園義務教育化」が重要となる。

日本ではこれまで、多くの子どもたちは「非認知能力」を家庭や地域で身につけてきたのだろう。社会全体に格差が少なく、豊かな時代はそれでよかった。

しかし、これから日本社会ではそうもいかなくなる。犯罪が多くて、みんなが疑心暗鬼のギスギスした社会に住みたい人はいないだろう。だからこそ、良質な保育を誰もが受けられる環境を作ることが必要なのだ。

「保育園義務教育化」は子どもを持つ、持たないに関係なく、社会のために必要なのだ。

日本も認める乳幼児教育の大切さ

実は、日本としても乳幼児教育の重要性は認めている。

2006年には教育基本法が全面改正されたのだが、その「義務教育」の項目で、旧法にあった「9年」(小学校と中学校)という文言を削除したのだ。これは、これから就学時期を今の6歳から引き下げることを見越してのことであるという。

さらに新しい教育基本法では、「幼児期の教育」という項目を新設している。

教育基本法第11条
幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法 によって、その振興に努めなければならない。

要は、子どもの時の教育は非常に大事なんだから、国や地方自治体は全力を尽くさなくてはならないということだ。

また2006年の国会の予算委員会でも安倍晋三首相(一度目のとき)が幼児教育の「将来の無償化」を検討、「教育費負担の軽減に向けて努力」をしていくと述べている。

もっとも教育基本法が改正されてから10年近く経つのに、一向に待機児童問題さえ解決しそうにない。

[次回につづく]

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古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
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