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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化29大切な職業なのに。保育士の年収は小学校の先生の半分以下!?【古市憲寿/保育園義務教育化・29】

2017.04.10

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

長きにわたった連載も終盤。保育園義務教育化にとって必要な「保育の質」をあげていくために。前回は保育園を立てるために必要な土地をどうやって確保するか、という話でした。今回は、なかなか改善されない保育士さんたちの待遇についてです。


(書籍『保育園義務教育化』「7章」より)

もちろん!保育園の質も大事

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もちろん、保育園もただ増やせばいいという話ではない。

ジャーナリストの小林美希さんは、悲惨な保育現場を報告している。

窓がなく薄暗い部屋で、おしゃべりに夢中な保育士。破れたジャージの裾を引きずって、言葉遣いも乱暴で、子どものお手本になるとは思えない。園庭がないのに散歩もない。

今、そんな保育園が目立ってきているという。

「保育園義務教育化」を考えるにあたっては、当然、保育園の質も重要だ。2章で見たペリー幼稚園実験やアべセダリアン・プロジェクトなど、子どもたちの成功に寄与したのはあくまでも「質の高い保育」だった。

一言に「保育の質」と言っても、基準は様々だ。「公立保育園は素晴らしいが、私立はちよっと」みたいなことを言う人もいる。

だけど、アメリカの「保育の質」に関する調査では、「保育者と子どもの人数比」が一定の割合(15ヶ月までは子ども3人に対して保育士1人)を超えると、保育士が十分に子どもの呼びかけに対応できず、子どもの発達にいい影響を与えないことがわかっている。

このように保育士さんの「人数」は、「保育の質」を測る一つの基準となるだろう。

だから「公立保育園」や「認可保育園」が素晴らしくて、「私立保育園」や「認可外保育園」が悪いといった単純な話ではない(これも母乳神話と同じく、神学論争のようになっている)。

そして、「保育の質」を底上げするためには、不幸な事故を防止するための仕組み作りをしていくことが必要だ。

たとえばこれまで、保育園で重大事故が起きたときに、その情報開示を求める法律はなかった。不幸にも事故に巻き込まれた子どもの事故が「個人情報だから明かせない」というめちゃくちゃな論理で隠されそうになったこともあった。

しかし現在、情報開示とデータベース作りが始まっている。これが実現すれば、重大事故の教訓が共有され、保育園全体の質の向上にもつながる。

このように、情報公開と情報共有によって、「保育の質」を高めていこうという動きが始まっている。

保育士さんの待遇問題

「保育の質」を考える上では、当然、保育士さんの労働環境を整えることも大事だ。

だが最近では、保育士さんの待遇の悪さが問題になっている。

病院であればたくさんの患者を診ればいいが、保育園では定員が決められている。補助金の金額も決まっているから、どうしても給料が頭打ちになってしまうのだ。

だから保育士を続けている限り、結婚をして子どもを持っことができないなんていう、笑えない笑い話もある。

だけど、これはよく考えなくてもおかしな話だ。

世界中の経済学者たちが、質の高い乳幼児教育の重要性を訴えている。それならば、その大切な乳幼児期の保育に携わる人には、きちんとした待遇を社会として提供していく必要があると思う。

実際、最近では保育士不足が深刻になっている。保育士免許を持っている人が足りないというよりも、労働条件の悪さに「潜在保育士」になってしまう人が多いのだ。

東京都の調査によれば、離職を考えている人の理由の一位は「給料が安い」、二位は「仕事量が多い」だ。実際、正職員の場合一週間に6日以上働いている人が31.2%、一日あたりの勤務時間が9時間以上の人は47.6%もいるという。

保育士の平均月収は約21万円、年収で約310万円だ(残業代やボーナスなどを含む)。全年齢での平均なので、若い先生の給料はもっと低い。小学校の先生の平均年収(693万円)の半分以下だ。

僕の知り合いの保育士さんも手取り13万円程度で、3年間ほとんど昇給なしで、毎日何時間ものサービス残業が課されるという環境で働いていた。結局、彼は保育士を辞めて、現在は別の仕事をしている。

なぜ保育士さんの給料は、小学校の先生や大学の先生よりも低いのか。日本の教育基本法でさえ大切だと認める乳幼児期の教育なのだから、どうして保育士の待遇をよくできないのだろうか。

良質な保育を受ける子どもが増えれば、生活保護受給者も減るし、犯罪率も減る。つまりそれは結局、国の税金の節約になる。そして子育て支援は女性の労働力率を増やすから、経済成長にもつながる。

それほどに保育士さんは、この国にとって大切な職業なのだ。

だったら待遇改善のために、税金を使わない手はない。

若者にお金を使わない国

日本は、世界的に見ても若者や子育て世代に、ほとんどお金を使っていない国だ。

OECD諸国と比べると、高齢者向けの社会保障支出は「平均なみ」なのだが、現役世代向けの社会保障支出が「平均より全然下」ということがわかっている。

要するに、高齢者に対する介護や医療にはきちんとお金を出しているのに、この本で散々見てきた通り、子育てや育児に対する国からの支援が本当に少ないということだ。

就学前の子どもには年間約100万円しか支出されていないのに、100歳の高齢者に年間約500万円が支出されているという試算もある。

もちろん、誰もが高齢者になるのだから、安心して老後を迎えられる国を作ることには反対しない。

しかし、高齢者の生活のために若者や現役世代の生活が犠牲にされるのも違うだろう。

そして当然ながら、現役世代に対する社会保障支出が多い国ほど、出生率が高くなることがわかっている。

2014年の消費増税も、そもそもは「将来世代のために」という理由で行われたものだった。しかし実際は、「若者やこれから生まれてくる子ども」のために使われるお金は、ほんの一部だった。

仮に消費税が5%から10%に引き上げられたとして、そのうち出産・子育て休暇支援、女性の再就職支援にいくのはわずか0.3%である。これだけ少子化が話題になり、待機児童問題が深刻だというのにもかかわらず、「わずか0.3%」だ。

[次回につづく]

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連載第1回目「女性が「お母さん」になった途端に、できなくなること」

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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
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