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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化30ついに最終回。「待機児童問題」を解決するたったひとつの方法【古市憲寿/保育園義務教育化・30】

2017.04.17

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

いよいよ最終回。「保育園義務教育化」のメリットについて、これまでの連載のなかでたくさんお伝えしてきました。実現できたら、常にニュースになる「待機児童問題」もすぐに解決できるはず。でも、問題山積みの今の社会を変えていくことはできる? 古市さんからのラストメッセージです。


(書籍『保育園義務教育化』「7章」より)

増税に見合うだけの安心を与えて欲しい

『ワイドナショー』に出演した時、子どもの数(14歳以下の人口)が34年間減少し続け、過去最低の1617万人になったというニュースが取り上げられた。全人口に子どもの占める割合は41年連続で減少して、わずか12.7%になったという。

このとき、コメンテーターとして同席していたウーマンラッシュアワーの村本大輔さんは、次のような解決策を提案していた。

「僕たちが税金をたくさん払って、結婚している家族にサポートしてあげればいい」というのだ。なぜなら今の日本で子どもを育てるのにはとてもお金がかかるから。事実、彼の相方は子どもがいるため、飲み会を断ったりと節約にいそしんでいるという。

村本さんの発言は正直すべりまくっていたが、この部分だけはなるほどなと思った。

同じように、「きちんと理由を説明してくれれば税金が上がってもいい」と考える人は多い。品川庄司の庄司智春さんは、『朝日新聞』の取材を受けて、「増税に見合うだけの安心を僕たちに与えて欲しい」と語っている。

政府は消費増税で得られた財源を年金や医療、介護や子育て支援に充てるといっている。庄司さんはそれを「素直には信じられない」という。

増税に関しても「未来の保障を人質のようにして、消費増税を渋々認めさせる。ちょっと、やり方が荒っぽくはないか」と異議を唱える。

しかし庄司さんは「税金を払いたくないとは、言っていない」という。増税するならば、それで社会がこんな風によくなるということを具体的に示して欲しいと提案する。

「出産した女性が安心して働ける。年をとっても、老後を快適に過ごせる。子どもは、夢に向かって頑張れる。そんな環境を、整えてもらいたい」

そんな社会のためだったら、税金を払うというのだ。おそらく庄司さんの気持ちは、少なくない国民の声を代弁している。

事実、世論調査によれば「今よりもよりよい安心のためなら、より高い税金を払ってもいい」と考えている国民は半数以上いる。

また、税金を「高い」と思うか「安い」と思うかは、「税金がきちんと使われている」という実感と関係していることもわかっている。

だが驚くことに現在の日本では、「共働き世帯」に対しては、税金や社会保障が貧富の格差を拡大させてしまっている。取るべきではない人から税金を取りすぎ、それが必要な人に行き渡っていないのだ。

十分な所得がある独身者は多く税金を払う。一方で、子どもがいる家庭には、育児にほぼお金をかけなくてもいいくらいの環境を提供する。

そんな風に、余裕がある人が、余裕のない人を助けられる社会になるんだったら、税金を払ってもいいと思う人も増えるんじゃないだろうか。

僕たちは優しい社会に生きている

furuichi30

全ての保育園を無償にして、それを義務教育にするなんて、夢物語と思う人がいるかも知れない。だけど、社会は少しずつ、だけど確実に変わってきた。

3章で見たように、昔の日本人は路上に生まれたばかりの赤ちゃんが捨てられていても、何の気にも留めなかったらしい。しかし現代では、捨て子は立派なニュースになる。万が一、捨てられた子どもも、児童養護施設などで手厚く保護されることになっている。

僕たちは、まだまだ不十分とはいえ、昔に比べれば、はるかに優しくて、思いやりのある時代を生きている。

これはどうやら、世界的な潮流らしい。

テレビをつければ、悲惨な戦争やテロ、凶悪犯罪ばかりが目に付く。それが僕たちの世界を、どんどん悪くしているように思ってしまう。

だけど、これは完全な誤解なのだ。世界では今どんどん戦争や紛争、テロが減り、かつてないほど「平和な時代」が訪れている。

文明が生まれる前の部族社会では、毎年人口の0.5%が戦闘で死んでいたという推計がある。要するに、部族間で戦争ばっかり起こり、人が人を殺しまくっていたのだ。今の日本に当てはめれば、実に毎年63万人が戦いで命を落としている計算になる。

そんな時代と比べると、現代日本は信じられないくらい平和な社会だ。

たとえば殺人によって亡くなった人は1955年には2119人もいたが、2014年には357人まで減っている。激減と言っていいだろう。

数が減っているからこそ、一つ一つの殺人事件をニュースやワイドショーが大きく取り上げる。

だからこそ僕たちは、世の中が悪くなっていると錯覚してしまう。実際のこの社会は、どんどん住みやすくなっている。

スマートフォン一台があれば、いつでも友だちとコミュニケーションをとることができる。家の近所のレストランで世界中の料理を食べることができる。格安航空券で世界中を旅することができる。

僕たちの多くは、あのルイ14世もできなかったような豊かな生活を送っているのだ。

社会は変わってきたし、変わっていく

なぜ、待機児童問題は解決されず、「お母さん」は「人間」扱いされず、若者と子どもにお金が使われない国なのだろう。

それは単純に、人々の生き方や価値観が実質的には変わったのに、制度がそれに追いついていないだけだ。ならば、実際の人々に合うように制度を変えていけばいい。

実際、そうやって社会は変わってきた。

こんな風に「社会は変わってきたんですね」という話を、社会学者の上野千鶴子さんにしたら「社会は誰かが変えてきたんです。自然現象みたいに言わないで欲しい」と怒られたことがある。

たとえば、ベビーカーをたたまずに電車に乗ってもいいのかという論争がある。実はこの論争にはとっくに決着がついている。

国土交通省が2014年「ベビーカーは折りたたまずに乗車することができます」という宣言を発表したのだ。そしてベビーカーは、車椅子と同じように、乗車に時間がかかったり、スペースを必要とすることに理解を求めている。

だからあとは、JRなど鉄道会社が「電車はベビーカーでも折りたたまず乗車できます。お子さんのいるお客様に対するご配慮をお願いします」とアナウンスをガンガン流せば、本来は今すぐにでもベビーカー問題は解決されるはずなのだ。

たぶん、ちょっとしたアイディアの積み重ねや、ちょっとした人の行動で、社会は変わっていく。そのうち「ベビーカーで電車に乗れなかった時代なんてあったんですね」と言える日は必ず来る。

そして同じように、「タイキジドーって何ですか」とキョトンとされる日も、必ず来るはずだ。

社会は変わってきたし、変わっていくし、そして変えられる。

[おわり]


古市憲寿さんの『保育園義務教育化』の連載は今回で終了です。
半年間にわたるご愛読、本当にありがとうございました。

そして!

連載終了を記念して、読者限定イベントの開催が決定しました!
古市憲寿さんが登壇、保育園義務教育化についてお話いただくほか、婦人科医·宋美玄先生との対談も!

詳細は、近日公開しますので、引き続きHanakoママwebをチェックしてくださいね。(編集部)


この連載を最初から読む?
連載第1回目「女性が「お母さん」になった途端に、できなくなること」

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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから