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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化28保育園を増やすには、仕組みを変えていけばいい【古市憲寿/保育園義務教育化・28】

2017.04.03

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

ついに迎えた最終章では、あらためて「保育園義務教育化」のアイディアについて検討します。「保育園義務教育化」を実現するには、まず、保育園を増やすのが第一。待機児童問題も解消していないいま、土地が高い都会で、保育園を増やすのって難しい? でも、ちょっと視点を変えるだけで、まだまだやれることはあるはずです。


(書籍『保育園義務教育化』「7章」より)

少子化なのに待機児童問題が解決しない理由

潜在待機児童が100万人から300万人いるという試算もあるように、この国では今、とにかく保育園が足りない。そんな中で、「保育園義務教育化」というのは妄想に過ぎないのだろうか。

6章に続き、東京大学教授の瀬地山角さんに話を聞いてみた。実は東京大学内には保育所があり、瀬地山さん自身もその経営に関わってきた。

経営者の目線から言うと、大都市で保育園が不足する理由は簡単にわかるという。それは、単純に言えば「もうからない」からだ。

保育園には国の基準を満たす「認可保育所」と「認可外保育所」(「無認可」)の二種類があるが、補助金を多く受け取ることができる「認可保育所」になるための基準が非常に厳しいというのだ。

0歳児の場合、1人当たり3・3㎡の面積を確保し、しかも子ども3人に対して1人の保育士を配置しなくてはならない。調理室も必要だ。それなのに園舎は2階建て以下が原則で(確かに高層保育園とか見たことない)、とにかく場所を食うのだ。

「都市部では土地の値段が高い。しかも空いている土地なんてほとんどない。自治体が無理やり保育園を作ろうとしたら、公園や小学校をつぶすしかない」

瀬地山さんが関わる保育園も、東大が格安で土地を提供しているから経営が成り立っているのだという。

だから、規制を緩和し、市場原理に任せたところで、保育園が増えるなんてことはあり得ないというのだ。

んー、どうやらこれまでの法律やルールでは、保育園をすぐに増やすことは難しそうだ。

保育園をどうやって増やすか?

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待機児童問題を民間の力で何とか解決しようとしているのが、普通に話していてもなぜか演説っぽくなってしまう社会起業家の駒崎弘樹さんだ。

駒崎さんはもともと病気の子どもを預かる「病児保育」のNPOを経営していた。駒崎さんたちの活動は、TBSでドラマ化もされる『37・5Cの涙』のモデルともなった。

そんな駒崎さんが保育園運営に関わることになったのは2009年のことだ。

「保育園がなくて会社に戻れません」という悩みを社員から聞き、暑苦しい駒崎さんは、ふつふつとした怒りが湧いてきたという。

21世紀にもなって保育園が足りなくて何事だ、と。

そこで駒崎さんたちは、小規模保育園 (「おうち保育園」)という仕組みを生み出した。

定員は6名から19名、子ども3人に対して保育士1人が基本のアットホームな保育園だ。

かつて保育園は「定員20人以上」というルールがあったが、駒崎さんたちの仕組みを国も認め、2015年に改正された法律で「小規模認可保育所」という制度ができた。

厚生労働省の事務次官となった村木厚子さん(無実の罪で逮捕されたあの細い人)の尽力によるものだという。

このアイデイアを聞いてなるほどと思った。

保育園といえば、何となく「庭がある二階建ての建物で子どもたちがたくさんいる」という光景を想像してしまうが、普段の保育は「おうち」でしている。

だったら、確かに「おうち」にある「保育園」が増えてもいい。

この小規模保育園は、待機児童問題を確実に解決することが期待されている。

さらに、「小規模認可保育所」が国にも認められたように、現在の法律自体を変えて、保育園をもっと増やすことはできないだろうか。

たとえば、「園舎は原則2階建て」というルールを変えたらどうだろう。

「おうち保育園」が認められているのだから、ビルの中に保育園があっても決しておかしくはないだろう。またタワーマンションで子育てをしている人もたくさんいるのだから、「高いから危ない」という発想も前時代的だ。

さらに、一定以上の従業員がいる会社(事業所)には、保育園を設置しなくてはならないというルールを設ける。最近では企業内保育園も増えてきたが、それを福利厚生ではなく一定の義務にしてしまってもいいのではないだろうか。

また、ビルを建てる際、保育園をビル内に設置すれば、容積率や建ペい率などの制限を緩めるという決まりを作ればいい。ビルといっても、きちんと自然光が差し込み、十分な広さを確保できるようにする。

そうすれば、開発業者は土地を有効活用できるし、保育園の運営者は実質無料で保育スペースを確保することができる。

「ビルの中では子どもがかわいそう」と訴える人がいるかも知れないが、都心部ではとにかく待機児童問題が深刻だ。理想をいえば全ての保育園に立派な園庭があったほうがいいのだろうか、ゼロか百かの議論をしている余裕は、現在の日本にはないだろう。

都会に暮らす限り、誰もが庭付きの家に住めるわけではない。家庭と保育園の「庭」にこだわりすぎると、都会で育児をすることがそもそも無理ということになってしまう。

僕は、「庭」を大事にする人を否定はしないが、庭のないマンションに住む人も否定したくないし、保育園が足りなくて困っている人がたくさんいるという状況をまず何とかして変えたいと思う。

そのためには、「おうち保育園」という素晴らしい仕組みや、ビルの中の保育園を増やしていくことはとても大事だと思う。

どうしても「園庭」にこだわるなら、銀座三越の「銀座テラス」やJR博多シテイの「つばめの社ひろば」のようなテラスや屋上庭園を、保育園のために活用してもいい。

このように、社会の中に「赤ちゃん」や「子ども」が当たり前に存在するような仕組みを作っていけばいい。そのために試してみる価値のあることは、まだまだある。

[次回につづく]

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連載第1回目「女性が「お母さん」になった途端に、できなくなること」

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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
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