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藤田あみいの「懺悔日記」・1私は生命を生み出してしまったのだと。ことの重大さに気づいた【新連載・懺悔日記】

2017.02.03

新連載・藤田あみいの「懺悔日記」

妊娠出産を経て、深刻な産後うつに。
三年の月日をかけてようやく母親になった、わたしの懺悔の日記。

Hanakoママウェブで、新しく連載がスタートします!

イラストレーターの藤田あみいさんは、現在3歳の女の子のママ。出産後、ある時期から深刻な産後うつ状態になったそうです。

新しい命を授かったというプレッシャーや、初めて経験することの連続に「この子、大丈夫かな」「私はちゃんと母親をやれてるかな」といった不安に襲われること。思い当たるかたも多いのではないでしょうか。

藤田さんは、気持ちの揺れを日記に克明に綴りました。出産から3年間の「懺悔日記」と名付けられた日々の記録を、こちらで少しずつ公開します。

この連載にあたり、藤田さんからのメッセージをご紹介します。

妊娠・出産を得て、わたしは強迫性障害という病気になってしまいました。
強迫性障害を簡単に言うと「潔癖性」というようなものがわかりやすいと思います。
私の場合は潔癖ではなく、「『娘に障害があるのでは』という強迫観念が浮かんでくる。」というのが症状です。
愛する子供を育てていて、一瞬でも「この子に何かあったら」と不安を感じる人は少なくないと思います。
このブログはそんな気持ちのドツボにはまってしまった私の懺悔の日記です。
「ありのままを受け入れる」そこに至ることが難しい人に向けて、少しでも気が軽くなればいいなと思い書き連ねています。
藤田あみい


第1回・出産

01

2013年12月6日

朝ゴロゴロとベッドの上で転がってて、あまりにも暇なのでもう一度入院のための荷物を整理しようと思い、大きなお腹を抱えながらトランクの前にしゃがんだ。突然、生暖かいものが股の間からにじみ出てきた。うわあ、これは、もしや破水?大変。

夫ののっぴにLINEで連絡をする。破水したかもしれない。だけどLINEは既読にならなかった。なんだかおかしい。緊急事態だ。旦那は頼りにならないと判断し、破水したかもしれないんですけど…と、予約をいれていた大学病院の産科に電話をすると、すぐに病院にきてください!とのこと。でも本当に破水なんだろうか?

私は物事を大げさに捉えてしまうところがあるから、これは破水以外の何かなのかもしれない。破水じゃなかったら大げさに病院に行ったところで、帰されるのがオチという話もよく聞く。(よく考えると破水じゃなかったらなんだというのだろう)

「破水じゃないかもしれないんですけど、本当に病院に行かないとダメでしょうか…」と一見、謙虚な質問をしたつもりが、「はあっ!?ダメです、すぐきてください」と叱咤された。お腹も全然痛くないし、のっぴへのLINEも既読にならないし、そんな大事なわけがないな、と冷静に思った。

事前に予約を入れていた陣痛タクシーを呼ぶ事もできたが、なんだかオーバーリアクションな気がして、自力でタクシーを探した。探してる間に、みるみるお腹が痛くなってきた。これはいよいよもって、今日がこの子の誕生日になるかもしれない。

12月6日。今日だけはダメだ。長年の親友、小島睦子通称むっちゃんの誕生日と一緒だ。彼女の事は好きだが、彼女のようになってはこまる。性に奔放で、金遣いも荒く、太っている。そんな自分のことをよく理解して、雄弁に振る舞う彼女の生き様はとても尊敬するが、やはり同じ誕生日になったら、星の回りも誕生日占いも、全てむっちゃんと一緒になってしまう。やはり、365日でこの日だけは困る。

病院についたら、いわゆるおしるしというものがきた。少量の出血。あああ、本当に今日産まれるのか。いよいよお腹も本格的に痛くなってきた。脂汗がにじむ。助産師に、安定しない形のベッドに寝せられ、今日産まれますね、なんて軽く予言された。そんなに軽く言わないでほしい。こちとらまだまだ準備ができていない。

夫のLINEもまだ既読にならない。今朝お弁当を持たせて、会社に送り出したはずだが、やはりどうも携帯電話も通じない。電源が入っていないようなのだ。思い切って会社に電話をしてみたら、「藤田さん今日お休みですよ」と言われた。はあ?何が何だかわからない。お休み?

ここ数日、いつ産まれるかわからないのでとても不安だ、一緒にいてほしい、と言っていたのに、のっぴの仕事が忙しくてほとんど二人の時間を過ごせなかった。なのにもかかわらず、会社に行ってない?

何が何だかわからないけれど、もうそんなことを気にしている場合じゃなくなってきた。夫と連絡が取れないということに驚いた妹のナタリーが、泣きながら会社を早退し、駆けつけてくれた。

妹の顔をみてとてもホッとしたが、なぜだかわからないけれどお昼ご飯を食べていないことが猛烈に気になってしまい、助産師さんに許可を取り、ナタリーに病院内のコンビニに連れて行ってもらった。途中、何度も「うぐおおおおおぉぉ」と言いながら壁にもたれかかるように陣痛を耐えた。こんな痛みを我慢してまで、なぜ、お昼ご飯を食べようとしているのだろうか? 戦いに備えての、蓄えをしようと考えていたのだろうか。極限状態になると人間、わけがわからなくなるものだなあと思う。

そんな私に肩を貸しながら、「お姉ちゃん、のっぴは何してるんだろうね?」とナタリーは言った。最後に既読になったのが、約2時間前。妻の勘とは恐ろしいもので、なんとなくのっぴは映画に行っているような気がした。結論から言うと、驚いたことに本当に映画を見に行っていた。のっぴが「かぐや姫物語」をみた後に、子供の名前は「なよ」もいいな、なんて考えながら携帯電話の電源を入れ、大量の着信と鬼のようなメッセージの数に気づいて、ようやく私に連絡がきたのは、すでに病室で陣痛を耐えている頃だった。

陣痛の痛みは、色々な表現の仕方があると思うが、私の感覚だと「お腹の中に入ってるボーリングの玉(13ポンド)がものすごい回転しながら股から出ていこうとしてる」という感じだった。物理的に不可能な印象だ。

どのくらい痛かったかというと、ほんとうに声を抑えられない痛みだった。すでに死にそうに痛いのになぜか病室に誰もいなくて、恐怖を感じた。ひとまず人を呼ぼうとして、「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と叫んだところ、パタパタと助産師さんがやってきた。

助産師さんの口から「あ~結構痛そうですね」などというお気楽なコメントが飛び出た。

時間的にまだまだかかるであろう出産が、初っ端からこの痛みだと、こののちに死んでしまうのでは、と思った。実際にはこんなに冷静ではなく、「待って!?こんな痛いの!?これずっと続くとかヤバいんだけど!!!死ぬんだけど!!!」という心境だった。

陣痛は、一つ一つの山がとても高い。猛烈な痛みだが、驚くぐらいスッと何事もなかったかのように消える。そしてまた大きな山を迎える。この繰り返しだ。そして痛みの感覚がどんどんと短くなっていく。山を登り切るたびに、もう二度と登りたくない!と強く思うのだが、やはり数分単位で自動的に山頂へ向かう。恐ろしく、神秘的な体の仕組みだと、どこかで傍観せずにはいられなかった。

子宮口が全開になり、「いきんでいいよ」と言われてからは結構楽になった。もちろんお腹は猛烈に痛いのだが、排出するための力を入れていいと言われるととても楽になるものなのだ。よく、うんこが一緒に出たらどうしよう…と口からこぼす妊婦がいるが、うんこなんて当然のように出る。うんこというか、下半身ぜんぶ持っていかれそうなほど重力を感じる。なので腰を引っこ抜かれそうな感じであった。うんこごときの話ではないのだ。

夕方6時58分、「プギャ」という声が聞こえた。「出てくる前から泣いてる~」と助産師さんが言った。出てくる前から泣いてるなんて、なんて元気な子なのであろうか。プギャの後に、赤子の体全体が私の股から排出され、「おぎゃーおぎゃー」という声が聞こえた。瞬間、とんでもないことをしてしまったと感じた。私が今まで10ヶ月もの間大切に守ってきた生命が、全く自分と別人なのだと、私は生命を生み出してしまったのだと。ことの重大さに気づいた。

「はいお母さんだよ~」と胸元に置かれた我が子は、大きな声で泣いていたが、赤黒く、頼りない細い腕をしていた。頭が縦に長くて、なんだかそればかり気になってしまい、「これって絶壁…?」と助産師さんに聞いたりして、そのことで頭がいっぱいになった。喜びや感動という気持ちは意外とわかず、胸元で大きな声で泣いている小さな生命の誕生、そしてその子の一挙一動にただただ戸惑うばかりだった。

(次号に続く)
これまでの連載
第1回「私は生命を生み出してしまったのだと。ことの重大さに気づいた」
第2回「肉体的には限界だが、休むわけにはいくまい」
第3回「涙が出そう。すべての時間が赤ちゃんまみれ」
第4回「小さな腕に注射の管が刺さっている。私のバカ」
第5回「わからないことだらけで苦しい。どうして誰も傍にいてくれないの」
第6回「お腹の中でお星様になった子のこと」
第7回「どーでもいい細かいことがいちいち気になってしまう」
第8回「最高過ぎる実家暮らし。東京に帰るのがとても不安だ」
第9回「きっと、きっとどうにかなる。だってこんなに可愛いんだから」
第10回「汗疹がよくならない。もう何が正解なのやらわからない」
第11回「表現しがたいが、てーたんが回転するようになった」
第12回「離乳食はほとんど食べず、三角コーナー行き」
第13回「誰も言ってくれないけど、私、おつかれさま」


最新記事まで読める。「懺悔日記」連載一覧

藤田あみい

イラストレーター・デザイナー・エッセイスト。
「無印良品の家」のウェブサイトで「ぜんぶ無印良品で暮らしています~三鷹の家大使の住まいレポート~」を執筆中。
2016年に同タイトルの本を出版。現在韓国語・台湾語に訳され、幅広い層の人へ向けて発信を行っている。
趣味はショッピング。夫と娘が生き甲斐。