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藤田あみいの「懺悔日記」・43愛情という文字を見た瞬間に、わたしは大きな声を上げて泣いていた【懺悔日記・43】

2017.06.30

妊娠出産を経て、深刻な産後うつに。
三年の月日をかけてようやく母親になった、わたしの懺悔の日記。

この連載は……

出産後、ある時期から深刻な産後うつ状態になったイラストレーター・藤田あみいさんが、娘のてーたんを育てながら3年間にわたる気持ちの揺れを克明に綴った日々の記録「懺悔日記」。その内容を、少しずつ公開していきます。


第43回 カウンセリング三回目

43

2016年9月7日 

認知行動療法。二回目のカウンセリングも話を聞かれることに終始して、はっきり言ってもうお金を払うのが馬鹿らしくなってきていた。

迎えた三回目のカウンセリング。どうせ今回も話を聞かれて終わりなのかな、と思ったが、なんでもちゃんと最後までやってみたほうがいいに決まっているので、きちんと時間通りにカウンセリングルームに向かった。

椅子に座って息を整えた。「三回目ですね。今日は認知行動療法を実践してみたいと思います。」と先生は言った。

「例えば、耳ふさぎを見る→即、発達障害の聴覚過敏では?と思ってしまう。→不安になる。」先生はこんな風にやじるしでわたしの頭を視覚化してみせてくれた。

「藤田さんはなぜ不安になるのかな? 不安ってしんどいよね。今日はここを考えてみましょう」と先生は言った。

不安だと思うのはなぜ? わたしは答えた。

「そうですね。もし発達障害だとしたら…一人で自立して生きていくことができないのではないのか、感覚過敏で苦しい思いをするのではないか、いじめられたりしてしまわないだろうか、私と一緒に物事を楽しめないのではないのか……? 偏見もあると思います、でもそう感じてしまって辛いんです……」

先生はそれらすべてをうんうん、と聞きながら、紙に書き連ねた。

「そうですね。でもこれは誰でも多かれ少なかれ、親であるなら思うことなんじゃないのかな」

この辺りから先生が何を言いたいのか少しずつ、わかっていたようなわかっていなかったような、不思議な感覚だったが、どういうわけか目に涙がにじむ。

先生は「なぜ不安になるのか。そう、不安になるのは、わたしが思うに、なによりも大事な娘……」先生は書き連ねた。

「なによりも大事に思っている娘さんへの愛情ですよね」

愛情。

愛情、と先生は書いた箇所に二重に丸をつけた。

愛情という文字を見た瞬間にわたしは大きな声を上げて泣いていた。

この二年間、不安で不安で娘と離れたいとすら思っていたわたしが、娘を愛していた。わたしが不安になる理由は、娘への愛情だったのだ。

いままでずっと苦しくて、不安になってしまう自分も、娘から離れたいと思ってしまう自分も、大嫌いだった。そのすべてを肯定してくれたのが先生の出した答えだった。

わたしは何も間違っていなかったのだ、こんなに不安だったのは、ただ娘を愛おしく思っていたからなのだ。

そう気付いた時に、嗚咽が漏れるほど泣いていた。

いままで辛かったことをなかったことにするでもなく、いまの自分を変えるでもなく、ただ、苦しみも不安も、そして喜びも愛情のなせる術だったのだと気付いた時に、わたしはいままでの愚行のすべてをわたし自身に許してあげられる気がしていた。

そして恐れていた不安の波にも、安心して身を委ねることができるようになれた気がした。なぜならこれは愛情なのだから。娘を愛しているからこんなに不安になるのだから。

この日ほど、何かを学んだ日は、いまだかつてない。

不安はなくならない。それが親ってものなのだ。子育ては幸せだけじゃなくて、不安なことでもあるのだ。

それをやっと理解して、とうとうわたしは母親になる用意が整ったような気がした。

(次号に続く)

これまでの連載
第1回「私は生命を生み出してしまったのだと。ことの重大さに気づいた」
第30回「私はこんなにめちゃくちゃな人間なのです、と泣けたらどんなに楽だろうか」
第31回「破壊へと道を進めているのは私そのもの。私だけが狂っている」
第32回「恐れていた一歳半検診。ついにこの日が来た」
第33回「わたしが暗闇の中を彷徨ってる間に、この子はこんなに喋れるようになった」
第34回「ああ嬉しい。もうちょっとで普通のお母さんになれる」
第35回「胸の奥から再びモヤモヤした黒いものが湧き上がってくる」
第36回「娘に「ママいなくなってもいい?」と聞いてしまった」
第37回「頭の中は娘に関する心配事ばかり。身も心も憔悴しきってしまった」
第38回「体重が激減した。ご飯が喉を通らないのだ」
第39回「悩んでいたことが口からこぼれ、初めて会った人の前で泣いていた」
第40回「もう終わらせたかった。なにもかもを終わらせて、消えたかった」
第41回「ちょっとだけ話をしたい」と言いながら、子どもみたいに泣いた」
第42回「元気に見える人たちも、なんらか心に葛藤を抱えている」
第43回「愛情という文字を見た瞬間に、わたしは大きな声を上げて泣いていた」
第44回「「自分を責める必要はない」というのはわかったが、やっぱり辛いのだ」
第45回「娘を見ているのがつらいなんて変だ。私は家を出ることにした」
第46回「布団に入っても、夫の言葉が頭の中を巡った」
第47回「自分に発達障害の可能性があるとは、夢にも思わなかった」
第48回「私が発達障害を抱えているとしても、何も変わらないのではないか」
第49回「私は、可愛い娘から逃げてここにいるのだ」
第50回「ママ、大好き」と言って眠りに落ちた娘の側で、私ももう一度眠りたい

「懺悔日記」連載一覧

藤田あみい

イラストレーター・デザイナー・エッセイスト。
「無印良品の家」のウェブサイトで「ぜんぶ無印良品で暮らしています~三鷹の家大使の住まいレポート~」を執筆中。
2016年に同タイトルの本を出版。現在韓国語・台湾語に訳され、幅広い層の人へ向けて発信を行っている。
趣味はショッピング。夫と娘が生き甲斐。

「懺悔日記」読者へのメッセージ

妊娠・出産を得て、わたしは強迫性障害という病気になってしまいました。
強迫性障害を簡単に言うと「潔癖性」というようなものがわかりやすいと思います。
私の場合は潔癖ではなく、「『娘に障害があるのでは』という強迫観念が浮かんでくる。」というのが症状です。
愛する子どもを育てていて、一瞬でも「この子に何かあったら」と不安を感じる人は少なくないと思います。
このブログはそんな気持ちのドツボにはまってしまった私の懺悔の日記です。
「ありのままを受け入れる」そこに至ることが難しい人に向けて、少しでも気が軽くなればいいなと思い書き連ねています。
藤田あみい