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藤田あみいの「懺悔日記」・45娘を見ているのがつらいなんて変だ。私は家を出ることにした【懺悔日記・45】

2017.07.07

妊娠出産を経て、深刻な産後うつに。
三年の月日をかけてようやく母親になった、わたしの懺悔の日記。

この連載は……

出産後、ある時期から深刻な産後うつ状態になったイラストレーター・藤田あみいさんが、娘のてーたんを育てながら3年間にわたる気持ちの揺れを克明に綴った日々の記録「懺悔日記」。その内容を、少しずつ公開していきます。


第45回 家出

45

2016年10月14日

調子が良くなったり悪くなったりを繰り返している。今自分がどんな心境なのか認識するのが難しくなってきた。

やっぱり見たくないのだ。娘の耳塞ぎを見てパニックになる自分が恐ろしいのだ。壊れてしまいそうなのだ。

なんどもなんども、パニックのようになってしまい、少しずつ良くなっていると思ったのに、やっぱり普通の自分ではなかった。カウンセリングも毎週通っているのに、あれ以来大した進歩を得られないでいる。投薬もわざわざ遠い病院まで行き、頑張っている。朝も晩も欠かさずに、たくさんの薬を飲んでいる。

何もできないけれど、1日も早く良くなりたくて、これまでにないほど希望にしがみついている。でも良くならない。なぜ、なぜ、なぜ。

最近、現実逃避とでも言おうか、娘といるときにも布団の中にこもってしまうことが多くなった。ちょっと調子が悪いから、寝てくる、と夫に告げて、ベッドに入る。娘がいるときにはできるだけ調子の悪い姿を見せないでいたが、もう限界のようだ。隠しきれない。娘はとても心配そうにしている。

ママは調子が悪いからひとりにしてあげて、と夫が娘に告げるも、娘はおぼつかない足取りで階段を登ってきて、「ママと一緒に寝る」といってベッドに横たわる。わたしとアタマを揃えて、にこ~っと笑う。かわいい。かわいい。なんてかわいい人。

この子を見ているのが辛いなんて、一体どうしたことなのか。やっぱり変だ。幸せなのに、変だ。この幸せから突き落とされるのが怖い。

この日、私は家を出ることにした。

2016年10月15日

真夜中、近所のホテルに突然カバンひとつで泊まりに行った。

ずっとずっと食欲がなかったが、なぜだかコンビニで大盛りのペペロンチーノと唐揚げ、ビールなんぞを買い、チェックインした。

シーンとしたビジネスホテルの一室。お化けなんか怖くない。おっきい虫だってもう怖くない。絶叫マシーンだってたぶん今なら乗れる。もっともっと怖いものを私は知っている。娘を失う怖さだ。私は二年もの間、一番近くにいた娘を失っていた。

娘の柔らかな髪の毛、きめ細かな肌、小さくて優しい心。全て霧の中だ。

これは前向きな家出だ。本当の自分を取り戻すために、今、娘と離れるのだ。

狭い部屋の窓を限界まで開放して、めちゃくちゃな食べ方でペペロンチーノを食した。母親から電話がかかってきたが、無視した。

私は自由だ。自由にもなれるのだ。今の私はママではない。私なのだ。だから何も気にしなくて良いのだ。今は忘れてもいいのだ。日常に起こる不安な出来事と無駄な妄想を。

残された夫と娘のことが頭をかすめるたびにそれをかき消して、こみ上げてくる涙を飲み込んで、喉にビールを流し込んだ。

(次号に続く)

これまでの連載
第1回「私は生命を生み出してしまったのだと。ことの重大さに気づいた」
第30回「私はこんなにめちゃくちゃな人間なのです、と泣けたらどんなに楽だろうか」
第31回「破壊へと道を進めているのは私そのもの。私だけが狂っている」
第32回「恐れていた一歳半検診。ついにこの日が来た」
第33回「わたしが暗闇の中を彷徨ってる間に、この子はこんなに喋れるようになった」
第34回「ああ嬉しい。もうちょっとで普通のお母さんになれる」
第35回「胸の奥から再びモヤモヤした黒いものが湧き上がってくる」
第36回「娘に「ママいなくなってもいい?」と聞いてしまった」
第37回「頭の中は娘に関する心配事ばかり。身も心も憔悴しきってしまった」
第38回「体重が激減した。ご飯が喉を通らないのだ」
第39回「悩んでいたことが口からこぼれ、初めて会った人の前で泣いていた」
第40回「もう終わらせたかった。なにもかもを終わらせて、消えたかった」
第41回「ちょっとだけ話をしたい」と言いながら、子どもみたいに泣いた」
第42回「元気に見える人たちも、なんらか心に葛藤を抱えている」
第43回「愛情という文字を見た瞬間に、わたしは大きな声を上げて泣いていた」
第44回「「自分を責める必要はない」というのはわかったが、やっぱり辛いのだ」
第45回「娘を見ているのがつらいなんて変だ。私は家を出ることにした」
第46回「布団に入っても、夫の言葉が頭の中を巡った」
第47回「自分に発達障害の可能性があるとは、夢にも思わなかった」
第48回「私が発達障害を抱えているとしても、何も変わらないのではないか」
第49回「私は、可愛い娘から逃げてここにいるのだ」
第50回「ママ、大好き」と言って眠りに落ちた娘の側で、私ももう一度眠りたい

「懺悔日記」連載一覧

藤田あみい

イラストレーター・デザイナー・エッセイスト。
「無印良品の家」のウェブサイトで「ぜんぶ無印良品で暮らしています~三鷹の家大使の住まいレポート~」を執筆中。
2016年に同タイトルの本を出版。現在韓国語・台湾語に訳され、幅広い層の人へ向けて発信を行っている。
趣味はショッピング。夫と娘が生き甲斐。

「懺悔日記」読者へのメッセージ

妊娠・出産を得て、わたしは強迫性障害という病気になってしまいました。
強迫性障害を簡単に言うと「潔癖性」というようなものがわかりやすいと思います。
私の場合は潔癖ではなく、「『娘に障害があるのでは』という強迫観念が浮かんでくる。」というのが症状です。
愛する子どもを育てていて、一瞬でも「この子に何かあったら」と不安を感じる人は少なくないと思います。
このブログはそんな気持ちのドツボにはまってしまった私の懺悔の日記です。
「ありのままを受け入れる」そこに至ることが難しい人に向けて、少しでも気が軽くなればいいなと思い書き連ねています。
藤田あみい