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藤田あみいの「懺悔日記」・46布団に入っても、夫の言葉が頭の中を巡った【懺悔日記・46】

2017.07.11

妊娠出産を経て、深刻な産後うつに。
三年の月日をかけてようやく母親になった、わたしの懺悔の日記。

この連載は……

出産後、ある時期から深刻な産後うつ状態になったイラストレーター・藤田あみいさんが、娘のてーたんを育てながら3年間にわたる気持ちの揺れを克明に綴った日々の記録「懺悔日記」。その内容を、少しずつ公開していきます。


第46回 家出2

46

2016年10月16日

家出は12時間と持たなかった。翌日の朝、私はどこに行っても良かったのに、捨て猫みたいにボロボロの出で立ちで家に帰った。

娘は割と普通の顔で、ママぁおかえりーと迎えてくれた。全開で喜んでいないのがわかった。不安なのだ。また母が突然消えてしまったらどうしようという不安が、彼女の小さい心を苦しめているのだ。

夫は、なぜ帰ってきたの、自由にしていて良かったのに。と言った。理解ある夫だが、私の常軌を逸した行動に呆れ果てているのだと思った。わかる。わかるんです。ごめんなさい。

その後、娘と夫と大きな公園に車で行って、大型の滑り台で昼過ぎまで遊んだ。

普通に遊んでいるだけなのに、大きなゆりかごのように揺れる私の気持ちが憎かった。消えたい。この子と一緒にいたい。消えたい。この子と一緒にいたい。

無邪気に遊ぶ娘の顔を見て、何度も足元から崩れ落ちそうになる。

なんでこんなことになったんだろう。

あの日、見学に行った保育園の園長が余計なことを言わなければ、私はこんな風になっていなかった?
夫の仕事が忙しくなかったらこんな風にならなかった?
なんでも相談できる両親が近くにいてくれればこんな風にならなかった?

子どもというものは鏡だ。目を反らし続けてきた現実をこれでもかと見せつけてくる存在だ。

生きること、老いること、病気や障害、死ぬこと。全てわたしが目を逸らしてきたことだ。

そういえば私は自分の祖母や祖父が亡くなったことも、まだ現実的に受け止めていなかった気がする。今は会えないだけで、どこかで生きているだろうと思い込もうとしていた。

病気や障害を持つ人たち、その親や、親しい人の気持ち、全てを私は無視して生きてきたのだ。自分には関係ないものだと決めつけていた。年老いた親が障害のある息子さんや娘さんの手を引いて歩く姿を、自分とは関係ないと思って見ていた。現実から目を反らし続けた結果が、このザマだ。

もし、あそこにいるのが私と娘だったら。

全てが跳ね返ってきたのだ。それだけのこと。自業自得なのだ。

そんなことを晩酌をしながら夫に話した。

しかし夫は意外なことを言った。

「障害のある息子さんや娘さんの手を引いて歩く姿」を不幸だと思っているのは、君なのではないか? 誰が彼らを不幸だと、苦しんでいるのだと決めつけた? 君だろ? 君が望んでいるものはなんだ? てーたんの幸せだろ? てーたんに何かあったとして、不幸だとなぜ思う? 現にあの子は今とても幸せそうに笑ってるじゃない。今日だって公園で笑ってたじゃない。あなたといる時、あの子はとても楽しそうだよ。少なくともあなたが一緒にいる今は幸せなんだよ。あの子を幸せにするのは君なんじゃない?
じゃあ、ゆっくりでいいから、元気になりなね。

夫の言葉は猛烈に身にしみた。

幸せは本人が決めることだ。他人が勝手に決めることではない。
布団に入っても噛みしめるように夫の言葉が頭の中を巡った。
今すべきことはなんなのだろう。私が今すべきことは。

私は月曜から保健師の永坂さんが紹介してくれた病院に入院することになった。

(次号に続く)

これまでの連載
第1回「私は生命を生み出してしまったのだと。ことの重大さに気づいた」
第26回「寒い寒い氷の町の丘の上にてーたんの保育園はあった」
第27回「昔は一人でいるのが大好きだったのに、今はとても不安でやりきれない」
第28回「育児ノイローゼというやつなのか? 本当に屈辱的で誰にも話したくない」
第29回「治療が必要なのは娘ではなく、100%お母さんの方だということになった」
第30回「私はこんなにめちゃくちゃな人間なのです、と泣けたらどんなに楽だろうか」
第31回「破壊へと道を進めているのは私そのもの。私だけが狂っている」
第32回「恐れていた一歳半検診。ついにこの日が来た」
第33回「わたしが暗闇の中を彷徨ってる間に、この子はこんなに喋れるようになった」
第34回「ああ嬉しい。もうちょっとで普通のお母さんになれる」
第35回「胸の奥から再びモヤモヤした黒いものが湧き上がってくる」
第36回「娘に「ママいなくなってもいい?」と聞いてしまった」
第37回「頭の中は娘に関する心配事ばかり。身も心も憔悴しきってしまった」
第38回「体重が激減した。ご飯が喉を通らないのだ」
第39回「悩んでいたことが口からこぼれ、初めて会った人の前で泣いていた」
第40回「もう終わらせたかった。なにもかもを終わらせて、消えたかった」
第41回「ちょっとだけ話をしたい」と言いながら、子どもみたいに泣いた」
第42回「元気に見える人たちも、なんらか心に葛藤を抱えている」
第43回「愛情という文字を見た瞬間に、わたしは大きな声を上げて泣いていた」
第44回「「自分を責める必要はない」というのはわかったが、やっぱり辛いのだ」
第45回「娘を見ているのがつらいなんて変だ。私は家を出ることにした」

「懺悔日記」連載一覧

藤田あみい

イラストレーター・デザイナー・エッセイスト。
「無印良品の家」のウェブサイトで「ぜんぶ無印良品で暮らしています~三鷹の家大使の住まいレポート~」を執筆中。
2016年に同タイトルの本を出版。現在韓国語・台湾語に訳され、幅広い層の人へ向けて発信を行っている。
趣味はショッピング。夫と娘が生き甲斐。

「懺悔日記」読者へのメッセージ

妊娠・出産を得て、わたしは強迫性障害という病気になってしまいました。
強迫性障害を簡単に言うと「潔癖性」というようなものがわかりやすいと思います。
私の場合は潔癖ではなく、「『娘に障害があるのでは』という強迫観念が浮かんでくる。」というのが症状です。
愛する子どもを育てていて、一瞬でも「この子に何かあったら」と不安を感じる人は少なくないと思います。
このブログはそんな気持ちのドツボにはまってしまった私の懺悔の日記です。
「ありのままを受け入れる」そこに至ることが難しい人に向けて、少しでも気が軽くなればいいなと思い書き連ねています。
藤田あみい