コロナ禍の妊娠・出産を経験して ⑤あなたを支えるヒント集:オンライン活用
「ZOOMなどオンラインで出会った相手と、私はママ友にはなれないと思う」
オンラインでの仲間づくりや交流についてきいたところ、コロナ禍に出産したママ達からはこのような反応が返ってきました。
コロナにより妊娠・出産・産後のママ達の孤立が深まっている、という調査結果(*1)が出ました。コロナ前は立ち会い出産を希望する妊婦のうち9割近くが希望を叶えましたが、コロナ禍では4割に減少。産後の面会希望の実現率は、コロナ前は9割、コロナ禍では2割。産後うつなどメンタル悪化の事例が増えているという報告も。
一方、男性の育休取得率は上昇し、妊産婦向けサービスのオンライン化が進んだという明るいニュースもききます。
前回までの4回の記事で、2020年4月以降の出産経験者や専門家にお話をききました。その結果より、コロナ禍の妊産婦生活をサポートする知恵をご紹介します。
コロナ禍でも「直接相談したい」というニーズには
両親学級や立ち会い出産がないことで、「一緒に親になる」というプロセスを踏めず、「パパスイッチ」がなかなか入らない例が多く見られます。ママが「一人でがんばる」「誰にも相談できない」では、自分を追いつめてしまいます。
近くに気軽に相談できる実母や親戚がいない、専門家に直接相談したい、というニーズを受けて、東京都では、コロナで外出しづらい状況にある妊産婦さんむけて取り組みが行われています。都民対象ですが、ユーザーの満足度が高いので、オンライン活用のモデルとして取り上げます。
●東京都委託オンライン助産師相談(ZOOMで30分・予約制・無料)
2021年1月4日~3月31日実施(その後の実施については、サイトをご確認ください)
https://coubic.com/jmat/834046#pageContent
取り組み自体は、第一次緊急事態宣言中の2020年4月末~6月末に第1回が行われました。助産師と回線がつながったとたん「これで誰かに話せる」と泣き崩れたママもいたそうです。里帰り先・パパ・助産師の3か所をつないで家族で話をする方、なども。
上記期間の相談件数は444件(妊娠中23%、産後76%)。「具体的なアドバイスをもらえた」「丁寧に話をきいてもらい心が軽くなった」「ネット検索魔になり不安になったけど解消できた」などレビューがたくさん書き込まれています。
コロナ禍で重要性を増すSNS
今回の取材で、いまどきだな、と感じたのは、皆さんがSNSをうまく活用していること。
Twitterで同じ月齢のお子さんを持つママ達とピンポイントにつながる真美さん(仮名)、LINEチャットで臨床心理士に匿名相談するゆう子さん(仮名)。
ゆう子さんは、LINE通話を利用し、定期的に友人と話す予定を入れて、孤立予防に努めています。コロナ禍によりリアルの人付き合いがしづらくなり、SNSを使用した交流や相談の重要性が高まりました。
「授乳中のスマホはやめましょう」と注意されますが、それも心の安定とのバランスでは?「深夜、寂しく授乳しているときも、つぶやいたら誰かが返してくれるから安心」という真美さんの言葉が印象的でした。
軽く話をきいてもらう、自分の状況を整理するという目的では、匿名での臨床心理士LINEチャット相談もあります。
第3回で紹介した一例がこちら。
●東京都福祉保健局「子ゴコロ・親ゴコロ相談@東京」https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/smph/kodomo/katei/linesoudan.html
今回とりあげるものは、コロナの影響を受けやすい地域として東京都のサービスが多くなりますが、地方でも同様の取り組みがあるかもしれません。ご興味を持たれた方は、一度各自治体へおといあわせください。
ママ友がいなくても、地域情報は入手できる
「コロナ禍でママ友ができず、地域情報がわからない」という方には、こんなサービスはいかがでしょう?
自治体や病院から、月齢(妊娠4週目~3歳誕生日前日まで)にあわせたアドバイスと地域情報が届きます。
医師・管理栄養士の監修つきで、英語版もあります。受け取り方は、LINE、メール、Twitterなどから選べます。
実は、私もお世話になっていました。情報を検索する力もないほど疲れた時に、子連れ向け地域イベントのお知らせや、一言励ましが添えられたメールが届き、ほっこりしました。
この他、広報紙を入手、自治体のフェイスブックアカウントをフォローするなどにより、基本的な地域情報は得られます。
【支援者向け】産前産後の相談や講座等のオンライン化
今回、コロナによってリアル開催できなくなった相談や講座のオンライン化について、ママ達に話をきいてみました。
「専門家に相談したい」
「自分の状況を客観視したい、整理したい」
「とにかく話をしたい」
「息抜き、他愛もない話をしたい」
「我が子の成長を、他の子と比べて安心したい」
など、さまざまなニーズがあります。
これらの声を整理すると、主なテーマとしては、以下が考えられます。
・知識やスキル獲得(両親学級、離乳食講座など)
・専門家に相談
・雑談、息抜き
・匿名相談
・仲間づくり、交流
・自分のケア、運動など
ただ、内容的にはオンラインに適したものとそうでないものがあります。
「産前産後の相談やスキル獲得機会」を、「相談先の専門度」と「親側の参加人数」で整理して、以下の表にまとめてみました。
「専門家相談」「専門家による講義・講座」は、オンラインでも受けたい、そんなに違和感はないという声が多かったです。一方、「仲間づくり」「交流」「雑談」は、ネットではちょっとやりづらい、その後につながらない、という意見をききました。子育て広場のオンライン化も、特定のテーマがない雑談だけでは難しいように思えます。
ただ、元来オンラインに適さないように見える「仲間づくり」「交流」「雑談」でも、仕組みなどに工夫をこらせば、オンラインでも実施する意味が増すかもしれません。
例えば、なんとなく地域情報を持ち寄るだけでなく、「子連れで行ける地域の飲食店マップを作ろう」「先輩ママが語る保活情報講座・復職セミナー」のようにテーマを設定すれば、後につながる関係が作りやすいかもしれません。こうなると、もはや「雑談」ではありませんが……。
【支援者向け】オンラインで、つながり続ける工夫
オンラインで、参加者同士の交流の工夫をしている、運動講座を見つけました。
エクササイズに加え、参加者同士の対話を重視しているのが特徴。参加者からは、「エクササイズより、対話が印象に残った」というアンケート結果が得られました。コロナで人との交流が減った現状を反映しています。
その対話の工夫をうかがいました。
「従来は対面教室のみでしたが、コロナにより急きょオンライン教室を開発しました。2020年12月までの半年で、オンラインのすべてのコースあわせて1400組近くが参加。オンラインの定員は8名です。
対話では、赤ちゃんではなく『私』を主語に自分自身の話をすることによって、参加者同士の距離がはじめからグッと近くなります。4回クラスの場合、毎回、セルフケア、価値観、今の自分、未来の自分などテーマを設けて話し合います。ペアでの対話を大事にして、毎週違った組み合わせにするなど配慮し、できるだけ多くの人と対話できる工夫もしています。
さらに、話し足りなかったことやお互いに質問しあえる交流タイムをレッスン後に設け、レッスン後も育児情報などを交換できるLINEチャットをつくり、自由に交流できる場づくりをしています。
この結果、教室卒業後も自主的にオンラインランチ会やお茶会、ストレッチの会などを開催しているクラスが多いです。長引くコロナ禍、オンラインでつながった仲間と、オンラインでつながり続けるという自発的な動きが生まれています」
最初は打ち解けづらくても、3~4回目には参加者同士会話が弾むそうです。ここまでは今話せる、話したいというところを見極める対話設計とファシリテーションが肝です。
(6回シリーズ。次回に続きます)
第1回 (1)妊娠期間
第2回 (2)出産~産後1か月
第3回 (3)産後2か月目~3か月目
第4回 (4)産後4か月目~
第5回 あなたを支えるヒント集 オンライン活用
第6回 あなたを支えるヒント集 産後うつ予防
(*1)株式会社スリールとNPO法人ファザーリングジャパン共同実施アンケート「コロナ禍前後の妊娠出産アンケート結果」(2020年9月7日付)https://fathering.jp/news/news/20200907-01.html