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【中国の出産事情】一人っ子政策廃止でも出生率は上がらず。今の中国は子どもを産みにくい? 産みやすい?

【中国の出産事情】一人っ子政策廃止でも出生率は上がらず。今の中国は子どもを産みにくい? 産みやすい?

40年近く続いた「一人っ子政策」が廃止された中国。早速、ベビーブーム到来? と思いきや、出生率は伸び悩んでいます。中国は子どもを産みにくい社会なのでしょうか? 出産費用補助をはじめ産休などの妊娠・出産をとりまく制度、意識などについて取材しました。

一人っ子政策廃止から6年経過、出生率に変化は?

2021年3月、中国・広州で誕生した男の子。生後1か月「満月」という節目での撮影。 写真提供:井口さん

中国の一人っ子政策は1979年に始まりました。2016年には二人っ子政策に切り替わり、ついに2021年に3人目までOKとなりました。急激な少子高齢化による経済発展への悪影響を心配した政府が、大きく政策転換をしたというわけです。

一人っ子政策廃止直後の出生率は微増しましたが、その後は伸び悩んでいます。2016年から子どもが産めるようになるとされた9000万組のうち、2人目を産もうと考えた夫婦はわずか26%との調査結果も(注1)。

主に、教育費の高騰、20歳代女性の減少、都市部の非婚化・晩婚化などが原因とみられます。

2020年、中国の出生率は女性1人あたり1.3人(注2)。日本とほぼ同じ水準です。
現在の中国は、子どもを産み育てづらい社会なのでしょうか?

妊娠、出産に関する制度と意識:男女平等、育休制度無し

中国共産党による「男女平等主義」により、中国では共働きが普通です。男性だけの稼ぎでは生活していけない家庭が多いなどの背景もあります。

家事育児は女性だけの役割ではなく、男性も率先して行います。男性が10~15日間、出産休暇を必ず取るのも中国の特徴です。

中国では、産前15日、産後75日の休暇が与えられます(日本は産前42日、産後56日の休暇付与)。帝王切開等の難産、24歳以上の初産の場合、それぞれ15日、30日が追加で付与されます。産休中、国の生育保険により給与は全額支給されます。

日本との大きな違いは育児休業制度がないという点です。中国では、産後42日で子宮が元に戻ると考えられています。職場復帰後は、1日60分の授乳休憩が義務化されています。

とはいうもの、中国の生後6か月の完全母乳率は、6.5%(2019年、注3)。2015年の日本53.8%(注4)に比べると低い数値です。ミルクに切り替え、祖父母やベビーシッター、託児施設に預けて復帰するのが一般的だとわかります。

共働き家庭を支えるのは、親族による手厚い家事・育児サポート

育休がないなんて大変! と思われるかもしれませんが、中国では祖父母や親族が育児を全力サポートします。家事育児をほぼ丸投げすることもよくあります。国有企業の定年退職年齢は、男性60歳、女性50歳(幹部は55歳)。体力のある元気な祖父母は心強い味方です。

広場舞を舞台で披露するおばあちゃん達。孫育てを終えた後の年代と思われる。中国の高齢女性はいきいき!

【標準的な共働き家庭の一日】 

起床

朝食は祖父母の家で

そのまま祖父母に子ども預け、出社

退社後、祖父母宅へ戻り、夕飯を食べる

子どもを連れて自宅へ

親族の協力を仰げない場合は、簡単に低価格でベビーシッターを雇えます。住み込みで24時間子どもの世話を頼む家庭も珍しくありません。

これだけ手厚い育児サポートを得られれば、もっと子どもを産んでもよさそうですが……。前段で触れましたが、教育熱心な家庭が増えたことに加え、教育費の高騰が追い打ちをかけて、特に都市部では「子どもは1人が限界」と考える家庭が増えています。

出産費用負担は、数万円~100万円超

中国での出産費用負担は、数万円程度~高級産院では100万円程度と見込まれます。国からの費用補助については、居住地、勤務先、給与水準、夫婦での保険加入度合いにより異なります。

【出産費用補助の割合】

  • 都市部の病院(広州の場合):55~85%が社会保険より補助。検査費用は、1回5000円程度まで補助有り。
  • 農村(広東省の場合):出産費用-1200元(約2万円)のうち35%まで補助。
  • 会社の生育保険に加入している場合:85%の費用補助。

なかには、公立病院の予約がとれない、よりよい環境を求めるなど、私立の病院で出産する例も増えています。その場合は100万円以上かかること珍しくありません(注5)。

中国では、帝王切開を選ぶ人の割合が60~70%にのぼりますが、広州の公立病院では政府が帝王切開の術数を制限しています。帝王切開だと料金が高くなるので病院が過度に推奨することを防ぐため等の理由だと考えられます。

しかし、妊婦側も「誕生日を選べる(中華圏では重要なこと)」などメリットがあり帝王切開を選びたがります。このような理由で私立病院を選ぶ人達も多いのです。

私立病院のLDR室(3泊4日で出産費用70~100万円程度) 写真提供:井口さん

出生前性別診断は、法律で禁じられている

妊婦健診は最低5回行われます。中国での妊婦健診の特徴は、あまりエコー検査を行わないこと。そして、出生前診断での性別判断が禁じられていることです。

これは、長期にわたる一人っ子政策の影響と、伝統的に男子を望む文化的背景に起因しています。性別を選択するための人工妊娠中絶が行われた結果、2018年の出生比率は「女1:男1.15」とバランスを欠いており、当局が問題視しています(注6)。

それでも出生前性別診断を望む夫婦は多数いるため、性別判断が合法な香港に行く、香港に血液サンプルを送って性別判断を行うというケースが跡を絶ちません。

なお、中国では中絶期間の制限はありません。

同じ私立病院の廊下。 写真提供:井口さん

出産経験のない若者達が、妊娠についてしっかり理解している

実際のところ、今の中国は子どもを産みやすい社会なのでしょうか? ここまでは主に社会的背景や制度の話をしてきましたが、以下では中国人が妊産婦についてどのように考えているかをご紹介します。

2021年3月末に中国・広州で長男を出産した井口杏さん(仮名)によると、町中が妊婦を大切にする雰囲気にあふれていたといいます。中国語で、赤ちゃんは「宝宝」と書きます。子どもは社会の宝なので皆で育てよう、子育て中の人を大切にしよう、という考えや教育が浸透しているのでしょう。

「行列しているレストランでも並ばずに入れてもらえました。店内では、普通はお茶が出されますが、妊婦にお茶は良くない、と黙っていてもお白湯が出されました。

驚いたのは、冷たいドリンクを買おうとした時、若い店員さんに『これは身体を冷やすので、妊婦さんにはお勧めできない』と断られたことです。まさかお店からの指示ではないでしょうし、こんなに若い人達が身体への影響や妊産婦さんにどのように接するかを、一体どこで学ぶのだろうと不思議です。

飲茶屋さんでは、サンザシが少し入った点心は妊婦さんにはよくない、と断られたり……。好きにさせてと思う部分もありましたが、皆の知識がしっかりしていて感心しました。交通機関やお店、ホテルでも皆さんにやさしくしてもらって、感激です」

中国では、今でも医食同源の知識・考え方が生活の隅々まで根付いています。

今でも国民皆保険とはいかない中国。あくまで私の想像ですが、簡単に病院にいけない時代の庶民の知恵が、祖父母から孫に伝えられて、若い人達にも浸透しているのではないかと思います。

出産前、産院で飲むように勧められた乾燥ラズベリー(覆盆子)。子宮を柔らかくする効果がある。 写真提供:井口さん

参考文献:

(注1)『朝日新聞』(2016年3月11日)朝刊第12面

(注2)Newsweek Japan (2021)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/202014113.php 

(注3)厚生労働省, 「平成27年度乳幼児栄養調査結果の概要」(2015)
https://bit.ly/2CTsadB

(注4)China Development Research Foundation, “中国母乳喂养影响因素调查报告” (2019)
https://bit.ly/2WXxuUb 

(注5)ロイターweb版 (2021)
https://jp.reuters.com/article/china-society-population-cost-idJPKCN2DF0IM 

(注6)AFP BBニュース(2019)
https://www.afpbb.com/articles/-/3228187

(この記事は、2021年7月10日時点のデータに基づいて執筆しました)

岡本 聡子

岡本 聡子ライター・経営学修士・防災士

戦略系経営コンサルティング会社を経て、上海にMBA(経営学修士)留学。その経験をもとに『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』(『上海のMBAで出会った中国の若きエリートたちの素顔』を加筆・改題)を株式会社アルクより出版。幼稚園児の母。分析・事業開発支援、NPO運営なども行う。oyakobousai@gmail.com facebook.com/okamotosatokochina

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