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【中国の出産事情】中国の産後ケアは、手厚いけど厳しい。産後のきまりごと、姑との関係は?

【中国の出産事情】中国の産後ケアは、手厚いけど厳しい。産後のきまりごと、姑との関係は?

中国のママ達は産後1ヵ月、「坐月子(ツオユエズ)」という期間を過ごします。身体の回復を促すために、適切な栄養をとり、無理な労働をせずにすむための習慣なのですが、きまりごとがたくさんあり、ひたすら忍耐の日々という声も。


産後1ヵ月は外出不可、入浴・歯磨き・クーラー禁止!

「坐月子」は古来より続く、中国の習慣です。産後は体が弱り、様々な細菌は身体に入りやすく、関節痛や腰痛をはじめとするトラブルを引き起こすという中医学の考えに基づきます。そのため、産褥婦は食事と授乳以外は横になって過ごすべきとされています。

家事労働や産褥婦・赤ちゃんの世話は、基本的に姑が行います。

私立病院のLDR一体型病室。

【「坐月子」のきまりごと】

・風に当たってはいけない。
・身体を保温する。冷たい飲み物は禁止。
・水を触ってはいけない。家事はもちろん、入浴、洗髪、手洗い、歯磨きも禁止。これは冬、夏を問わず厳しく守らなければならない。
・中医の思想に基づく月子食を食べる。勝手に好きなものを食べてはいけない。
・目を使ってはならない。スマホ、テレビ、読書もだめ。
・家族以外は産婦の部屋に入ってはならない。入ってよいのは、産婦の母、姑、夫に限られ、それ以外は実の父親を含めて1ヵ月後まで不可。家族以外が入ると、乳児は外来の「気」を受けて、病気にかかると考えられている。

もちろん、ここまで厳しいしきたりを現代でも守っているかというと、地域性、家族や個人の価値観により異なります。地方ほど、忠実に「坐月子」を守る傾向があります。

中国人と結婚し上海に嫁いだ友人(日本人)の場合、現代的な産後生活を送るかと思いきや、2週間程度は入浴を我慢し、つらくならない程度に月子ルールに従って生活したそうです。そして姑・実母、月子期間用のお手伝いさん「月嫂(ユエサオ)」の世話を受けました。

中国では子宮が回復するのは産後42日目だとされ、そのタイミングでママの健診が行われます。月子期間は30日程度で明け、これを「満月」と呼びます。

(私立病院)産院から提供された分娩セット。

産後ケア施設? 自宅で産後専門お手伝いさん? それとも姑に頼む?

四六時中、スマホを手放せない私達。身体の回復のためだとはいえ、果たして厳格な月子生活に耐えられるのか……。

現在は、退院後すぐに月子センター(月子中心)という産後ケア施設に入る人達も増えました。都市部には病院隣接タイプや、ホテルのような専門宿泊施設がいくつもあります。ここでは、資格を持つスタッフが赤ちゃんの世話をし、適切な食材で月子食を作ってくれます。

しかし、このような施設は1か月滞在で100万円以上と概して高額。私立病院での出産には60~100万円以上かかるため、出産前後の1か月だけで200~300万がとんでいってしまいます。政府や企業からの出産費用補助は、最大レベル30万円程度ですので後は個人の持ち出しです。(産休中の給与は満額支払われます)

それでも利用希望者は多く、特に出生率が高めの広州では、月子中心はかなりの人気でなかなか入れません。

というわけで、ほとんどの人が自宅で月子期間を過ごします。その際、産後の家事育児を専門にする「月嫂(ユエサオ)」と呼ばれるお手伝いさんを雇います。この人達は、特に資格があるわけではありません。もちろん保育士の資格などがあれば人気は出ます。

主に、紹介会社に頼んで派遣してもらう、ウェブ上で経歴や口コミ評価をみて依頼する、というスタイルで雇います。料金は、28~42日間で30~50万円程度です。

もしくは、姑に来てもらい身の回りの世話をしてもらいます。夫の実家に滞在し、姑に面倒をみてもらうという人もいます。

「誰に世話をしてもらうか」で、ママ達は悩む

2021年3月末に、広州で長男を出産した井口杏(仮名)さん。同じ病院で同時期に出産した中国人ママ達と、SNSグループを介してやりとりをしていました。このグループは、病院が作ったもので、メンバーには医師や助産師が入っているため、質問や不安に答えてくれて便利だったといいます。メンバー数は100名近く、ミルクの選び方などすぐに相談できる心強い仲間達です。

そのグループでも話題になったのは、月子期間の過ごし方。病院併設の月子中心は高すぎて入れないので、自宅に帰ってどんな月嫂を雇うかが大問題。井口さんも悩みました。

「良い月嫂に出会うのは難しいです。30~40代の月嫂が多いのですが、物を盗まれた、赤ちゃんの世話をせずにスマホを見てさぼっていた、自分の子どもを連れてきてうるさくて休めない、という話をききました。

私も自分の母達に日本からは来てもらえませんから、月嫂を雇うか迷いました。結局、トラブルが心配で雇いませんでした。周囲の中国人達には、産後にひとりでそんなに動いてと心配されましたが、日本では普通のことなので。大きな体調変化もなく今に至ります。

住んでいるホテルのレストランの方が月子食を作って部屋まで届けてくださるなど、皆さんにとても親切にしてもらいました」

伝統とはいえ、姑へのもやもやが募ることも……

漢民族の伝統として、産後は「姑が嫁と過ごして世話をする」のはとても重要です。月嫂を雇ったとしても、姑のもとへ行く、姑が世話しに来る、というプロセスをふまないと、周囲に違和感を与えます。

しかし、ある月子経験者達はこのように語ります。

「姑には気を遣います。私のお願いしたいことをやってくれず、ただ居るだけ。年長者には私からは文句は言えません。こんなことなら月嫂に任せればよかったと思いました」

「私や赤ちゃんとためだと言われましたが、食べ物やしきたりを厳しく押し付けられて嫌になりました」(注1)

月子期間をとおして「姑と信頼関係が生まれた」「逆に関係が悪くなった」など様々なケースがみられます。結婚を機に実家を出て独立した女性が、産後の1か月に姑と同居することで世代間の摩擦や軋轢につながることもあるようです。

(私立病院)産院での月子食。白米を避ける。クコの実やなつめの入った鶏のスープが多い。
(私立病院)産院での月子おやつ。豆乳やフルーツ中心。
(私立病院)産院での月子食。卵、長芋麺。

「坐月子」は現代っ子には厳しすぎる?

産褥婦の回復を促すという点では、意味のある「坐月子」ですが、「科学的ではない」「時代にそぐわない」「過度なひきこもりが産後鬱などにつながりかねない」という問題が指摘されています。

中国の真夏の暑さは、日本以上です。月子を守る産褥婦は、大量の汗をかき、あせも・皮膚炎・熱中症になりやすくなります。地方では、産褥婦が熱中症で亡くなったという事例もありました。

また、英国BBC放送では、中国系の英国人女性医師が、月子期間の閉じこもりが産後うつ病にかかっている中国系英国人の母親達に与える影響を指摘しました。

「出産後の母親達はしばしば孤立し、赤ちゃんとの生活に順応するのに苦労するときがあります」

さらに、中国系コミュニティーでは、「出産は人生で幸せな時」だとするプレッシャーがあるため、多くの母親たちは医療従事者に対してその症状を隠し、症状が悪化する恐れがあると懸念しています(注2)。「坐月子」の習慣は身体のためには良いのかもしれませんが、ホルモンが不安定な産後のメンタル的観点からはいかがなものでしょうか?

では、「坐月子」をやらないほうがいいかというと、ほとんどの中国人が行います。西洋医学の良さや科学的見地をとりいれ、自分のペースで「坐月子」を行いたいというのが現代のママ達の求めるところでしょう。一方的に姑に世話をされるよりは、月嫂を雇い、主体性を持って子育てをはじめたい、という時代になったようです。

広州の代表的な月子料理。大量の酢と生姜で30時間煮込んだ豚足と卵。血を補い、子宮の回復を促す効果がある。
高級月子食。ナマコ等高級食材が使われている。「スターが食べたのと同じセット。ダイエットできる月子食」6,000円程度。

「坐月子」が明け、百日宴でお祝い

友人等への赤ちゃんのお披露目は、「過百日」「百日宴」という生後100日祝いの時に行います。地方や人によっては、1か月目の「満月」、2か月目の「双満月」で行う場合も。

レストランに招待された方はプレゼントやお祝い金を渡し、飲食をともにします。宴の最後に長寿を祈願して麺を食べる、など地方によって習慣はずいぶん異なります。

産後3日目に、産院で赤ちゃん水泳!  呼吸器の発育に良いそう。

(写真はすべて井口杏さん(仮名)提供)

参考文献:

注1:「現代中国都市部における産後の養生『坐月子(ズオユエズ)』 –近代と伝統の葛藤」 安姍姍 著 (2015)https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/209806/1/ctz_7_134.pdf

注2: BBC News web版(2017)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-41979675

(この記事は、2021年7月10日時点のデータに基づいて執筆しました)

岡本 聡子

岡本 聡子ライター・経営学修士・防災士

戦略系経営コンサルティング会社を経て、上海にMBA(経営学修士)留学。その経験をもとに『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』(『上海のMBAで出会った中国の若きエリートたちの素顔』を加筆・改題)を株式会社アルクより出版。幼稚園児の母。分析・事業開発支援、NPO運営なども行う。facebook.com/okamotosatokochina

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