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【イギリスの妊娠・出産①】その人らしい選択ができる妊娠・出産を

【イギリスの妊娠・出産①】その人らしい選択ができる妊娠・出産を

イギリス人は、調査が大好き。かのナイチンゲールは看護師であると同時に優秀な統計学者であり、データを分析して看護現場の改善に成功しました。
現在は、妊娠・出産分野でも徹底的に調査が行われ、妊産婦にとって何が良い妊娠・出産につながるか、模索されています。
イギリスの妊産婦さんはどのような意識で過ごし、どんな仕組みで支えられているかを、イギリス在勤助産師の力を借りて明らかにします。

地域のチルドレンズセンターでは親子向けのイベントがたくさん。(ハーバートひとみさん提供)

手厚い医療制度

イギリスの公立病院での妊娠・出産は、条件を満たせば自己負担はほぼありません。では、あまり質が期待できないかというと、そんなことはありません。

例えば、ほとんどの公立病院には院内助産院があり、陣痛用や水中出産用のプール施設が備え付けられています。これは、妊産婦のニーズや出産への影響をしっかり調査したうえでのことです。イギリスでは、9割以上の人が公立病院で出産します。

このように、イギリスの医療サービスは、徹底した調査・検討を重ね、税金を合理的に配分して、国民のニーズに応えるという方針で設計されています。

イギリスに住む人達の健康を支えるのは、国民保健サービス(National Health Service, 以下NHS)。イギリスに6か月以上滞在する場合、条件を満たせば誰でも、極めて低額もしくは自己負担なく医療サービスを受けられます。

現在、国家予算の25%がこの制度に投入されています。ちなみに、イギリスの標準税率(消費税)は20%。

「必ずかかりつけ医を決めなければならない」「混んでいて予約しづらい」など使いづらい点や批判もありますが、イギリス社会の根幹をなす重要な仕組みです。

この制度に支えられ、女性達はどのようなマタニティーライフを送っているのでしょうか?

イギリスの公立病院内助産院。水中出産用設備を持つ施設も多い。(おざわじゅんこさん提供)
公立の総合病院外観(アーベルさん提供)

最初の妊婦健診は、助産師としっかり相談

イギリスでは正常な妊娠出産の場合、最後まで助産師が担当し、産婦人科医や小児科医が登場しないこともあるそう。

特に初回の妊婦健診は、助産師がかなり長い時間をかけて妊婦への聞きとり、説明を行います。面談の中でアレルギーの有無、病歴、生活習慣などを把握し、もし手助けが必要なら担当につなげるのも助産師の役割です。

この最初の面談で、助産師が伝える主な内容について、イギリスの公立病院で助産師として働くおざわじゅんこさんにうかがいました。

「まずお伝えするのは、『妊娠出産は女性とその家族の人生においてとても重要な出来事。不安は助産師に相談し、一緒に歩みましょう。医療介入が必要な人達も一定数存在しますが、多くは問題なく出産します。妊娠期間を満喫しましょう』ということ。

妊婦さんの判断が必要なことに関して、医療者はリスクやベネフィット両方の情報を提供し、選択肢を示します。妊婦自身が十分考え、判断するサポートをして必要な部署につなぐのも助産師の役割です」

文字どおり、助産師は妊娠・出産の伴走者ですね。

子どもの発育記録ノート(アーベルさん提供)

イギリスでは、会陰縫合も助産師が行います。助産師による縫合と産婦人科医による縫合を追跡調査では、満足度、縫合後の経過ともに助産師縫合の方が良い、という結果が報告されています(注6)。

また、健康な新生児の健診においても、助産師相手、小児科医相手で満足度調査をしてみると、助産師が対応したグループの満足度が圧倒的に高かったそうです(注7)。母子をトータルにみてアドバイスできるのは助産師であり、職業的誇りにつながっています。

医師と助産師の職域がはっきり分かれており、互いに尊重するのがイギリス式。
これは、双方が「お産はとても奥が深いもの」という共通の認識を持っているからこそ。

両親学級の様子(ハーバートひとみさん提供)

過度な検査・管理はしない

日本では「何かあったら大変。お産は不安なもの。なるべくたくさん検査をしてリスクを減らそう」と考えますが、イギリスでは真逆です。

おざわさんによると、
「お産はたいがい大丈夫なもの。本来、人間の身体はとても上手に成し遂げるようにデザインされており、医療的介入は必要ありません」

この方針は、健診方法にも表れています。

日本では、健診の度にエコー検査を行いますが、イギリスでは異常がない限り12週頃(週数・予定日の確定)と20週(胎児異常を調べるため)の2回だけです。

「子宮外妊娠など初期の異常は、90~100人に1人程度と確率が低いため、症状が出てから検査すればよいことです。ハイリスクの人を重点的にみればよくて、妊婦全員フルセットで検査するのは合理的ではありません。NHSは税金で賄われているわけですから、どこにお金と手間をかけるべきかよく考えられています」
と、おざわさん。

チルドレンズセンターという地域の公民館・児童館のような施設や妊婦の自宅で健診を行うことも多く、毎回チェックするのは尿・血圧・子宮底長・胎児が生きているか、くらいです。

重要な判断につながらない、予防効果もない、女性の心身の健康と自信を損なうという理由で、妊婦の体重ははかりません。

日本で妊娠・出産された方々は、体重に一喜一憂し、厳しく指導されたこともあるでしょう。

あれは一体……?

出産直後の赤ちゃんを健康確認をする助産師(アーベルさん提供)

(文:岡本聡子)

(第2回・第3回に続きます、筆者の記事一覧よりご覧ください(https://hanakomama.jp/writer/okamoto-satoko/

監修・取材協力:

おざわじゅんこさん

岡山県出身。1998年 文系大学卒業。イギリスへ渡航後、2007年助産師資格取得。以来 Imperial College Healthcare NHS Trust で助産師として勤務。現在は時短で継続ケアチームに所属。特定妊婦の継続ケア(自宅出産も含む)を助産師チームで進めている。 目下の目標は医療界のヒエラルキーをなくすこと。 夢は『世界平和』。

西川直子さん

イギリス在住。日本で助産師として勤務後、駐在に付き添い、タイ、イギリス、スペイン、イギリスと10年間を海外で過ごす。現地での日本人ママ向け子育て支援を経て、オンラインで世界中のママ達をサポートするfacebookグループ『世界のママが集まるオンラインカフェ(せかままcafe)』立ち上げや、「助産師オンライン24時間マラソン」を主催。

(注1)イギリス国家統計局:https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/populationandmigration/populationestimates/articles/overviewoftheukpopulation/january2021

内閣府:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_1_5.html

(注2)独立行政法人労働政策研究・研修機構:https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2018/12/uk.html

(注3)イギリス国民保健サービス:https://digital.nhs.uk/data-and-information/publications/statistical/nhs-maternity-statistics/2019-20/deliveries—1920-hes#anaesthetic-or-analgesic-use 

(注4)厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000203217.pdf

(注5)イギリス国民保健サービス:https://digital.nhs.uk/data-and-information/publications/statistical/maternity-services-monthly-statistics/may-2020

(注6)WHO:https://www.who.int/workforcealliance/media/news/2013/midwifecochrane/en/

(注7)Foster DA et al (2016) Continuity of care by a primary midwife (caseload midwifery) increases women’s satisfaction with antenatal, intrapartum and postpartum care : result from the COSMOS randomised controlled trial.  BMC Pregnancy and Childbirth vol 16 28

(注8)イギリス国家統計局:https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/birthsdeathsandmarriages/livebirths/articles/provisionalbirthsinenglandandwales/2020#live-births-by-place-of-occurrence

(注9)the BMJ:https://www.bmj.com/content/bmj/343/bmj.d7400.full.pdf

(この記事は、2021年9月1日時点のデータに基づいて執筆しました)

岡本 聡子

岡本 聡子ライター・経営学修士・防災士

戦略系経営コンサルティング会社を経て、上海にMBA(経営学修士)留学。その経験をもとに『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』(『上海のMBAで出会った中国の若きエリートたちの素顔』を加筆・改題)を株式会社アルクより出版。幼稚園児の母。分析・事業開発支援、NPO運営なども行う。oyakobousai@gmail.com facebook.com/okamotosatokochina

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