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叩かない・怒鳴らない子育てを目指して~認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・高祖常子さん

叩かない・怒鳴らない子育てを目指して~認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・高祖常子さん

前編:「叩く」「怒鳴る」は、脳と発育後の行動に悪影響を与えます

小さい頃、親にお尻を叩かれた、という経験のある方も多いのではないでしょうか?  そして、自分が親になってからも、つい手が出てしまうという方も……。

しかし、最新の研究結果では、「叩く」「怒鳴る」ことは子どもの脳の発達に悪影響を及ぼし、将来の問題行動につながると指摘されています。

「厳しくしつけるべき」価値観や「子どもが言うことをきかなくてイライラする」という感情から自由になり、もっと笑顔で子どもと向き合う方法を探しませんか?

認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事であり「イラストでよくわかる 感情的にならない子育て」著者の高祖常子さんにお話をうかがいました。


高祖常子さん。とても気さくに質問に答えてくださいました。

体罰を容認する人は、4割に減少

――体罰を容認する人の割合は、2017年の6割から、2021年には4割に減少しました(注1)。2020年4月に改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が施行され、体罰禁止が広まった影響でしょうか?

実は、この法律の認知度自体はまだ2割なんです(注1)。なんといっても、近年、虐待のニュースが増加し、世の中の受けとめ方が変わってきたのが大きいのでしょう。一方、法律で体罰が禁止されたことは、もっと広く皆さんにお伝えしていかなければ、と思います。

――日本は、体罰禁止を法律に盛り込んだ国としては59か国目、東アジアでは2か国目です(注2)。先に施行した国ではどのような変化がみられますか?

体罰全面禁止は、1979年のスウェーデンが最初です。同国では1960年代に体罰を容認していた人が5割以上、体罰を用いていた人が9割以上でしたが、2000年代にはそれぞれ約1割にまで減少しました。

導入2年後の1981年には、スウェーデンの家族の90%以上が、体罰禁止の法律を認知していました。これは、政府キャンペーンの成果です。「あなたはお子さんを叩かずにうまく育てられますか?」という冊子を子どものいる全世帯に配布し、多言語での広報も行いました。また、牛乳パックに改正法についての簡単な情報を掲載しました。

(スウェーデンに関するデータはすべて注3)

虐待は、問題行動につながり、脳に悪影響を及ぼすと科学的に証明された

――「自分の子どもなんだからどう扱おうと自由」「ケガをさせるほどでない、しつけとしての体罰がどうしてだめなの?」という考え方も、日本ではまだ根強いようですが……。

「子どもも一人の人間として尊重されるべき」という権利の話が大前提ですが、以前は「子どものため」「良かれと思って」と行われてきた体罰が、子どもの成長・発達に悪影響だということが、最近科学的に証明されました。

私も構成員として加わった「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(厚生労働省)が定めたガイドラインでは、体罰が子どもに与える影響は以下のとおりです。

・体罰等が繰り返されると、心身に様々な悪影響が生じる可能性がある。
・「落ち着いて話を聞けない」、「約束を守れない」、「一つのことに集中できない」、「我慢ができない」、「感情をうまく表せない」、「集団で行動できない」という行動問題のリスクが高まる(藤原武男他「幼児に対する尻叩きとその後の行動問題:日本におけるプロペンシティ・スコア・マッチングによる前向き研究」2017)。
・手の平で身体を叩く等の体罰は、親子関係の悪さ、周りの人を傷つける等の反社会的な行動、攻撃性の強さ等との関連が示されている(ガーショフ他「手で叩く体罰と子どもの結果:これまでの議論と新しいメタアナリシス」2016)。

・体罰等が繰り返されると、心身に様々な悪影響が生じる可能性がある。
・「落ち着いて話を聞けない」、「約束を守れない」、「一つのことに集中できない」、「我慢ができない」、「感情をうまく表せない」、「集団で行動できない」という行動問題のリスクが高まる(藤原武男他「幼児に対する尻叩きとその後の行動問題:日本におけるプロペンシティ・スコア・マッチングによる前向き研究」2017)。
・手の平で身体を叩く等の体罰は、親子関係の悪さ、周りの人を傷つける等の反社会的な行動、攻撃性の強さ等との関連が示されている(ガーショフ他「手で叩く体罰と子どもの結果:これまでの議論と新しいメタアナリシス」2016)。

さらに、脳自体への悪影響も指摘されています。

・厳しい体罰により、前頭前野(社会生活に極めて重要な脳部位)の容積が19.1%減少(Tomoda A et al., Neuroimage, 2009)

・言葉の暴力により、聴覚野(声や音を 知覚する脳部位)が変形

(Tomoda A et al., Neuroimage, 2011) 

(いずれも注4)

虐待が及ぼす脳への影響

顔を叩くのはかわいそうだけど、お尻なら痛くないからOK、手なら大丈夫、という話ではないのです。さらに、怒鳴ることにより親に従わせることや、わざと子どもの心を傷つけることも体罰であり、不適切な関わり(マルトリートメント)です。

子育て講座参加の赤ちゃんとパチリ

虐待による恐怖は、自分で考えることを奪う

――「怒鳴る」も虐待なのですか? 子どもといると、つい大きな声で怒ってしまうこともあるかと。

虐待と言うと言葉が強いですが、心理的虐待とも言えます。結局、恐怖や怯えにより、親に従わせるということですよね。お子さんが将来、どんな大人になってほしいか考えてみましょう。

「優しい」「思いやりがある」「人の気持ちがわかる」「自分の考えをしっかり持つ」人という声を、親御さん達からはよくききます。要は、自己肯定感を持ち、人と協力できる、自立(自律)した人です。

お子さんを「他人の命令をきく」「疑問を持たない」「他人の顔色をうかがう」「指示を待つ」大人にしたいと思いませんよね?

怒鳴ったり叩いて言うことをきかせるということは、自分自身で考える機会を奪います。また、自己肯定感、自主性を持ちにくくするのです。

――では、「怒鳴る」「叩く」をやめるには、どうすればよいのでしょうか?習慣になっている場合は、考え方を根底から変えないといけない気がします。

まずは、「叩かない・怒鳴らない」と決めましょう。そうすると、心の盾となり、回数は確実に減ると思います。「感情的にならない親子関係」を作ることが大切です。子どもへの向きあい方を少し工夫するだけで、叩く・怒鳴るという場面を避けることができます。

ご自身が親に叩かれたり、怒鳴られて育ったという方も少なくありませんが、当時はそれが子どものためになると信じられていたのです。皆さんのご両親は悪くありません。

最近ようやく、問題行動や脳への悪影響が科学的に証明されたわけですから、皆さんが科学に基づいて、今日から虐待をやめればいいのです。脳は回復します。遅すぎるということはありません。

子育て講座の様子。男性の参加も増えた。オレンジ色は虐待防止運動の象徴。

――ママは「叩く」「怒鳴る」をやめたくても、パートナーがそうではない場合は? 特に、男の子は厳しくしつけないとと、パパもつい手が出てしまいがちかと思います。

低年齢の場合、男の子は動きが活発なこともあり、思ったように行動してくれなくて“つい”ということもありますね。パパ自身が叩かれ、怒鳴られて育った経験が多い傾向があると、自分の経験が子育てにあらわれて、厳しく接し、ときには叩いてしまうことがあるかもしれません。

日本の今までの文化として、男性はリーダーシップをとるべきというようなジェンダー的な思い込みがあり、なおさら「男の子はしっかり、厳しく育てるべき」と考える親が多かったのでしょう。

ご夫婦で、パパの幼少期について話をしてみてはいかがでしょうか? そして、叩かれて育った幼少期を否定するのでなく、「科学的に悪影響があると最近証明されたんだって。人の言うとおりに動くだけでなく自分で考えられる人になってほしいよね」と伝えてみるのもいいですね。

後編では、「感情的にならない親子関係」の作り方や、子どもの困った行動への対応にスポットをあてます。(文:岡本聡子)

注1:「体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査」https://cancerscan.jp/news/153/

注2:子どもすこやかサポートネットhttps://www.kodomosukoyaka.net/news/20200300.html

注3:Government Offices of Sweden, Save the Children(Sweden)「子どもに対する暴力のない社会をめざして 体罰を廃止したスウェーデン30年のあゆみ」https://www.kodomosukoyaka.net/pdf/2009-sweden.pdf

注4:厚生労働省健やか21「愛の鞭ゼロ作戦」リーフレットhttp://sukoyaka21.jp/ainomuchizero

【高祖常子(こうそときこ)さんプロフィール】

子育てアドバイザー、キャリアコンサルタント。資格は保育士、幼稚園教諭2種、心理学検定1級ほか。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事ほか各NPOの理事を務める。国や行政の委員を歴任。子育て支援や虐待防止、共働き支援など子育てと働き方などを中心とした編集・執筆ほか、全国で講演を行っている。3児の母。

『イラストでよくわかる 感情的にならない子育て』(かんき出版)https://www.amazon.co.jp/dp/4761272945/kosodate-22/

『男の子に厳しいしつけは必要ありません』(KADOKAWA)
 https://www.amazon.co.jp/dp/4046048468/kosodate-22/


岡本 聡子

岡本 聡子ライター・経営学修士・防災士

戦略系経営コンサルティング会社を経て、上海にMBA(経営学修士)留学。その経験をもとに『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』(『上海のMBAで出会った中国の若きエリートたちの素顔』を加筆・改題)を株式会社アルクより出版。幼稚園児の母。分析・事業開発支援、NPO運営なども行う。oyakobousai@gmail.com facebook.com/okamotosatokochina

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