【フランスからの報告】初めての出産・子育てをフランスで。日仏の差に驚きの連続!
フランスといってもパリから660km以上離れたスイスとイタリアの国境近く、フレンチアルプスのスキー場暮らし。そんな田舎&山から、華やかさはないけれど、ごく普通で一般的なフランスの日常や教育について、毎月2回リポートします!
第6回 乳児期にビックリさせられたフランス育児
26年前、移住したその年に妊娠&出産。フランス語はチンプンカンプンだったし当時はインターネットもなかったので、日本の育児本を何冊か取り寄せ、育児をスタート。周りは皆フランス人なのでやり方の違いが鮮明になり、フランス人達は気にしていなかったけれど、私は驚き呆然とすることばかりだった。
けれど最終的には自分に都合良く、便利な方法を日仏両方からピックアップ。つまり「おいしいところどり」をしながら3児を育てた。 今回はそのうちのいくつかを紹介します♬
退院後、すぐに散歩
日本の育児書によれば、免疫力の低い新生児期は外出を控え、1カ月検診を目処に散歩が奨励されていたので私もそのつもりでいた。ところが退院2日後には、親しいおばあちゃんが「今が散歩に快適な気温よ」と支度を手伝いに乗り込んできた。
「えっ、すぐに外? しかもまだ生後1週間なのに?」
育児書には、まずはベランダなどで足から徐々に外気に触れることから、とも書いてあったはず。
しかしフランス語力のなさから、ただ呆然としていると、おばあちゃんは手早く娘に温かい服を着せ、まだ11月だというのにニット帽も被せ、さらに毛布にも包み、新生児用の平らなベビーカーに寝かせると、その上からも毛布をかけ「準備完了。行きましょう」と私と外に繰り出した。
そのあと辞書を片手にフランスの育児書を読んでみたところ、これはそのおばあちゃんだけではなく、フランスでは当たり前のことだった。
今、フランスの育児サイトで「新生児の散歩」について検索してみても
―退院後、すぐにOK(もちろん、乳児や母体に問題がある場合を除く)
―最初は15〜20分から
―赤ちゃんのためというより母親の心身の健康のため
―毎日や定期的にする必要はない。義務ではなく、あくまでも親の気分転換や楽しみのため
と書かれている。
確かに1カ月間も新生児のために室内にこもっていたら、大人は心身が弱ってしまいがち。生後間もない新生児を慎重にくるんで準備するのは、新米ママには手間のかかる作業だけれど、やってみると、やはりほんの15分程度の外歩きはとてもいい気分転換になった。
第二子以降の子育てにも重宝で、とりわけ出産入院中、母親と離れていた上の子との退院後すぐの散歩は、親子関係の早期リカバリーにとても有意義だと思う。
また私は新生児用平らなバギーをもらったので使用したけれど、今も見ていると、周りのママ達は退院後すぐに新生児を抱っこ紐の中にすっぽり頭まで包み込んで散歩をしている。
コロナで外出禁止令発令中も同様。退院後すぐの散歩は、変わらぬフランス育児の「当たり前」だった。
生後1カ月まででも「母乳で育った子」
「栄養的には母乳がベスト!」説はフランスでも健在。70%の新生児が母乳で育っている。ただし、その期間には他国との違いがある。
ヨーロッパ内でも近隣諸国は約70%が生後1歳まで母乳育児。だがフランスは生後1カ月からは50%。6カ月からは20%。1歳時点では5%で、平均すれば4カ月までで母乳を終了。それでも新生児期に母乳を与えていれば「この子は母乳で育てた」ということなる。
これは、フランスは約83%が有職女性であり、生後1カ月から職場復帰。乳児保育園に預ける人が多いため。
また「栄養的には1歳までが理想。しかし母親の生活をノーマルに戻すためには6カ月を目処に徐々に減らす方が理想でもある」と婦人科医師達も助言する。
母乳の利点は「栄養面」「免疫面で病気やアレルギー防止になる」「お金がかからない」「用具も不要」「どこでもいつでも授乳できる気軽さ」「工場生産中のトラブルリスクがない」「乳癌や子宮癌の予防」「痩せる」「子どもの肥満防止」など。
欠点は「母親の体温が快適で十分に飲まないうちに寝てしまう」「飲んだ量が測れない」「空腹にもなりやすく、つい母乳を理由に食べてしまう」「食事や飲酒、喫煙などに制限がある」「父親や兄弟など他の人が授乳できない」など。
この論理は日本と同様。
そして、それら利点と欠点を考慮。愛用されているのが「搾乳&冷凍し哺乳瓶で授乳」方法。冷凍で4カ月保存可能。解凍後24時間以内は安全なので託児所にも持参できる。経済的で、量が明確なのも便利。
父親や兄弟も授乳でき、哺乳瓶の感触にも新生児期から慣れておけば、母親の復職時のトラブル防止になる。
搾乳し続ければ母乳の分泌量は継続。むしろ子供が寝入ったりして十分に飲んでくれなくても分泌量減少につながりにくく、母親の健康や美容のためにもいい。
・・・とメリットが多いことから、母乳育児であっても哺乳瓶と搾乳器、消毒や保温のための用具を揃え、新生児期から使用する家庭が多い。
また1歳前後の授乳率はわずか5%なので、断乳の悩みはあまり聞かない。
一方、喫煙のため、出産後すぐに断乳を希望する人も少なくなく、途中で仕事や体調など様々な理由で断乳をしたい場合も婦人科からすぐにピルが処方され分泌をストップさせている。
フランスでもおしゃぶりは賛否両論
フランスでも賛否両論ある「おしゃぶり使用」。
ただ「歯並びが悪くなる」という説については、フランスは反対論が多く「乳幼児の指しゃぶりは自然な生理行動。しかし指しゃぶりは加重箇所が偏るため歯並びへの弊害を及ぼしがち」という理由からおしゃぶり使用を推奨する小児科医や歯科医が多い。
その他「精神的安心感が得られ泣かない。そうして無駄に泣かないことで精神的に安定するという好循環を生む」「窒息死などの事故防止になる」「指しゃぶりよりもやめさせやすい」などが挙げられる利点。
「言語活動の遅れはあり得るが、3、4歳の頃にはその差はなくなっている」とも言われている。
標高1100mに住んでいる我が家の場合は、下の町から山道を車で登る途中、気圧の変化で大人でも耳が痛くなる人がいるほどなので、新生児が退院して帰宅するまでの道中のおしゃぶりは必須アイテム。
また日本に一時帰国する際の飛行機内の気圧対策にも必要。
つまり耳管機能のためには有効だった。
とはいえ、おしゃぶりを口にくわえることを頑なに拒まれることも多いので、最後の決定権は赤ちゃんにあるのかもしれない。
できるだけ抱かない
退院した直後からの散歩と同様、フランスのおばあちゃんに新生児期から言われて驚いたことが「なるべく抱かないこと」だった。
しかも理由は「抱き癖がつくから」ではなく「腰痛防止」で2度ビックリ。
「今は軽いからと思って気軽に抱いちゃうけれど、後で腰痛になるから」
どんどん重くなるから? と解釈したら、それもハズレ。
「出産後、開いたり緩んでいる骨盤にはできる限り負担をかけないこと。それが肝心!」という理由で大いに納得。
そのため抱く時にも極力、座った状態を勧められた。フランスの育児本にも「生まれた直後の肌と肌の接触はとても大切。しかし抱く時間は徐々に減らすことも大切」とあり、
理想は、1週間目は1日5〜6時間。2〜3週間は1日2〜3時間。1カ月後は1日30分以内。
子どもにとっても抱き時間を減らしていくことは、胎内からの脱出を身体的に感知させ、自立性を高め、外界への発見力を促進。人との身体的距離を作ることは、むしろ他との信頼感やリレーション力、社交性を早くから高められ早期教育につながる、と説明されている。
また「抱くことだけがスキンシップではない。特に手や足先を掌で包み込むことを日に数回するだけで、子どもは安心感を得ることができる」とも言われ、双子を産んだ日本の友人に伝えたところ「お陰で気が楽になれた」と喜ばれた。
添い寝はご法度!
散歩にしろ人工授乳にしろ、母親達のストレス防止のため、禁止事項を極力作らないようにしているらしいフランス育児だが、「添い寝」についてはご法度。
それもあって日仏カップルの男性側がフランス人の場合は、多くのパパ達は妻が添い寝することにとても驚き、反対したりもするのだそう。
添い寝ばかりか昔は「親子同室」もなく、出産前にはまずは子ども部屋を準備。
近年は住宅事情から同室もやむを得なくなってきているが、ただ必ずベビーベッドは用意すべしとされている。
その1番の理由は事故防止。
「母親の身体による窒息死」「大人用枕や布団による窒息死」のリスクがあるため。
そして衛生面でも「大人と同じシーツ類を使用することは不衛生」とされ、さらには「夫婦のセックスレスのきっかけになりやすい」からだという。
「添い寝は結局のところ母親に便利だからすることであり、子どもにとっていいことはなに一つない」と断言する小児科医も多い。
昼寝タイムに自由はなし!
もう一つ、睡眠事項について私が驚かされたのは
「眠くなくても毎日、同じ時間に昼寝タイムを決め、ベッドに入れる」だった。
結果的に寝なくてもいい。とにかく柵付きのベッドに入れ、雨戸やカーテンも閉めて光を遮断。部屋を暗くし、一人だけの「孤」の時を作る。
「孤独」の「孤」が「個性」の「個」に繋がるという考えでもあるらしい。
私は長女の時、途中からこれを導入したため、時すでに遅し。泣き叫ばれ根負けしてしまったが、次女と末息子には最初から実践。成功した。そして、その成功は後の幼稚園生活で大きな違いを出す。
幼稚園でも昼食後は毎日、同じ時間に昼寝タイムが30分ほどあり、写真のような昼寝部屋で真っ暗な中、寝ても寝なくてもとにかく静かに幼児達は過ごす。
大抵の子どもは乳児からの習慣でそれに従うが、10人中1人くらい(それも外国人の子に多い)は我が長女と同様、その習慣を持たないのでベッドから出て動き回ろうとしたり喋り続けたり、泣いたりして他の子を妨害。保母の手を煩わせ、当人も辛い時間を毎日過ごすことになる。
つまり郷に入っては郷に従え。フランスでは昼寝タイムに子どもの決定権を与えない方がその子のためになる。
と同時に、母親も毎日その時間はフリーになれるのでベターなことを私は大いに実感した。
どろどろの離乳食を哺乳瓶で与える!?
離乳食の開始時期は4〜6カ月からと日仏違いがないけれど、ビックリしたのはその与え方。
市販の離乳食を哺乳瓶のミルクに混ぜ、吸い穴を少し大きくして与える人が多く、乳児保育園でも希望者にはそうしている。
ほうれん草や人参、ブロッコリやサツマイモの市販の瓶入りピュレをミルクに混ぜ、日替わりでいろいろな色のドロドロをゴクゴクと哺乳瓶で飲ませる。
離乳食の最大の目的は、あくまでも「ミルク以外の味を知り、徐々に慣れていくこと」であり「栄養のため」でも「スプーンなど乳首以外の感触に慣れるため」でもない。それらは1歳以降で十分・・・というのが小児科医達の意見。
だから「もちろん時間があり、やりたいのならば、スプーンで少しずつ与えればいい。でも必須ではないことも知っておいて欲しい」とのこと。
私は実行しなかったけれど、これも時間や手間的には重宝な育児法の一つだなと感心した。
赤ちゃんより母親ファーストがフランス流
他にも分娩直後、すぐに子どもの名前を告げなければいけなかったり(私は事前に考えていなくて焦った)、産着は必ず足先まで覆うもので裸足の赤ちゃんは皆無だったり、帽子も被り靴を履いている新生児が多かったりと、出産直後だけでも驚かされた日仏の違いはたくさんある。
どれがいいとか悪いとかではなく、どれもアリ。
ただ、フランス育児の主軸が常に「親が少しでも楽をできるように」であることは、私にとってはとても有り難かった。
「完全には無理でも、少しでもノーマルな妊娠&出産前の状態に親達の生活を戻せ、近づける方法で」
という育児論理。 これもフランスの出生率を落とさず、ヨーロッパの先進国のなかでも、福祉を誇る北欧諸国を凌ぎ1位である勝因の一つかもしれない。