【フランスからの報告】フランスの初等教育
フランスといってもパリから660km以上離れたスイスとイタリアの国境近く、フレンチアルプスのスキー場暮らし。そんな田舎&山から、華やかさはないけれど、ごく普通で一般的なフランスの日常や教育について、毎月2回リポートします!
第8回 運動会なし。入学式&卒業式、始業式&終業式、授業参観&家庭訪問もなし!
日本は運動会や文化祭などで学校も賑わうのが秋!
でもフランスの小学校では運動会など学校行事はほとんどなし。そればかりか始業式、終業式、入学式、卒業式といった式典も一切なし。授業参観もなく、懇談会すら年度はじめの9月に1度ある程度(ただし個別にちょっとした問題でも教師と親の個人面談は随時できる)。体育の授業は水泳やスキー、テニスや自転車など、プロの指導者を雇うことが多く、音楽や英語、パソコンなども同様(私の住んでいる村の場合で、これは各市町村の予算による)。
昼食も学食スタッフが運営。つまり教師は、約1時間半はフリー。帰宅して昼食をとることも可能で、教室掃除も掃除スタッフが毎日行うので教師と生徒はノータッチ。校門から一歩出れば、そこからは親の管轄。家庭問題や生活指導にも教師は手を出さないので家庭訪問もない。
つまりフランスの先生は勉強を教えるだけ? シンプルで無駄がない? では初等教育では何に重点が置かれている? マナーや規律? 協調性? 読み書き&計算?
今回はその辺をのぞいてみましょう。
小学校高学年(9&10歳)の時間割
フランスの小学校は、水&土&日曜日が休校の週休3日制。水曜が半日授業だったこともあるが、ここ数年は水曜は完全に休校。週の真ん中で休養できるためか、インフルエンザ率などが低下。教師の疲労も溜まりにくく意欲的に働ける、と評判はいい。
では月火木金の4日間、何を学んでいるのか、小学校高学年(9&10歳)クラスの時間割を見てみよう。
1)1年生(6歳児)のクラスから1コマ・1時間半以上が当たり前
朝は8時半から10時15分まで1時間45分。その後も10時半から11時45分まで1時間15分。午後も13時半から15時の1時間半。15時15分から16時15分までの1時間。
子ども達が机に向かっている時間は意外に長い。でもこの習慣が実は大切。のちに全国一斉で行われる中学卒業認定試験や高校卒業認定試験(バカロレア)では1教科につき2時間以上。科目によっては、たった2題の質問に4時間前後かけて取り組まなければならず持久力&忍耐力を問われるからだ。
2)フランス語・最重視
教師により多少の違いはあるが、32コマ中13から14コマが文法や読解、活用形やボキャボラリー、詩の朗読、読書などの授業。つまり4割以上をフランス語が占める。
3)新たな風潮
市民教育やメディエーション(仲裁&仲介)。これらは私の子ども達の頃(10年ほど前)にはなかった科目。
テロ問題、そしてSNS普及に伴いフランスでも始まりつつあるハラスメントやイジメなどへの懸念&防止からの試み。メディエーション(仲裁&仲介)では3人1組になり2人が背中合わせに座り、それぞれ相手への不満や問題を訴え、1人が中央で双方の意見を聴きながら話し合いを進めることに挑戦。どうやって折り合っていくか。どうして折り合えないのかなども体験しながら考えていく(必ずしも解決に至らなくてもいい)。
また市民教育では、近年エコロジー教育にも力が入れられていて、教室でもゴミの分別が実施されている。
4)特殊教科
体育や音楽、図画工作や家庭科などの時間が少ないが、例えば冬ならば毎日半日スキーの週、夏前には毎日1時間ほど水泳の週があったり、父の日や母の日の直前には図画工作や家庭科の時間を設けてプレゼントを作ったりと、季節や機会に応じて臨時授業の形で組み込まれている。
そしてそれら特殊教科はテストや評価の対象にはならない。
各自のリズムを尊重。能力&進度別教育
教師が黒板の前で説明。生徒は一斉に同じ速度で学習する。そういった集団教育は工場での労働力育成時代のやり方。今の時代には合わない。これからはインディビジュアル(個人)教育が必要。アメリカ合衆国はオバマ政権時代、そう唱え、多額の投資をしたが、フランスの小学校では昔から生徒各自の速度による授業が行われている。
でもそれを「北欧などはもっと進んでいる。フランスはまだまだ」とも言っている。教師は黒板を用いて全員に説明し、その後、子ども達はそれぞれワークブックやノートで理解するための作業に専念。終わった子どもから教師に確認してもらい、早く終わった子は教室の隅にある遊び場で読書や塗り絵、パズルやブロックなど、音を立てなければ遊ぶことができる。
一方、早くできない子も、その速度を気にする必要はないとされ、理解できるまで、場合によっては休み時間も教師が付ききりで教える。昼食前の11時45分から12時までの15分間の昼休みも、その「補習時間」とされていて、そのため教室には残って勉強している子どもも多い(時間割・参照)。そして、その15分間も教師には有給時間としてカウントされる。(基本的にフランスはサービス残業のような無給労働は法律で厳禁)
「落第&飛び級」も平等&公平・教育のひとつ
能力(進度)別教育のため、落第と飛び級も幼稚園の年長組からある。
ただし落第については最後の手段。教師が最善を尽くして教え、それでも不可能な場合。親にも助力を依頼。親が努力しても無理だったり、親の協力を得られない場合。また精神的にも未熟で下の学年と一緒にいた方が当人も楽そうだと教師も親も判断した上で、教育委員会からも委員が来校。検討した上で判断する。
飛び級についても勉強面だけではなく、精神面での早熟さが考慮される。仮に勉強が群を抜いてできるからといって飛び級になるのではなく、精神レベルは同年と同じなのか? それとも一級上と一緒にいた方が楽しく遊んだりもできるのか? などを観察&考慮される。
ごく稀に飛び級を望んで早期教育を施す親もいるが、大多数の親達にはそういった競争心はなく、落第についても恥じることはない。あくまでも一人一人の子どもの成長速度や成長内容に見合った学年で学ばせることが、精神面でも肉体面でも頭脳面でも重要という考えが強く、親にも浸透し続けている。
そしてそういった個々にとっての「分相応な教育」を受けられることこそ、きめ細やかな『平等&公平・教育』のひとつと捉えられてもいる。
幼小・一貫教育
大都市を除けば幼稚園と小学校は同じ敷地内に隣接。幼小一貫教育が基本。教師も幼稚園と小学校は同じ「初等教育免許」。幼稚園の教師が翌年には小学校教師をしたり、あるいは月曜は幼稚園の年少組を担当、他の日は小学校の担任であるということも多々。
また一貫教育なので、子どもの成長度合いにより、幼稚園年長組から小学校1年生への飛び級も可能。
以前は、幼稚園は義務教育ではなかった。それが2019年より「その年、3歳になる児童からの幼稚園就業は義務」と文部省が通達。そしてそれは国民に限らず、フランスに在住している外国人の子どもも同様。むしろ移民の子どもや親が外国人の子どもほど、必ずフランスの教育を受けさせるようにとされている。
一時、日本では外国人であるがゆえに入学や就業できない問題などが取り上げられていたが、それについてはフランス政府も一般国民も驚愕。国の社会秩序や国民の安全を守るためにも居住する全ての子どもに国の教育を受けさせなければ危険を生むことになる、とフィガロなど大手の新聞などでも取り上げられた。
知らなかったぁ!! 自由研究の重要性
フランスの小学校は5年制。その2年生か3年生から始まるのが「自由研究の発表」。
何をテーマに選んでもよく、2人か3人の友達同士での共同作業によることが多いので、私は日本の夏休みの自由研究と同じようなもの。遊び感覚のものだと思っていた。ところが大間違い! 中学卒業試験や高校卒業試験(バカロレア)にも続く勉強であり、果ては大学や大学院まで重要視されるものだった。
その教育意図は
1)テーマを決め、それについて深く、広く、調べる方法を探る
2)人との共同作業をできるようになる
3)正確にわかりやすく説明できるようになる
4)多くの人の前で発表することに慣れ、弁論力を高める
これらは社会に出て仕事をする上でも、また地域で市民として生きる上でも必須。幼稚園3年間&小学校5年間。計8年間での初等教育の教育目標も「頭で考えていることを相手に正確にわかりやすく説明するコミュニケーション能力を身につける」が筆頭に挙げられている。
そしてこのことを私が知ったのは、我が3人の子ども達が大学生になってからのこと。 フランス人が国際的にも日常的にも「弁がたつ」理由は、この初等教育からあるのだと随分あとになって納得した。