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経口中絶薬の薬事承認申請で見えてきた 本当に大切なこと

経口中絶薬の薬事承認申請で見えてきた 本当に大切なこと

                       

望まない妊娠が産む悲劇

昨年11月、都内の公園に自分の産んだ赤ちゃんを遺棄したとして、20代の女性が逮捕されました。女性は家族と同居していましたが、家族に妊娠の相談はせず、家族も女性の妊娠には気が付かなかった、と言います。

望まない妊娠の末、出産したばかりの我が子を手にかけてしまう。そんなニュースが、世間を騒がせるたびに疑問に思ってしまうことがあります。

「なぜ、家族に話さなかったのだろう」「中絶を選択できなかったのだろうか」

人工妊娠中絶手術は、母体保護法という法律が定めた適応条件に合致し、かつ妊娠22週未満(21週6日まで)である場合にのみ、認められています(参照1)。

また、費用は、妊娠11週6日までの初期中絶でおよそ10~20万円。妊娠12週0日~21週6日までの中期中絶では、死亡届や火葬・埋葬費用もかかるのでおよそ30~50万円といわれ(参照3)、いずれもほとんどの場合、保険適用外(ただし、中期中絶の場合、出産育児一時金支払制度が利用可能)。

厚生労働省の調査によれば、日本の人工妊娠中絶件数は年間15万件ほど。中絶したい、したいけれどできない。その背景は人によって様々でしょう。そんな中、年内にも経口中絶薬の薬事承認の申請がなされるかもしれない、という報道がありました。この薬が承認されるか否かは、望まない妊娠に悩む女性にとってどのような意味を持つのでしょう? この経口中絶薬に関し、イーク表参道 副院長、高尾美穂先生にお話を伺いました。

経口中絶薬は、女性の健康を守るための安全な選択肢

今回承認申請される見通しなのは、英国の製薬会社・ラインファーマの、「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」の2種類の薬。実は、日本では2018年、この薬をインターネットで入手した女性が大量出血を起こした事例があり、厚生労働省は薬の危険性を注意喚起していました。

「確かにそのような事例はありましたが、この薬はWHO(世界保健機構)が『安全な中絶方法』と推奨していて、世界的には中絶する場合のファーストチョイスでしょう。2種類の薬を順番に服用することで胎児や胎盤を排出。24時間以内にほとんどの人が安全に中絶を行うことができます。腹痛や吐き気などの副作用がありますが、妊娠を中断させる以上、想定内。むしろ、WHOは日本の初期中絶手術で行われる『そうは法(胎児や胎盤をかき出す)』について、子宮を傷つける恐れがある、としています。

あくまで『承認申請されるかも』という段階の薬なので、使用方法や、価格などの具体的事項はこれからの問題。ただし、これまで医師が処理していた内膜や胎芽、といったものを本人が目にしたり、処理したりすることになれば、相当なショックを受ける可能性が高いのではないかと思います。

また、価格も海外では数千円程度のようですが、日本では中絶は保険適用外。そこまで安価ではありません。

それでも、経口中絶薬は中絶手術に比べて女性の心身への負担が少なく、何より女性の健康を安全に守る選択肢が増える。これは、大きなメリットです」(高尾先生)

自分の望む人生を自分で選択する 

確かに、この薬が日本で承認されれば、「中絶」という選択肢を選ぶハードルは少し低くなり、望まない妊娠に悩む女性には大きな救いになるかもしれません。けれど、中絶を経験した女性の多くは、その後、罪の意識にさいなまれる、と聞きます。「中絶」をどのように捉えればよいのか、とても難しい問題だと感じました。

「自分らしい人生を自分で決める、ということだと思います。『望まない妊娠』もその人の選択なら、『中絶』もその人の選択。

自分の人生を前向きに捉える流れの中で、妊娠も、中絶も、出産も、自分で選択する。適切に中絶すれば、その後も問題なく妊娠できる。自分が望む人生を、新しく自分で設計し直すことができるのです。反対に、覚悟を持った選択がなければ、後悔が残ってしまうかも。

ただし、中絶はあくまで最後の選択。その前に、低用量ピルや正しい避妊、緊急避妊薬など、できることはしてほしい。性交渉を持たないことだって、立派な一つの選択です」(高尾先生)

親子の自然なコミュニケーションの中で性の話を

昨年のコロナ休校期間、中高生からの妊娠相談が急増している、という報道が相次ぎました。

前述の厚生労働省の調査結果によれば、2020年度は中絶件数も、妊娠届出数自体も前年度より減少傾向がみられ、妊娠相談の増加がそのまま、望まない妊娠の増加につながっているわけではなさそう。ただ、長期休暇中は交際相手と会える時間も長くなり、性交渉に至るケースは増える可能性はあるのかも。

我が家の2人の息子はまさに中高生。母というものは概して「うちの子に限って」と思いがち。けれど、この報道を知ったときは、さすがに多少の不安を感じました。かといって、面と向って「じゃあ、性教育を」と思ってもかなり話しづらい。

「中高生は一般的にはまだ精神的にも経済的にも親の管理下にあり、成長途上。行為の責任を自分自身でとることができない以上、性交渉を持つのは少し早いかもしれませんね。ただし、肉体的には成長しているので、性交渉の結果として妊娠がありうる。そのことはきちんと伝える必要があるでしょう。学校の教育だけに任せるのは、無責任。

私はスポーツドクターでもあるため、選手のパフォーマンス向上のためにどうするか、という話題の中に、生理など性の話を落とし込んでいく。性教育、と大上段に構えると窮屈で、普段の会話の中に斜めに入れ込んでいくと良いのではないでしょうか? 脅すような言い方をせず、前向きなコミュニケーションの中で話すことがポイントです」(高尾先生)

冒頭、事件を起こしてしまった女性たちに感じた「なぜ、家族に話さなかったのか」という疑問。もしかしたら、「話さなかった」のではなく「話せなかった」のかもしれない。先生の話を聞いているうちに、ふと、そう感じました。彼女たちには、望まない妊娠をした、その次に選ぶべき道、選択肢が与えられていなかったのではないか、と。

「産む性」としての女性は、それ故に苦しみ、悩むことがある。けれど、それは同時に、自分の人生をより豊かに前へ進める強い力にもなりうる。

そのことを強く感じた取材でした。

経口中絶薬、という薬の話から先生が見せてくれたのは、その時は辛くとも、「自分の人生を自分で選択する」ということ。それはまるで、まっすぐ伸びる一本の道のようです。

<お話しを聞いた人>

高尾美穂さん

産婦人科医・医学博士・スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。文部科学省・国立スポーツ科学センター 女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー。長年ヨガを愛好し多くのヨガインストラクターを指導。YouTube「高尾美穂からのリアルボイス」では毎日、女性のお悩みに答え、楽に生きられる考え方を配信している。

参照

日本産婦人科医会・人工妊娠中絶ができる条件
https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/ninsinshusanqa5/

日本産婦人科医会・人工妊娠中絶について
https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/ninsinshusanqa6/

Medical DOC・中絶手術の費用はどのくらい?
https://medicaldoc.jp/column/abortion-surgery-cost/

厚生労働省・新型コロナウイルス感染症流行下の自粛の影響
https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000779764.pdf

2020年9月29日・読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200928-OYT1T50117/

中村 亮子

中村 亮子ライター

1971年東京都出身。中央大学法学部法律学科卒。転勤族と結婚し、全国を転々と旅するような生活を送る中、偶然の出会いに導かれ、フリーライターの道へ。家族は夫と息子が二人。趣味はピアノ

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