【フランスからの報告】離婚したら子どもは誰のもの? 単独親権(日本)VS 共同親権(フランス)
日本では、子どものいる夫婦の「離婚」というと即「親権争い」が始まるイメージが強い。でも、それは「日本ならでは」のこと。
先進首脳国・G7(アメリカ合衆国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本)の中で、離婚後、親権を夫婦のどちらかに決めるのは日本のみ。
G20でも「単独親権」なのは、インド、トルコ、サウジアラビア、日本のみだ。
では「単独親権」の何が問題なのか?
どう「共同親権」と違うのか?
そもそも「親権」とは何なのか?
日本とフランスの違いという点から観てみましょう。
第29回 「親権」は「父母に与えられる特権」ではなく「父母に与えられる職務」
まず「親権」とは何か?
フランスの民法には「子の利益を究極の目的とする権利と義務」と記されている。それは日本の民法でも同様。
「親権者は子の利益のために、子の監護および教育をする権利を有し義務を負う」とある。
具体的に言えば、両国ともが例に挙げているのは、
「親権者が、成人するまで子の教育を保障する義務」
「未成年の子が生じさせた損害については、親権を持つ親が(フランスの場合は父母が連帯して)、監督義務を怠ったとして責任を負う義務」
「未成年の子の借金については、契約の取り消し手続きを代行できる権利を親権者は持つ。それは言い換えれば“手続きをしなければいけない“義務でもある」
「未成年の子の不正な方法による借金の場合は、親権者に返済義務が生じる」
つまり「親権=親の権利」と呼びつつ、実際には義務項目の方が多い。
そうなると「どうして争ってまで親権を欲しがるのだろう?」とも思えてくるが、そこに絡んでくるのが、日本の「親権」と「養育権」との奇妙な関係性だ。
もしかしたらココが日本の難点かも!? 「親権」=「養育権」
「養育権」とは監護権。つまり「子どもを監督・育成・保護する権利&義務」
そして日本は長い間「親権と養育権は一致させ、別々にするのは薦められない」と、裁判所や弁護士など法律関係が唱え続けてきた。
しかも離婚後、養育権は親権よりも早く決まる。そのため養育権を得た親がそのまま親権を得るケースが大半。
つまり、片方の親だけが親権も養育権も得、もう1人の親はなにもかもを失うことが一般的となっていて、それを恐れて多くの「親権争い」が起こるのかもしれない。
でもそれは、子どもにとっては「自分を守ってくれる親」を失った上に「共に暮らせる親」も失い「完全な片親になってしまう」ことでもある。
「親権」の「子の利益のため……」からズレてしまってはいないだろうか?
「子どもの利益」への概念の違い
そもそも「子どもの利益」への考え方が日仏では大きく異なる。
まずフランスでは「子どもの利益=子どもとそれぞれの親との関係の継続性」。そのため「親子の“切り離し“や“消去“は、決してあってはならない」とされている。
一方、日本では「子どもの利益=子どもの生活状況の継続性」。
そのため、戦後からの専業主婦主流・時代に「監護の継続性が可能」な母親に優先的に養育権が与えられ、「親権と養育権は一致させた方がいい」と親権も母親が得る形が定着した。
「親権」の歴史🇯🇵🇫🇷
DV対策
日本のメディアなどでは「共同親権の場合、DV(家庭内暴力)があっても大丈夫なのだろうか?」という声もよく聴く。
フランスについていえば、DVに限らず、親の精神障害、アルコール中毒など「子の利益」を尊重できないケースでは、裁判官により「単独親権」行使もされている。
ただし、その場合も子どもから親への訪問・宿泊の権利を完全に奪うものではなく、心理学者同席による「面会センター」での面会などは可能。
「子どもの安全は守りつつ、子どもの利益を守る」を念頭に、親子の「切り離し」や「消去」を回避し続ける。
そして、ここでも注目すべきはDV対処への日仏の基本的な違い。
日本は「被害者が逃げる」が基本。
フランスは「加害者を退去させる」が基本。
もちろん被害者の逃げ場であるシェルター施設も全国各地に設置されている。
なによりの違いは、フランスにある「DV対策制度」が日本にはまだない点だ。
国際結婚ではなくても知っておくべき『ハーグ条約』
「子の利益」に関して「共同親権と単独親権の違い」の他にもう1つ、日本ではあまり知られていない、でも実は島国である日本の国民こそ知っておきべき国際条約がある。
それが「ハーグ条約」。
「世界的に増加した国際結婚&離婚での片方の親による一方的な連れ去りから、子の幸せや権利を守るための条約」で、1980年オランダのハーグで締結。
わかりやすく言えば「子どもを連れて国境を越える際のルール」。
つまり、国際結婚や離婚問題に限らず、日本から片親だけで子どもを連れて海外旅行をする際にも心得ておかなければいけない条約。
2020年時点では101カ国が加盟。日本も2013年に条約にサインをした。
しかし「日本人はこの条約を守らない!」との悪評も高く、日本人と結婚する外国人やその家族達には「なにかあればアラブやトルコ人と同様、子どもを勝手に日本に連れ帰るかもしれない」と恐れている人もいるという。
それというのも日本国内に在住の国際カップルの場合には日本の法律が優先。ハーグ条約は有効性を失う。
つまり日本やサウジアラビア、トルコの場合は単独親権のため、離婚により日本人に親権が決まった場合、外国人である親は日本では母国の「共同親権」を主張できず、「連れ去り」も訴えられない。
ハーグ条約の詳細を知りたい方はこちらのサイトをどうぞ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000033409.pdf
https://www.mofa.go.jp/files/000143587.pdf
東京オリンピックのメインスタジアム国立競技場前で「子どもの連れ去り問題」で21日間のハンガーストライキを行ったフランス男性・Vincent Fichot(ヴァンサン・フィショ)氏。フランスではなく日本在住だったため、妻が子どもを連れて出て行っても日本国内にいる限りは「連れ去り」にはならない(ハーグ条約は子どもの居住国以外に連れ出した時のみ対象となるため)。詳細はこちら⇒ https://vincent.child-abduction-japan.com/
「G7の一員である日本が、まさか単独親権の国とは」という世界の視線をどう受け止めるのか?
日本が世界でも珍しい「単独親権の国」であることは、「なによりも子どもの利益を尊重したから」ではない。
離婚も国際結婚も少なかった「かつての日本」では、政府も多くの国民も単独親権に疑問を抱く機会がなく、共同親権への興味すらも感じなかった。
つまり単に昔からの継続。放置されてきただけに過ぎない。
しかし、夫婦共働きで子育ても共有しあう男女が増えた近年。そして離婚も増え、国際結婚も珍しくない時代に、日本がサウジアラビアやトルコと共に「単独親権の国」であり続ければ、苦悩する男女や子どもは確実に増え続ける。
なにより「親と子どもが望んでも、共同親権にはできない」ことは大問題。
親権の「子どもの利益を守る」理念からは明らかに逸れている。
またDV対策同様、よくTVで「子どもの学校選びなどについても、共同親権の場合は離婚後も話し合って決めたり、相手の了承が必須。その辺が面倒&厄介」などと唱えられていたりするが、それこそ親サイドの勝手な発想。
離婚で夫婦ではなくなっても、子どもにとっての親であることは変わらず、子どものための話し合いや調整をし続けるのは、親になった者の義務。面倒&厄介&苦痛であろうと耐えなければいけない職務。
その点で「単独親権は“捨て子“を奨励するようなもの」と考える多くの国からは「まさかG7の一員でもある日本が単独親権とは!」と非常に驚かれている。
前記した年表にあるように、2018年に「共同親権制度導入の検討を発表」したはずなのに、また今年の3月にも「導入の検討を開始」に戻っている政府。「迅速な対応や決断力」はここでも求められている。