連載:絵本とボクと、ときどきパパ 日本らしい年越しと大晦日の絵本
数日前にオランダに住む妹から悲鳴のようなメッセージが届きました。
「こっちは明日からロックダウン! 休校は1月中旬まで!」。
子どもとたっぷり過ごせて幸せな反面、自分の時間は削られ大変です。この先、日本はどうでしょう。新型コロナの変異種は日本にも上陸することになるでしょうか。
はたまた休校だって考えられます。そうなっても困らないよう、息子の通う公立小学校でもオンライン授業ができるよう準備を進めてくれているので、春の休校時のような学習面の滞りは軽減されそうです。とはいえ、やっぱり休校は困りますよ。
そんなこんなで、この一年は本当に早く感じました。インパクトの強い春の後、思うように出かけられなかった消化不良の夏は過ごした記憶が薄い。2学期を息子と駆け足で二人三脚しながら、もう秋だと思っていたら、あっという間に年の瀬ですもの。1年をきちんと締めくくらなくては、と焦ります。
そんな矢先にオランダからのロックダウン通知。それと同時に子供とクッキーを焼いただとか、リースを作っただとかの写真が添付されていました。家での時間を満喫しているようですが、リースとは!
やはり1年を締めくくる慣習は国によってまちまちです。オランダではリースを手作りするのが当たり前のようです。私もおとずれた時に、門に飾られた個性あふれるリースに目を奪われて、一つ一つ写真に収めて歩いたのを思い出しました。
年越し自体も衝撃的でした。夜中の12時がくると、街の人たちは一斉に花火を打ち上げるんです。この国では「煙火消費保安手帳」のような免許は必要ないのか、などと疑問に思うゆとりもありません。凄まじい爆音。閃光の嵐。まさに腰が抜けそうになりました。反対に人の声や音楽はほとんど聞こえてきませんでした。
一方、長年過ごしたフランスでは、夜を徹してのパーティーがいたるところで催されます。会場もありますが、大概は個人宅。我が家でも50人ぐらい迎えたこともあります。おしくらまんじゅう状態の中、いろんな人とのおしゃべりを楽しんだり、一緒に踊ったりしながら夜中の12時を迎えます。カウントダウンしてシャンパンで乾杯。一通りお祝いのキスをし終わると、帰る組はそっちのけで再びおしゃべりや踊りが始まります。とにかく、騒々しいわけです。
反対に静かなのは日本の大晦日ですね。
大勢の人がお寺に集まりますが、一部の地方のお祭りを除けば、どんちゃん騒ぎをするわけではなく、お焚き上げを見て、静かに並んでお参り。甘酒飲んで、大きな鐘の音を聞いて、大人しく帰る。その日ばかりは子どもも遅くまで頑張って起きています。
私の幼少期は、大晦日はフランス風の過ごし方をしていたので、日本に住んでいた時、除夜の鐘を聞きにお寺に連れていってもらったことはありません。近所の幼馴染たちは、おこたで年越し蕎麦を家族で食べ、紅白を観て、半纏を着て、私の知らない夜中の路上に繰り出していました。
除夜の鐘を聞きに行くんだと。夜中まで起きて、お寺で甘酒を飲んだと聞くと、同じ年頃なのに、ものすごく大人な感じがしたものです。怖くなかったのだろうか。一体どうやって眠気をこらえていたのだろうか。私は9時には眠くなっちゃうのに、なんだか素敵。
子どもが生まれると、息子には、あの、大人びた静かな年越しを経験させたい。そう思いました。長い間、私は日本らしい年越しに憧れていたんですね。
ですから、息子が初めて迎えた31日は、静かな夜道の中を抱っこ紐姿で、お寺に向かいました。
間近で見るお焚き上げの神々しかったこと。鐘の響きが澄んでいたこと。甘酒があたたかかったこと。そして眠いと思ったこと。ぱっちり目を開けて周囲を見つめている赤ちゃんの息子とは対照的に、抱っこしている私の方が早くお布団に入りたいと思ったのも、新鮮でした。
以降、日本で年越しを迎える時は、できるだけ日本風にしようと心がけています。でも今年は、お寺の除夜の鐘は混み合うから画面越しかな。
1年が過ぎるのが早くてもゆっくりでも、時は確実に刻まれていきます。どんな時も誰のところにも平等に。その「時」に彩りをつけるのは、どう過ごすかなのでしょうね。画面越しでもなんでも、除夜の鐘が刻む時を、まずは天ぷら付きの年越し蕎麦とともに楽しもうと思います。
ということで、お寺に出向くのを控えたとしても、年越しらしさを味わいたいものですね。
こんな絵本はどうでしょうか。
お蕎麦にちなんだ落語絵本、『ときそば』(川端誠:作/クレヨンハウス)
一般的によく知られる落語の演目ですが、やっぱり可笑しいものです。屋台の蕎麦をただ食いしようと企んだ男が、うまいこと店主をちょろまかすテクニックは手品師のよう。お見事と唸ってしまいます。そして、おなじみのパターンに続きます。その様子を傍で見ていた男がいざ真似しようとすると…、です。
薄暗がりの中に人の顔が屋台の灯りで浮き上がり、湯気が立つそばを啜る描きっぷりに、こちらの食欲も掻き立てられます。落語系のお話は、絵本を手に取らなくなった高学年にもウケがいいので、おすすめです。
『かさじぞう』(瀬田貞二:再話、赤羽末吉:絵/福音館書店)
貧しい暮らしをしている老夫婦のお話。ある年の瀬に、お正月を迎える餅に替えようと、少しの傘を持っておじいさんは出かけます。ところが市では一つも売れません。仕方なく傘を持ち帰る帰り道。吹雪の中を進むと、野原の石地蔵様たちが寒そうに並んでいます。気の毒に思った男は、お地蔵様に手持ちの傘をかぶせていき、一つ足りないと自分の分も使ってしまいます。
すると、その夜になんとも不思議なことが。大晦日に欠かせない心温まる昔話ですが、様々な作者の絵本がある中で、本作品は私の一押しです。語りのように生き生きとした文は読みやすいですし、赤羽末吉さんの絵で昔話の世界にどっぷりと浸れますから。(4才から)。
『じょやのかね』(とうごうなりさ:さく/福音館書店)
これぞ私がイメージする日本の年越し。こういう雰囲気に憧れていました。新しい年が始まるときを見ようと、眠気をこらえて男の子がお父さんとお寺に出かけるお話です。いつもと違う、寒さと緊張感が漂う街並みを白黒の版画で描いています。同時に、温かみも伝わってきます。暗がりを照らす街灯の明かり、おばさんたちの甘酒、ぴったりとくっついたお父さんの手、お線香の煙…。そしてお腹に響く大きな鐘の音が聞こえてくるようです。とても神聖な気持ちにさせてくれる逸品です。(4才から)。
みなさま、今年もお付き合いありがとうございました。
良いお年をお迎えくださいね。 (Anne)