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アート脳ってなに?どう育てるの?

連載:絵本とボクと、ときどきパパ アート脳ってなに?どう育てるの?

絵本『ごろごろごろ』(ながたしんさく:さく/東急エージェンシー)を手にしてみたら、サブタイトルに「子どもといっしょに育てよう アート脳」とありました。

「アート脳」?

その初めて言葉を目にして、ふと思い出したのが全然違う分野のこんな話です。

「英語は何歳から学ばせるのがいいと思いますか?」

これは、以前に臨床心理士の方にお話を伺う機会があった時に、問われた質問でした。まだ息子が保育園に通っていたころです。私も人の親。子どもの将来や可能性を考えて、お稽古事に英語という選択肢を入れようかと悩んでいたところでした。

そんな矢先のこの質問。「0歳」かしら? でも私は早いに越したことはないという先入観で即答するのを控え、少し考えて「4、5歳?」と遠慮がちに言ってみました。

ところが全く的外れ。「ううん、もっと後なんです」。

先生がおっしゃるには、9歳ごろが適齢期だそうです。ちょうどその頃に、子どもの脳は論理的に物事を考えられるようになるので、外国語の構造を理解して効率よく吸収できる、というようなお話でした。私は、それを聞いて、早期教育の焦燥感から解放されたのです。息子のお稽古の優先順位から英語を外し、ほっと肩をなでおろしたのを今でも覚えています。

ただ、一方で、こんな疑問も浮かびました。論理的に物事を考えられるようになるということは、すなわち感覚だけを頼りに世界を捉える能力が失われてゆくということではないかと。

これはこうだからこうで、あれはああだからああなのだ、という物事の解釈方法が始まると、子どもを取り巻く混沌とした世界に「白黒」がつく。わかりやすくなる一方で、それはつまり、様々なものが区分けされ、どんどん境界線を敷き、感覚を限定してゆくもののようでしょう?

その成長は必要なことですが、だとしたら論理的思考が「邪魔」する前にこそ得られる感覚は、たくさん備わっていた方が良い。より伸びやかな論理的思考が育つには、栄養たっぷりの豊潤な感覚の土壌を耕しておくべきだ、というイメージが湧いてきました。子どもの感覚に、たっぷり働きかけたいと。

実は私が在仏中に受けたシュタイナー教育では、子どもには7歳になるまで文字を学ばせません。文字から情報が得られるようになると、他の感覚を使って世界を把握しようとする働きが鈍る。絵を描かせるときも線を引かせません。

蝋でできた太いクレヨンや絵の具で、色を塗り、形も滲んで朧げです。人を描いてもまるで周りの世界と人とが溶け合っているような絵になります。幼児の段階で、物事に線引きをさせない。全て五感を自由に泳がせるためなのだと聞きました。

私は冒頭の先生のお話を伺い、そしてシュタイナー教育を思い出し、では息子にしてあげられることはなんだろうと考えました。たくさん遊び、出来るだけ美しいものに触れてほしい。

自然、音楽、絵画、彫刻、耳から聞く「物語」。でもたとえ森の中で暮らせなくても、コンサートや展覧会に連れていくのが難しくても、ゴッホやピカソを家に飾らなくても、大丈夫。絵本さえあれば。なぜなら、絵本のなかに入れば、ありとあらゆる感覚が呼び覚まされる。そう信じたからです。

というわけで、それからというもの私はそれまで以上に絵本選びに専念し、息子に朝晩、時間を見つけては、せっせと読んで聞かせるようにしました。小さい時だからこそ心から楽しいと思える、感覚的な絵本。抽象的な絵。ロジックとはかけ離れた展開。それまでは手に取りもしなかったナンセンスと呼ばれるような内容のものも積極的に。

大人が手にとって見るだけでは、論理的に考える癖が妨げとなって、どこに面白味があるのか大抵はさっぱりわからないと思います。でも子どもは、感覚がとても自由なのでしょう。こうした作品を一緒に読んでみると、自由な感性に大人の心も動かされ、もっと楽しんでもらおうと読み方を工夫したりして頑張るわけです。そうすると子どもから教わるようにして、感覚的な世界を堪能できるようになるのだと思います。

そして、一度その感覚の扉を開くと、そこに別の世界が広がる。ストーリーが生まれ、新しい発見があるでしょう。

「子どもといっしょに育てよう アート脳」とは、そういったことなのだと思いました。

こうした自由な感覚が育まれるほど、大きくなってからの底力になる。ロジックでは思いつかないような、プラスのひらめきや発想の転換、ピンチに打ち勝つ力が培われるような気がしてなりません。

子どもにはぜひ小さいうちにたくさんの感覚に栄養を与えて、芽を伸ばして、そのうち世の中の不条理もなんのその、というぐらいになってほしいな、と思っています。

『ごろごろごろ』(ながたしんさく:さく/東急エージェンシー)では、丸と三角がぶつかり合ったり、大きさが変わったりしながら、ごろごろ、がちがち、と音を出します。

声に出して読んでるうちに、丸いものや尖ったもの、大小の感覚が芽生えて、モノクロの形が頭の中で彩られていくような作品です。絵本を読み聞かせることによって、子供と大人が一緒になって柔軟な感覚を育んでいく。

本作品の発売を記念してた小泉今日子さんとのトークイベントでは、お二人は「理屈でわからないこと、簡単にはわからないことを考えること」がアート脳だとし、「子どもは大人が忘れてしまった感覚や視点を持っているので、大人の押し付けではなく、一緒に考えることが大切なのでは」とお話されたそうです。

『もけら もけら』(山下洋輔:ぶん、元永定正:え/福音館書店)

こちらも、大人にはわからないが、子どもは大好きだという作品の定番。ジャズピアニストでもある著者たちが、音を視覚に訴える形にしたものです。へんてこな形のものが登場し、意味不明な音を出します。

そして形を変えたり、別の形を生み出したり、言葉では到底説明できないような感覚的な世界が広がります。ページを開いた大人が、「なにこれ?」と躊躇している間にも、もう子どもは何かを感じ取って、頭の中で何かをイメージし、笑い出しもします。子どもにもっと楽しんでもらおうと思ったら、テンポを変えたり、強弱をつけたり、声色を変えたりしてみると良いですよ。

すると次第に、遊園地だったり、工場だったり、空の上の世界だったり、様々な空間を思い描ける作品です。(2歳からとありますが、0歳からでも)

さて。昨年末に安野光雅さんの訃報があり、とても残念に思いました。たくさんの傑作に感謝の気持ちを込めて、代表作の一つ『ふしぎなえ』(福音館書店)をご紹介したいと思います。

これこそロジックが通じない。安野さんが魅了されたシューレアリスムやエッシャーの摩訶不思議な世界を子供達にも親しんでもらいたいという思いから制作されたそうです。

ページを開くと、緻密で異国情緒溢れる素敵な絵。でもなんだか変。どこがどうなってるの? じっくり見ていくうちに、頭にさまざまな物語が浮かんで、ありえない状況の虜になります。想像力を豊かにする素晴らしい作品です。何時間も見入った私の幼少期が懐かしい。(4歳から) (Anne)

Anne

Anneモデル・絵本ソムリエ

1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。 国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。 出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。 6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。 現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。

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