子育てママのお悩み解決メディア
おばけと怖いお話

連載:絵本とボクと、ときどきパパ おばけと怖いお話

育児を経験する前の私は、子どもと見るとこんな風でした。

かわいいけれど、そんなに興味がない。大人同士でおしゃべりする方がずっと楽しいし、電車やバスで隣り合わせても気にかけることもありません。黙々と本を読んだり、携帯をいじったり、考え事をしてばかりでした。

ところがどうでしょう。子どもができた途端に、よその赤ちゃんが気になり始め、息子が3歳ぐらいになると、それより下の子を見かけては「ああいう時期もあったなぁ」と懐かしむようになり、今では小さい子を見かけるとバイバイごっこをするまでになりました。

一方で、後悔の念が押し寄せてくることもしばしばあります。「もっとこうしてあげれば良かった」「もっともっと、うんと可愛がれば良かった」と。どうやらこれは、私とママ友同士の共通した思いのようです。

そんな心残りのひとつに、おばけの話があります。

もっとおばけの話をして楽しめば良かったと、私は夏になると思うのです。

息子が小さかった時のことですが、暗闇を酷く怖がった時期が長く続いたことがありました。寝る前の真っ暗な部屋。薄暗がりのトイレ。それから下から見上げる夜の階段。恐ろしい何かががそこに居そう。そんな風に感じていたのでしょう。

夏休みには、山荘の窓から見える暗い森や、月明かりにぼんやりと浮かび上がる山のシルエットを不気味がったりしました。それに、柱の木目がこちらを睨んでいる目のようだと言って騒いだ時もありました。きっと、多くの子どもたちが体験したことと同じでしょう。

こんな時こそと思い、即興でオリジナルのお話をしてみました。山から降りてくる鬼の話だったり、森の中でダンスパーティーをしているおばけの話だったり。そして木目には「目隠し」のガムテープを貼って、おやすみなさい。

そうすると、息子のなかには次第に、好奇心や安堵感が生まれているのがわかりました。落ち着きを戻し、じっと私の話に耳を傾けると、時折笑みを浮かべながらさまざまな思いを巡らせている様子でした。時には一緒にお布団に潜ってキャアキャアはしゃいだこともありました。

そうこうしていると、夜は寝るものだというモードに切り替わるんですね。怖さも忘れ、気がつくとスースーと寝息を立てていたものです。その音が私に与えてくれた幸福感は、母親にならないと知り得なかった感覚です。お化けが与えてくれた幸せのひとときでした。

私自身も、幼少期にはたくさんの怖いお話を読んでもらったり、聞かせてもらったりしました。日本の怪談話はもとより、マザーグースやグリム童話のちょっと怖いお話。それに『ドラキュラ伯爵』の恐ろしさは強烈でしたが、不思議と惹かれる雰囲気もありました。ルーマニアの厚い雲に覆われた低い空ってどんなに薄気味悪いのかしら、と思いを馳せてみたものです。

さまざまな感覚を覚まさせてくれた貴重な時期だったことには違いありません。

私は、子どもが見聞きするお話は、美しく楽しいお話ばかりでなくていいと思っています。より楽しむ心、より美しさを愛でる感覚を育むためには、対極的なお話も必要ではないでしょうか。人の傷みを共感できるように育ってほしければ、悲しいお話も心の栄養です。危機を察知する直感力も、ある程度の怖いお話でイメージして研ぎ澄ませて欲しい。

ただこうした悲しさや怖さが含まれるお話も、家族の誰かと一緒に共有することはとても大切だと思います。絶対的な安心感の元で擬似体験をすること。それが心の傷になるような、致命的なことはないはずです。少なくとも感覚の土壌を豊かにすることは決して悪いことのように思えません。

ただ、私もいっときは迷いました。

最近ではグリム童話や一部の昔話は恐ろしいと言って懸念される方もいて、実際、私はとある保育者から読み聞かせの選書について指導されたことがありました。怖いお話は避けるように、もう少し大きくなってからにしましょうと。息子が暗闇を怖がっていたころのことでしたから、私の選書や即興話のせいで心に傷を追ってしまったのではないかと自信を失いました。

その機を境に、私は山から降りてくる鬼や、おばけのダンスパーティーの話もするのをやめ、絵本は明るいお話ばかり選ぶようにしました。少しでも暗い要素が描かれていれば、パスしてしまっていたのです。補償付きのロングセラーでさえ!

でも、母親が即興でした話は、どんなにヘンテコでも、親子に貴重なひと時をもたらしてくれましたし、絵本や昔話に関してもその年齢に見合った怖いお話だってあるものです。そうと気づいてからは、絵本の勉強不足を補うよう努め、少しづつ選書のセンサーを外し、再び「こわーいお話」を親子で楽しむようになりました。

というわけで、お盆も近づくこの時期向けの選書です。ちょっとヒヤッとするお話を、ぜひ、親子でキャアキャア騒いで堪能して欲しいですね。

『ねないこだれだ』(せなけいこ:作・絵/福音館書店)

1歳から読んであげられる「こわーい」お話です。寝ない子はおばけの世界に連れていかれちゃうなんて、とんでもなく恐ろしいですよね。でも、大丈夫。小さい子がちゃーんと楽しめるようにできているロングセラーです。こんな時間に起きてるのは、いったいだれだ? フクロウ、くろねこ、ドロボウ? いえいえおばけの時間ですよと、身近な人の優しい声で聞き、安心感の元で、夜は寝る時なんだな、という感覚を覚えていくようです。

3~5歳向けにぴったりなのは、

『おばけかぞくのいちにち』(西平あかね:作/福音館書店)

人気の『おばけかぞく』シリーズの一冊です。特におばけをとっても怖がる子には、ぜひ読んであげてください。姉弟のさくぴーとたろぽうは、夜になると起きて、ご飯を食べて保育園に行くという、人間と昼夜逆転生活をしています。少し自分の生活とは違うけれど、同じところもあって……。怖いと思っていたお化けと仲良しになれそうですよ。蜘蛛の巣や毒キノコを使ったお料理などもユニークで、不気味ではなく、楽しいお話です。

高学年にはぜひこんな怖いお話を。

『いるの いないの』(京極夏彦:作、町田尚子:絵/岩崎書店)

古い日本家屋には至る所に薄暗い場所がありますよね。そこはなんとも薄気味悪い。大人だってそう思います。では子どもだったら? 見ると怖くなるから、見ないように。でもやっぱり気になるから、ちょっと見てみようか。でもやはり怖い。そんな感覚を引き出してくれる素晴らしい作品です。読んでいくうちに、これこそ、ヒヤッとしますよ。

真夏の夜を、お楽しみあれ!

(Anne)

Anne

Anneモデル・絵本ソムリエ

1971年東京生まれ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒。 国内外のショーやファッション誌を多数経験。映画、エッセイ、旅、ワインなどのコラム等の執筆も手がける。 出産を期に子供の発育と絵本の読み聞かせに関心を持ち、地域での読み聞かせボランティアとしても活動中。 6歳までに息子に読んで聞かせた本は793冊1202話。 現在所持する絵本も約1000冊という無類の絵本好き。

Anneさんの記事一覧 →