連載:絵本とボクと、ときどきパパ フランスの子育てで驚くことと、フランスならではの視点が味わえる絵本3冊
この連載は……
モデルのアンヌ(Anne)さんによる絵本紹介エッセイ。小学生の男の子ママでもあるアンヌさんは、出産をきっかけに絵本の世界に魅了され、いまでは息子さんだけでなく地域の読み聞かせ活動にも参加するほどの絵本好き。息子さんとの日々も綴ります。
フランスの子育て、例えばこんなこと
子どもの夏休みを利用して、2年半振りぐらいにフランスに来ました。
私の家族は、未亡人になった母が引き続きパリに住んでいて、妹家族はオランダ暮らしをしています。バラバラなので、久し振りにみんなでヴァカンスを過ごしましょうということになりました。とはいえ、東京暮らしの我が家は、フランスをはじめヨーローッパ諸国の皆さんのように1ヶ月まるまる休暇を取ることはできず、レンタカーも1週間弱。レンタル屋のあんちゃんに、レンタル期間の短さを驚かれたところです。
さて、ヴァカンス先は、ノルマンディーの「田舎の家」です。メゾン・ド・カンパーニュと呼ばれる「田舎の家」というのは、日本風に言うと「別荘」ということになります。ただ、「別荘」というと、とても贅沢なイメージがありますが、フランスではこうした「田舎の家」を持つことは、比較的スタンダード。母のノルマンディーの「田舎の家」も、どうということのない、ただの家で、セレブなヴァカンスを過ごしているわけでは全くありません。むしろ、どちらかというと、経済的だと思います。
ウチの子はというと、小学生になってからは外国に行きたがらなくなったので、出発前は渋い顔をしていました。でもいざフランスに到着して、ノルマンディー行きの特急に乗り込むと笑顔が絶えなくなり、嬉しそうにしているのでホッとしました。レンタカーで駅から田舎の家に到着しましたが、帰りも特急電車でパリまで戻るんだと知ると、「あんな素敵な旅がまたできるなんて」と大喜び。電車好きのハートを掴んだ移動手段だったようです。
オランダの妹一家とも合流し、なんだかんだ騒がしいですが、2歳児の母の妹と、オランダやフランス、日本の子育て事情などの情報交換をしたり、意見交換をしたりするのは楽しく、お伝えしたいエピソードはたくさんあります。
まずは、とにかく驚いたのは、オランダの子どもの睡眠時間です。就学前の子どもは、夜は12時間たっぷり寝て、プラス2時間ほどの昼寝をするそうで、中学生になっても、12時間の睡眠はあたりまえなんだそうです。向こうの小児科の先生からは、とにかくたっぷり寝かせること、とアドバイスされるそうです。しかも、絶対に子どもを起こすなと。それに比べると、日本の子どもたちは短眠ですよね。なにがベストか分かりませんが、いろいろ違って面白いと思います。
オランダのことはさておき、フランスの子育てで、フランス慣れしている私でも驚くことがあります。それは、親の子ども自慢です。子ども自慢というと語弊があるので、どちらかというと「子どもを誇りに思ってるアピール」、という方が適切かもしれません。
日本では、ママ友間の会話でも、近所の井戸端会議でも、よそのお子さんを褒めて、「それに比べてうちの子なんて」と繋げて謙遜する傾向がありますよね。あからさまに我が子の自慢をする親御さんは稀なような気がします。でも、フランスでは、たとえば、低学年の子どもの算数の1学期の成績が、20点満点中10点、だったとします。それでも、「息子は、とにかく算数が得意なんだ。20点満点中10点なんだよ、10ってすごいだろう? なにせ平均点を取ったんだから! 素晴らしい!」、などという過剰評価にも聞こえそうなコメントをよく耳にします。
また、日本の子どもに比べると偏食が多いように思います。でも、ある時友人が来て、息子のことを「好き嫌いがなくて、なんでも食べれるよ。まったく難しくない」と飄々と口にするのです。それには私もとても驚きました。なぜって、そのお子さんは、ケチャップをかけたスパゲッティーとチョコレートしか食べないわけで、しかもそれは周知の事だったわけなのですもの。フランスの子育ての風潮を知らないと、真っ赤な嘘で終わってしまうようなシーンですよね。
とにかくフランスでは、過大評価でも嘘でもなんでもいいから、とにかく子どもをポジティブに受け止めて、人にもそう話す、心の中でもそう思うように努めるという傾向が、このごろは強くあるようです。(フランスの子育ても昔とずいぶん変わりましたね。昔はお仕置きも多く、本当に厳しかった!)
日本暮らしの私としては、もちろん子どもの個性を肯定的に捉えたいと思っても、好き嫌いが激しければ「ちょっと好みがあるのよね」という表現になるでしょう。算数の点数が平均的だとすれば「けっこう頑張ってるけど、まだまだで…」とか、仮に国語がずば抜けて得意だったしても、「まあ、今のところはね、けっこう出来てるみたいだけど、これからどうなるか分かんないよね」というふうに、どうしてもお茶を濁したような言い回しや、謙遜することを意識した言葉選びをしてしまいますね。間違っても「うちの子は素晴らしいの」とは、周囲に言わないような気がしますが、どうでしょうか。
でも、私に関していえば、フランスのエッセンスをふりかけて、もう少し子ども「自慢」をしてもいいのかな、と思うこのごろです。
さて。せっかくフランスに来ているので、今回は、私がとても好きなフランスの絵本作家をご紹介します。
日本でもお馴染み、トミー・ウンゲラー氏です。色の使いかたと、嫌われ者や異端児にスポットライトを当てた内容が素晴らしいですが、なによりも、『月おとこ』は息子との思い出が詰まった大切な作品でもあるんです。
『月おとこ』(評論社)は、息子が1歳にも満たない頃に、お月さまににハマっていた頃があり、その頃に衝動買いしたものです。実際にはもう少し経ってから読んで聞かせ始めましたが、それでも適年齢よりずっと早く、年齢に合ってないけど読んでいいものかと戸惑いました。でも、本人はとても喜んでいて、毎日のように読んでくれとせがまれたものです。なので本人が気に入っているのだから、年齢は気にしないことにしました。おそらく、内容は分からなくても、大好きな月が出てくるし、カラフルで楽しい雰囲気に惹かれたのかもしれないですし、長い文章も音楽のように聞いていたのかもしれません。内容は、月から月おとこが地上の暮らしを羨ましがってやってきますが、正体がばれて牢屋行きになるところを、偏屈な科学者が救ってくれるというユニークな展開になっています。通常は5歳ぐらいからでしょうか。
その後、適齢期に入って『ゼラルダと人食い鬼』(評論社)が絵本定期購読サービスから送られて来ると、これも毎日のように読みました。おそらく5歳か6歳のころです。もうそのころには、一度読んで聞かせた絵本は選ばず、常に新しい絵本を読んでもらいたがりましたが、この絵本は例外のうちの一冊でした。おそらく、陽気でポジティブな雰囲気に惹かれたのだと思います。ゼラルダが得意のお料理で人食い鬼をもてなして、人間の子どもより美味しいものがあることを教えるという、ユーモアがあって、楽しくて、よだれも出そうな、素敵な物語です。ゼラルダの手の込んだ手料理に、息子もとても興味を持って、食べてみたい、食べてみたい、と言っていたのを思い出しました。
もう一冊は、せっかく夏なので『エミールくんがんばる』(文化出版局)。これもとてもユニークです。8本足のタコが浜辺で大活躍するお話です。
どれもフランスならではの視点がたっぷり味わえる作品で、私はとても気に入っています。
絵本は世界旅行もさせてくれますね!
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