連載:絵本とボクと、ときどきパパ 虫好きだった息子はいずこへ? 母の心子知らず
昨日、昼間の空に、一匹のアキアカネを見つけました。夕方、お買い物に出るとツクツクボウシが鳴いていて、暗くなった頃にはコオロギらしき音も聞こえます。
そろそろ秋ですね。
こんなふうに虫を気にかけるようになったのも、息子が生まれてからです。まだ赤ちゃんだったころですが、先輩ママにこんなことを教わりました。
「お母さんが虫が嫌いだと、男の子でも虫は苦手になるよ」だから、虫を見てキャアキャア言わせたくなければ、お母さんが興味を示すことだと。
実は長年、大げさなほど虫嫌いを宣言してきた私です。このハードルは育児の中でもかなり高く感じました。でもやっぱり息子には色々なことに興味を持ってほしい。そういう思いから、意を決して克服することに。それからというもの、虫を見つけたら嘘でもいいから、まずは「うわぁ、面白い!」と言ってみることにしました。苦手だったカマキリの三角顔も、セミのお腹も、なんてもかんでもとりあえず。
すると不思議なことに、嫌と言う気持ちがスーッとなくなり、自ずと好奇心へと変わっていったのです。そのおかげか、息子は熱中こそしなかったものの、昆虫をよく観察するようになり、図鑑も見入るようになっていました。
親子で虫を観察するようになってからは、テントウムシやチョウのような比較的好感度の高い昆虫はもちろん、今までだったら鳥肌が立ちようなものにも、私はどんどん感動を覚えるようになりました。セスナ機のように真っ直ぐ飛んでくるオニヤンマ、綺麗なドット柄のコマダラカミキリ、ホバリングが上手なオオスカシガ。
またある時は、想像を超えるような奇妙な形の昆虫に出会いました。調べてみると「ヘビトンボ」というものだと知った時のプチ興奮は忘れもしません。「ああ、虫って、なんて面白いんだろう!」と。
息子の方も4年生の終わり頃にはどこかの博物館でオオミズアオに釘付けになるほどに。「カッコイイ」といって、なかなかその場を離れませんでした。
さて。その後、長い休校期間と短い1学期を経て、夏休みに突入。
例年ほどは出かけませんでしたが、人がほとんどいない高原でピクニックをしに行きました。草を撫でてゆく涼しい風が心地よく、遠くで牛がモオと鳴き、耳元でマルハナバチがブンブンいう。絵本『へいわってすてきだね』のワンシーンのようなひと時でした。
のどかだな、静かだな。そう思って、少しウトウトし始めたころ、突然、絶叫が! 何事かと思って、顔を上げると息子でした。
「ウワァ!!キッショ!キッショ!!」
右へ左へ体をよじらせ、腕をさすっては、呪文のように「キッショ、キッショ」と言っているではないですか。それにつられるようにして、一緒にいた同じ年のお友達も、体をくねらせました。同じように「キッショ、キッショ」。
二人で何かの儀式か。だいぶヘンテコなので、近づいて訳を聞くと「虫がいた」と。こんな高原に虫がいて当たり前ではないか、それがどうした、と呆れていると、二人とも虫が苦手だというのです。
「小さな黒い変な虫」が腕にとまったのだと言って、ただ事ならぬ騒ぎようでした。
ちなみに「キッショ」とは呪文でもなんでもなく、「キショイ」のこと。普通に使われている最近の小学生言葉で、「気色が悪い」という言葉の略なのですと。それにしても一体いつからだろう? と不思議に思いました。
去年まではこの高原で、虫を見つけたらむしろ近づいていったほど二人は興味津々だったのに。
それに「オオミズアオ、カッコイイ」から半年ぐらいしか経っていないのに。
「そうなのよ、急に虫がダメになったのよね」お友達のお母さんがそばでつぶやきました。
敏感な年頃になったということなのでしょうか。なんとなく、寂しいような裏切られたような気持ちになりました。一緒に昆虫を観察することはもうないのだろうか。私は息子のために虫好きになったというのに。
ただ一方で、アキアカネを見つけて、ツクツクボウシとコオロギの鳴き声を耳にして、初秋の訪れを喜べるようになったのも、息子のおかげです。文句は言えませんね。
と言うことで、今回は虫の絵本。
『だんごむし そらをとぶ』(松岡達英:作/小学館)
数々の自然科学絵本を手がけている松岡さんのとっておきの絵本です。いつも地面に這いつくばっているダンゴムシ。空を見上げて、僕も飛んでみたいと憧れます。でも僕には無理。そう諦めかけたこと、はらはらと手元に羽が落ちてきます。その羽を細工して、いざ空へ!健気な旅が魅力的です。ダンゴムシが苦手でも、きっと可愛く見えてくる筈。たくさんの他の虫たちも登場します。是非、シリーズも!
『だれだかわかるかい?』(今森光彦:ぶん・写真/福音館書店)
超近距離で見る虫たちの顔、顔、顔!見れば見るほどユニークで、たくさんの発見がいっぱい詰まっているオドロキの写真絵本です。
眼や口の働きの説明もやさしく丁寧に書かれているので、小さい子も親しめます。慣れ親しんでいる蝶のストロー型の口ですら、どんどん不思議に見えてきて惹きつけられます。(4歳から)。
最後に読み物。6~7歳ぐらいの子どもにとって、絵本から自分で読む児童文学への移行は、必ずしもスムーズではないと思います。自分でもどんどん読んで欲しい。そう思った時に、低学年向けのこのシリーズはとてもお勧めです。
『幼年版ファーブルこんちゅう記』(こばやしせいのすけ:ぶん、たかはしきよし:え/あすなろ書房)
あの、名作の超ダイジェスト版です。様々な昆虫の暮らしぶりが、大きな字とやさしい言葉でまとめられている短編集なので、毎日少しずつ読み進められます。全10巻。たっぷり楽しめると思いますよ。我が家ではこの幼年版が子どもの読書体験にとても有効でした!(Anne)