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第45回 香港人と中国人の間の深い溝

連載:駐在員の妻は見た!中国の教育事情 第45回 香港人と中国人の間の深い溝

2018年より中国・広州に滞在した6歳児ママです。独身時代は上海で暮らしたことがありますが、現地で子育てしてみると驚きと発見の連続(現在、コロナによる退避のため、帰国中)。


2019年に訪れた香港は、ピリピリムード

私は過去に3回、香港を訪れたことがあります。
一度目は20年前、返還を前にした1996年の、まだギラギラした元気な香港へ。

2度目の2005年には、ビジネスインターン(見習い)として3か月ほど香港と東ガン(中国)で過ごしました。働く場所としての香港は「パワフル」なイメージ。日常生活はまだ広東語が主流という世界でした。

そして、3度目の2019年。以前よりも、中国語(普通語)がどこでも通じるようになり、楽でした。でも、香港と中国の関係は悪くなっており、以前より双方の距離感や緊張感を感じました。実は、私達もそれに巻き込まれてしまいました。

香港への統制を強める中国政府、反発する香港市民(注1

1842年、中国の清朝がアヘン戦争に敗れ、香港はイギリスの植民地になりました。1997年には、香港が中国に返還されました。1984年の中英共同声明では「従来の資本主義体制や生活様式を、返還後50年間維持する」と明記されています。

こうして香港は、中国の一国二制度の下、英国流の資本主義経済や言論の自由を保ってきました。今でもアジア有数の国際金融センターや国際貿易港として、重要な役割を占めています。返還後、中国は、香港を徐々に中国の制度の中に組み込み、言論の自由や行動への制限を強めました。

2014年、若者らが道路を占拠する「雨傘運動」が起き、2019年には、広く市民を巻き込んだ大規模なデモが何か月も続きました。

結果、中国の習近平国家主席は、香港に認められてきた自治と自由は許すべきではないと判断。デモを経て、2020年6月、中国政府は香港の統制を強める「国家安全維持法」に署名。活動家が逮捕され、民主的な新聞が発行停止になるなど各所に影響が表れています。

小型フェリーの波止場で地元のバンドが歌い、人々がたくさん集まっていた。中国本土に比べ、自由な印象を受けた(2019年撮影)。

香港人と中国人の複雑な関係

香港人と中国人(香港、マカオ以外の大陸中国国籍の人達)は、概してあまり仲がよくありません。ビジネスでは協力し、人の交流もさかんなのですが、根本的なところで大きな溝があります。

2018年、私達が「広州駐在になった」と香港人の友人に告げると「できる限り避けた方がいい。危険だから」と嫌そうな顔。

20年来の親友であるマカオ人は「大丈夫か? すぐ助けに行くからいつでも呼んで!」と、臨戦モード。彼らが広州に遊びに来て、皆で外食する時も「中国のお茶は信頼できないから、自分達のお茶を持参した。あ~、どこもかしこも人が多い。マナーが悪い。トイレが汚い。これだから嫌なんだ! 僕らには無理だ」と文句だらけ。
そういう彼も、中国国有大手企業のマカオ支店で働いているのですが。

そして、私がSNSに中国人と交流している様子をアップすると「絶対に中国人を信じてはいけない。君は日本人だから知らないだけ。部屋に入れるなんて言語道断」とすかさず警告が送られてきました。そこまで、嫌がらなくても……。

政治的に苦い思いをしてきた彼らの気持ちも想像できますが、私は広州では危険な目にもあわず、嫌なこともなく過ごせました。もちろん私も、子連れなので自分の基準で十分注意はしています。

特に近年、中国都市部の治安は、監視カメラの増加、SNSアプリでの監視の影響でずいぶんよくなりました。

反対に、中国人は香港のことをどう思っているのでしょうか? まず、「香港は中国の一部」なので、言論の自由や人権、自治の議論は、必要性を感じないようです。

「同じ中国人なのに、たまたまあの場所に生まれただけでたっぷり儲けて、先に甘い汁を吸った」
「自分達は進んでいる、と中国人を馬鹿にした態度をとるのは許せない」
「香港デモ? 一部の暴徒が勝手に騒いでいるだけで、誰も相手にしてない」
「香港やマカオに遊びにいくのは魅力的だけど、デモの間は行かない。香港にいかないと手に入らないというものも少なくなってきた」


という感じです。海外に留学経験のある中国人も、ほぼ同じような意見でした。

香港ディズニーランドで、スタッフと言い合いに

2019年に家族で香港に遊びに行った時、英語よりも中国語(普通語)のほうが通じやすかったので、私達も中国語を使いました。香港ディズニーランドのショーはすべて広東語。

楽しく過ごし、帰り際にあるイベントの行列に並んでいたのですが、なかなかスタッフには気づいてもらえませんでした。帰る時間を気にして「あのー、すいません」と、中国語で声をかけてつんつんと軽く女性スタッフの腕をつつきました。すると、「何するのよ、触んないでよ!!」とすごい形相でどなられて、娘も私もびっくり。娘は凍りついています。

かちんと来た夫と私は、
「そっちがずっと気づかないから仕方ないでしょう? いきなり客に大声上げて失礼じゃない? 見てよ、子どもが怯えているでしょう? これがディズニーのサービスなの? 香港ディズニーランドには失望したわ!」
と英語で抗議しました。

スタッフのお姉さんは、「あちゃ~」となっていました。ごめんね。
中国人って、すぐひっぱったり押したりすることがあり、もしかするとその先入観で「また、失礼な中国人達が来た。触んないでよ!」となったのかな?  と後から想像しています。

私達も、突然身体に触れるというのは相手をびっくりさせてしまって、よくなかったと思います。中国と香港では、人と人との距離感やマナーも異なります。はたから見ていると、これは政治以外の言動や習慣も相容れないだろう、と思うことがたくさんあります。

その後の中国政府の動きや香港の様子を見ていると、私達が感じたピリピリとした緊張感の理由は理解できます。

私達が香港ディズニーランドを訪れた後、香港では市民と警察が衝突し、激しいデモが起こりました。

(注1) https://www.provej.jp/column/china/hongkong-china-2020/ 海外進出コンサルティング会社「プルーブ」の海外コラム

岡本 聡子

岡本 聡子ライター・経営学修士・防災士

戦略系経営コンサルティング会社を経て、上海にMBA(経営学修士)留学。その経験をもとに『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』(『上海のMBAで出会った中国の若きエリートたちの素顔』を加筆・改題)を株式会社アルクより出版。幼稚園児の母。分析・事業開発支援、NPO運営なども行う。oyakobousai@gmail.com facebook.com/okamotosatokochina

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