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第52回 年間20万件の誘拐。ITと科学を駆使して子どもを取り戻す

連載:駐在員の妻は見た!中国の教育事情 第52回 年間20万件の誘拐。ITと科学を駆使して子どもを取り戻す

2018年より中国・広州に駐在した、6歳児ママです。独身時代は上海で暮らしたことがありますが、現地で子育てしてみると驚きと発見の連続(2021年本帰国)。
大手メディアによると、中国では年間20万件の子どもの誘拐が起きているそうです。

幼稚園で、春節を祝う獅子に扮する子ども達

老後の保障のために、子どもを買う

「子どもから、絶対に目を離してはいけない」
中国人ママからよく言われた言葉です。

中国の社会保障システムは手薄で、老後の保障があまりありません。そこで、主に子どものいない夫婦が働き手や老後のために、子どもを買い求めます。2015年まで36年間続いた一人っ子政策の影響もあり、誘拐がビジネスとして成り立っているのです。

特に、5歳までの男子が狙われるそうです。売買価格は150~170万円程度で、跡継ぎのいない農家が主な買い手だと言われています(注1)。
一方、女子は15歳前後が多く、結婚相手として人身売買されている模様。1人っ子政策、男女産み分けにより、中国では男性が女性よりも3000万人多いという状況になっており、結婚適齢期に問題となっています(注2)。

スマホアプリに、顔写真付きの誘拐情報が届く

中国人親子とショッピングモールでお茶をした時のこと。幼稚園~小学校低学年3人の女子を近くで遊ばせていたのですが、中国人ママはしっかり子どもを見ていました。

「子どもから絶対に目を離したらだめ! 日本は安全だからいいけど、あなたは安心しすぎている」と言われました。

しかし、町中に監視カメラが設置されており、誘拐してもすぐばれるのでは?

中国では、スマートフォンには各種アプリを通じて、毎日「広東省〇〇の路上で、〇時頃、〇歳の〇〇君が行方不明になりました」と顔写真付きの通知が送られてきます。人口が多い中国とはいえ、かなりの頻度で誘拐が発生しているらしいと知って驚きました。

外国人だから、女の子だからと安心はできません。
駐在員のお子さん(フランス系アフリカ人)が自宅前の路上で失踪した時は、各国の駐在員グループの中で顔写真付き情報がシェアされました。結局、見つからなかったようです。

中国では、幼稚園・小学校や習い事の送り迎えは、必ず大人が付き添います。日本の小学生は、子ども達だけで登下校しますが、中国人には信じられない光景です。

行方不明の子どもの情報を無料で登録、公開できる民間ウェブサイトhttps://www.baobeihuijia.com/Index.aspx「家尋宝貝(子どもを探してください)」

町中の人々が、子どもを探す警察官に

深刻さを増す中国の誘拐事情ですが、近年、ITの発展により、子どもを探し出す仕組みができました。

先ほど述べた、「行方不明になった子どもの顔写真付き誘拐情報が、アプリに送られてくるサービス」も、そのひとつです。

中国では、テイクアウト食品を配達する人が大勢、街を走り回っていますが、彼らにも情報が配信されます。タクシーの運転手にも。

そう、町中の人が、誘拐された子どもを探す警察官の役割を担うのです。

これは、2016年に中国IT大手アリババグループと中国公安部が共同で開発した「中国公安部児童疾走情報緊急発表プラットフォーム(*)」によるものです(注2)。

*子どもの誘拐や行方不明事件が通報された際、現地警察がこのシステムに外見や服装など行方不明の子どもに関する情報を入力。半径100キロ以内にいる提携サービスの利用者のスマホに情報を表示。登録後1時間以内に解決されなければ、次の1時間は半径200キロ、その次の1時間は半径300キロと表示範囲を拡大。多数のアプリや業種と提携しているので、多くの人の目に触れやすい。

監視カメラにより、犯罪が激減

町中にはりめぐらされた監視カメラ。さらに、スマホ決済が浸透し、人々が現金を持ち歩かなくなったこともあり、犯罪発生数は劇的に減りました。

中国では、政府による個人情報管理と路上監視カメラを組み合わせた、個人評価システムが導入されています。例えば交通違反をすると減点され、回数が重なると銀行口座が使えなくなるなどの罰則が与えられます。

以前は、大渋滞のうえ危険運転が多い中国でしたが、現在は歩行者優先、信号を守る車が多くなり、交通マナーが桁違いに良くなりました。

2017年、中国は人口10万人あたりの殺人件数が0.81件と、殺人発生件数の最も低い国のひとつとなりました。暴行罪の件数は2012年に比べ半減、重大交通事故の発生率も43.8%減少しました(注3)。

ITと科学の力で子どもを探し出す「再会」作戦。8000人を発見

監視カメラや、政府による個人情報管理は、離れ離れになった子どもを見つけ出すことにも一役買っています。

公安省は2009年から全国の警察組織を連携させて児童誘拐事件に対応する特別作戦をはじめました。2016年には行方不明の子どもの情報を公開するシステムを公開。約8000人を探し出し、親子再会を実現させました(注1)。

さらに、AIによる顔認識や追跡、親子の識別を行うDNA鑑定の導入により、捜索のスピードと精度が上がりました。

しかし、依然、子どもを売買する仕組みや社会的背景が残っているのも事実です。これは、農村部の貧困など、格差に由来するところもあります。

次回は「中国の格差社会と子ども達」がテーマです。

(文・写真:岡本聡子)

注1:AFPBBNews(2021年4月)https://www.afpbb.com/articles/-/3343589

注2:現代ビジネス(2020年10月)https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76356

注3:人民網日本語版(2018年1月)http://j.people.com.cn/n3/2018/0125/c94475-9419781.html

(今回の記事は、2022年1月末時点の情報をもとにしています)

岡本 聡子

岡本 聡子ライター・経営学修士・防災士

戦略系経営コンサルティング会社を経て、上海にMBA(経営学修士)留学。その経験をもとに『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』(『上海のMBAで出会った中国の若きエリートたちの素顔』を加筆・改題)を株式会社アルクより出版。幼稚園児の母。分析・事業開発支援、NPO運営なども行う。oyakobousai@gmail.com facebook.com/okamotosatokochina

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