連載:気になる! 教育ニュース 日本の小中生 理数は世界5位以内 「脱ゆとり」の効果か?【気になる!教育ニュース】
第36回 日本の小中生 理数は世界5位以内 「脱ゆとり」の効果か?
TIMSS調査 日本は全科目5位以内を維持
昨年12月8日、国際教育到達度評価学会は2019年の「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の結果を発表。小4、中2を対象とし、4年に1回行われるこの調査。日本は前回15年調査に引き続き、算数・数学と理科、全ての平均得点が小中とも世界5位以内、という高水準。実は、07年調査以来、日本の小中生は全科目5位以内を維持しており、2020年12月8日付けの読売新聞は「脱ゆとり教育」との関連性を指摘しています。
それまでの、暗記中心、詰込み教育への反省から実施された「ゆとり教育」。2002年から始まった完全週5日制に代表されるこの制度は、学力低下をもたらした、と結局批判の的に。教育のベクトルは再び学力重視の方向へ見直され、授業時間増加など、脱ゆとりの学習指導要領改訂が小学校で2011年、中学校で2012年から実施されました。
今回の調査対象となった小4、中2の子どもたちは、この「脱ゆとり教育」を小1の時から受けた世代。世界5位以内、という高い成績を残したことは、この点が大きな要因ではないか、と見られているようです。
「勉強は楽しい」は平均を下回る
結果を少し詳しく見てみましょう。点数も順位も前回より上がったのは中2数学のみ。小4算数は点数も順位も前回と同じ、理科は中2、小4双方、点数、順位ともに低下したことがわかります。また2020年12月8日の朝日新聞は、毎回同じ問題を出して比べる「同一問題」の記述問題で、日本の平均正答率は低下、小4理科では、言語的な理解の不足が認められる、と指摘しており、手放しで喜べる状態でもなさそうです。
もう一つ気になるのは、日本の子どもたちの学習に対する意欲です。
「学習が楽しい」との回答は、小4理科のみ92%で、国際平均を上回りましたが、そのほかは全て平均以下。特に中2数学では、56%、と平均の70%を大きく下回りました。
日本の子どもたちは、高得点の割に「学習は楽しくない」と思っているのでしょうか。
第2次ベビーブームの1971年生まれの私が育ったのは、まさに偏差値偏重時代の真っただ中。子どもの生活にゆとりを持たせ、生きる力を育む、というゆとり教育の理念は間違っていないのに、とふと思います。昨年、「脱ゆとり」世代の息子の受験を経験しましたが、偏差値を「1」伸ばすことに受験生が必死になる姿は私の時代と変化は感じませんでした。
夢をかなえたいから勉強する
「世界の果ての通学路」という映画があります。
野生動物が生息するサバンナで往復30キロの道のりを通学する兄妹。足が不自由で、兄弟に車いすを押してもらいながら何時間もかけて悪路を通学するインドの少年。
日本では考えられない過酷な通学路も驚きですが、その道のりをひたむきに、ただ真っすぐに学校へと向かう子どもたちの表情、瞳は実に生き生きと輝いています。
「夢をかなえたいから!」
勉強って本来こういうものなんだ。大きな感動がありました。
前述の朝日新聞は、進学校として名高い栄光学園の井本陽久教諭の「TIMSSは知識重視の試験。勉強すれば点数は上がるので“脱ゆとり”の効果だろう。だが、教えられた通りの正解を求めすぎるのは日本の課題」とのコメントを掲載しています。
情報化、グローバル化が加速度的に進み、今回のコロナ禍に示されるように社会の変化は予測困難。そんな社会に対応し、未来を生き抜く力を持った子どもを育てるため、小学校では昨年度から、中学校では今年度から、新学習指導要領が実施されます。
長い模索の道のりです。
確かに、学力を数値で測る必要性が存在する限り、点数や順位にこだわらない、というのは難しいことかもしれません。けれど、ゆとり教育の理念も「生きる力を育てる」ことだったはず。
勉強が与えてくれる喜びや躍動感は、本来、とてもシンプルでダイナミック。
世界の果ての通学路を行く子どもが感じる喜びを、なぜ日本の子どもは感じないのか。数字の先にある未来を、私たちは子どもたちに見せることができているのでしょうか。
参照
国立教育政策研究所・IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)
12月8日・読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20201208-OYT1T50222/
文部科学省・完全学校週5日制
文部科学省・平成20・21年改訂 学習指導要領
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/index.htm
12月8日・朝日新聞
世界の果ての通学路・公式サイト
文部科学省・平成29・30年改訂 学習指導要領