働くママのウェブマガジン

Column 保育園義務教育化

保育園義務教育化2子どもより猫が欲しい!? 日本の少子化の現実【古市憲寿/保育園義務教育化・2」】

2016.10.31

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく新連載。

前回の内容は、いまの日本でお母さんが置かれている厳しい状況、たとえば女性が「お母さん」になったとたんに「電車に乗る」ことも、「仕事を頑張る」ことも、「旅行をする」ことも、特別になってしまう不思議について。

今回は、ブームになったピケティ先生も心配している「日本の少子化」について、です。


(書籍『保育園義務教育化』「はじめに」より)

ピケティも心配する日本の少子化

 
もう誰も覚えていないと思うが、今年の初め、フランスの経済学者トマ・ピケティが日本に来ていた。『21世紀の資本』という分厚くて高い本(5940円もする!)が世界で100万部を超すベストセラーになった経済学者だ。

来日時は一部のおじさんを中心にものすごい騒ぎが起こった。週刊誌は空港にカメラマンを待機させ、『AERA』や『週刊東洋経済』を始め、複数の雑誌の表紙を飾った。『週刊現代』なんて「ピケティ教授もびっくり!『21世紀の女性器』格差」という完全なる便乗特集を組んでいた。

そんなおじさんたちのアイドルであるピケティと僕も対談する機会があったのだが、印象的だったことがある。それは彼がしきりに、日本の少子化を気にしていたことだ。

日本は急激に少子高齢化が進んでおり、これは日本にとって危機的な事態だ。そのためには女性が働きやすい環境を整備したり、男性が長時間労働を改めて育児にもっと協力しないとならない、というのだ。

「なんでそんなこともやってないの?」という顔をして「日本は女性だけが育児をするべきという規範が強すぎる」「このままじゃ日本の女性はますます子どもを産まなくなってしまうよ」「若い世代が子どもを持ちたくなるような政策を採用しなくちゃいけない」と熱く少子化の話をしてくれた。

そうしないと、日本は「本当に極めて恐ろしいことになる」というのだ。

実は、ピケティは来日中、僕との対談以外でも、折に触れて日本の少子化や育児の問題に触れていたのだが、多くのマスコミではそれについては軽く無視されていた。ニュースで触れられたのは、彼がアベノミクスや格差社会について言及した箇所が中心だった。

そう、このピケティの取り上げられ方自体が、今の日本社会を象徴していると思う。みんな少子高齢化が何となく問題だとは認識しながら、それで日本が「本当に極めて恐ろしいことになる」とは本気で思っていないようなのだ。

よく少子化の話になると「日本は狭いんだから人口が減ってもいい」という人がいる。確かに日本人の全世代が均一に消滅すればいいのだが、実際には人口減少の過程で高齢者が多く若者が少ないという時代が訪れる(まさに今、そうなりつつある)。

そうなると、年金や社会保障の仕組みが立ちゆかなくなる。働く現役世代が減ると、そのぶん労働力も高くなるから、産業もどんどん海外へ逃げていく。さらに高齢者ほどお金を貯め込む傾向にあるから消費も冷え込む。

移民をいれればいいという人もいるが、ヨーロッパでは移民がうまく社会に溶け込めなくて様々な社会問題が起こっている。さらに、裕福な外国人が来てくれればいいが、貧しい移民が増えても消費者としての期待はできない。

確かに、アベノミクスの成否や格差社会の行方も大問題だ。だけど、少子高齢化で日本はこのように「本当に極めて恐ろしいことになる」。「21世紀の女性器」と騒いでいる場合ではないのだ(いや、別にそのくらいはいいんだけど)。

子どもより猫が欲しい?

Cute newborn kittens asleep on the human's hands close-up

子どもができると。とにかくお金がかかる。時間もとられる。自分の生活リズムや仕事のスタイルも変えないとならないだろう。

僕のまわりを見ていても、子どもがいる夫婦よりもいない夫婦のほうが、お金にも余裕があり、豊かな暮らしをしているように見える。

そこまでして子どもを持ってからも、不安は尽きない。

泣き叫んだり、言うことをきかない時に絶対に虐待をしないと誓えるか?

もしも子どもが犯罪に巻き込まれたら?

もしくは加害者になってしまったら?

いま日本で。結婚をして子どもを持つという選択をすることは、とてつもなく重い決断のようだ。

こんなに子育てが大変なら、猫でも飼っていたほうが楽だし楽しいという気もしてくる。猫育てには、それほどお金もかからないし、猫ならまず人を殺す心配もないし、旅行に行く時もペットホテルに預ければいい。

もちろん、ペットの飼育放棄も問題になっているが、子育てより猫育ての負担は比べものにならないくらい軽い。

実際、猫の飼育頭数は増加傾向にあり、ペットフード協会の調べによると全国で飼われている猫の数は1000万匹に迫る勢いだという。少子高齢化なんてどこ吹く風だ。

犬も合わせれば全国で2000万匹。15歳未満の子どもの数は1617万人だから、子どもの数よりも猫と犬の数が多いことになる。

このまま人間の子どもが減って、猫ばかりが増えていく世界にはかなり魅力を感じるが、猫は大した労働力にはなってくれないし(ドアくらいしか開けてくれない)、そこまで消費を牽引してくれるわけでもない。

だけど、僕自身、猫は飼いたいと思うが、今の日本社会で進んで子どもを持とうとは思えない。少子高齢化が「本当に極めて恐ろしいことになる」とわかっていながら、間接的に少子化に荷担していたのだ。

「義務」と言われれば後ろめたさはなくなる

いくら少子高齢化が問題だとわかっていても、自分ではこの国で子どもを産み育てることにリアリティが持てない。

そんな時に、この本のテーマである「保育園義務教育化」というアイディアに出会った。文字通り、保育園(・幼稚園)を「義務教育」にしてしまえばいいという考えだ。

いっそ保育園を義務教育にして無料にしてしまえば、だれもが気軽に、安心して子どもを産めるようになるのではないだろうか。

「義務教育」ということになれば、国も本気で保育園を整備するから待機児童問題もなくなるだろうし、保育園があることが約束されていれば「うっかり」子どもを産んでしまいやすくなる。

「義務教育」だと、子どもを保育園に預けることに、後ろめたさを感じることもなくなる。「国が義務っていうから仕方なく保育園に行かせてるんだよね」と「国」を理由に堂々と言い訳ができるようになるからだ。

今は予定もない子どもに戦々恐々としている僕も、もし保育園が「義務教育」となって、誰もが簡単に子どもを預けられるようになったら、少しは気持ちが楽になるかもしれない。

もちろん「保育園義務教育化」が、乱暴なアイディアだということはわかっている。「保育園」は教育施設ではなく保育施設であるとか、専業主婦のお母さんから子どもを奪うつもりか、とかどこからそんなお金が出るんだとか、そんな批判が聞こえてきそうだ。

それらの疑問には本書の中で答えていくが、「保育園」でも「教育」に相当することは行われている。そもそも国の指針でも保育園は「養護」と「教育」を一体的に提供する施設だと定められている。

そして何よりも断っておきたいのは、「幼稚園」や「専業主婦のお母さん」を否定するつもりはないということだ。

次回は、「必要なのは、専業主婦のママも使える保育園」
連載第1回目から読む方はこちらへ

【「お母さん」を大事にしない国で赤ちゃんが増えるわけない】
【産後の身体はガタガタなのに。お母さんを気にかけてくれない社会】
【「子どもがかわいいと思えない」。理想と現実のギャップ】
【虐待をしてしまう親に共通すること】
【将来の平均年収をUPさせる、子ども時代の4つのルール】

「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日・水曜日・金曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから