子育てママのお悩み解決メディア
スマホ時代の子どもにとって、「学力」より大切な「力」とは?【古市憲寿/保育園義務教育化・15】
2017.01.02 by 古市 憲寿 古市 憲寿

連載:保育園義務教育化 保育園義務教育化15 スマホ時代の子どもにとって、「学力」より大切な「力」とは?【古市憲寿/保育園義務教育化・15】

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

子どもの将来を決めるのは遺伝子よりも生活習慣、という考え方について。ある研究では、子どものころ「うそをついてはいけない」「他人に親切にする」「ルールを守る」「勉強をする」という4つのことを教えられた人は、大人になってから、そうでない人に比べて平均年収が57万円高かったというデータがあるのだそう。

今回は、「努力」ができる、という能力も、子どものころに身に付けた習慣によるものが大きいのだということと、今の子どもたちには「学力」以外の力が求められるようになってきたという流れについてです。


(書籍『保育園義務教育化』「2章」より)

家庭環境で決まる「努力」できる才能

furuichi_14

教育社会学者の苅谷剛彦さんも恐ろしい研究を発表したことがある。

家庭環境が子どもの「努力をする才能」を決めているのではないかというのだ。

豊かな階層に産まれた子どもたちは、子どもの頃からの習慣で「努力」が難なくできる。だから学習意欲も高いし、結果的に学校の成績もよくなる。

しかし貧しい階層の子どもたちは、そもそも「努力」する習慣がない。学校で学ぶ意義を見つけられず、あくせく勉強することに価値を感じていない。

だから彼らは、将来の生活よりも現在の学校生活を楽しもうとする。「いい学校に行けばいい人生が待っている」という物語を信じられず、「自分探し」に奔走するようになるのだ。このように生まれた家によって「意欲の格差」が生じてしまうのである。

事実、最近内閣府が実施した調査でも、貧しい家に生まれた子どものほうが「テストでよい点数がとれないとくやしい」と感じる割合が少なかった。貧しい家の子どものほうが、「意欲」という「非認知能力」が身についていないのだ。

よく勉強や仕事ができない人に対して、「努力が足りない」という批判がされる。しかし、「努力ができる」という「能力」は、子どもの頃に身につけた習慣に大きく影響されている可能性が高いのだ。

人が持つ価値観というのは、育ってきた環境に大きく影響される。社会学では、育ってきた環境によって培われたものを「文化資本」と呼ぶ。それには言葉遣い、趣味、立ち居振る舞い、感性なども含まれる。

この「文化資本」もやはり、恵まれた家庭に生まれたほうが身につけやすく、貧しい家庭の人はそうではないことがわかっている。

たとえば、親の学歴が高い人ほど、子どもの頃に家族が本を読んでくれた経験が多く、美術館や博物館に行ったことがある。そうすると子どもの頃から本を読む習慣がつき、文化に慣れ親しむようになる。

このような「文化資本」は大人になってからも大切だ。挨拶ができる、相手に感謝の気持ちを伝えられる、文章を読んだり書いたりすることが苦痛ではない、論理的に自分の意見を主張できる、そういった広い意味での「育ちのよさ」が評価される機会は多い。

「学力」だけでは生きていけない時代

学校で身につけることになっている「学力」には、どれほどの意味があるのだろう。

経済評論家の大前研一さんは、現代において大事なのは「カンニングする能力」だと言う。ん?カンニングってダメなことじゃなかったっけ?

かつては記憶力が大事とされた時代もあった。しかし現代では、どんなこともすぐに検索できてしまう。膨大な情報を覚えておくよりも、うまく物事を検索したり、見つけた情報を適切につなぎ合わせる能力のほうが重宝される。

実際、世界的にはテストの時に「カンニング」を容認する動きも出てきている。

たとえば、デンマークの高校卒業試験では、試験的にパソコンの持ち込みとインターネットの使用が認められているという。

ツイッタ―などSNSの使用は禁止されているが、生徒の「考える力」を見ることが重要であるという考えかららしい。授業やテストでインターネットを使った検索を解禁している小学校もあるという。

また現に、大人たちが受ける就職試験でも面接が主流だ。カンニング禁止のペーパーテストの結果は大抵の場合、あくまでも参考程度に使われるくらいである。

また仕事を始めてからも「カンニング禁止」という状況自体、なかなか経験することはない。プレゼンをする時には資料があるし、何かを無理やり暗記して披露する機会というのは、ほぼない。

誰もがスマートフォンで世界中の情報にアクセスできる時代に、ただの「学力」の価値は、昔とは比べものにならないくらい下がってしまった。

[次回につづく]

次回は「入試の知識は大人には不要。では生きるための力を学ぶには?」
連載第1回目から読む方はこちらへ

これまでの連載はこちらから

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから
古市 憲寿

古市 憲寿ライター

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

古市 憲寿さんの記事一覧 →