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どんな子どもも「保育園に通ったほうがいい」と考える理由【古市憲寿/保育園義務教育化・17】

連載:保育園義務教育化 保育園義務教育化17 どんな子どもも「保育園に通ったほうがいい」と考える理由【古市憲寿/保育園義務教育化・17】

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

前回は、学校で習得した知識は大人になってからそんなに役に立つことはない、という事実について。また、正解がわからない現代のような時代では、学校でいけないこととされている「カンニング能力」こそ必要になってくる、という話でした。

今回は、2章のまとめ。子どもを将来成功に導く「非認知能力」を身につける一番の方法、そして格差社会が広がる日本で、社会全体のレベルを上げる方法についてです。


(書籍『保育園義務教育化』「2章」より)

「非認知能力」は集団の中でこそ磨かれる

ヘックマン教授は、学力テストでは測ることができない「非認知能力」こそが人生の成功において重要であることを訴える。そして「非認知能力」を伸ばす教育は、早ければ早いほうがいいという。

このように「乳幼児教育が重要だ」というと、子どもを英才教育の塾に通わせたり、育児本を買い込んでくる人がいるかもしれない。こうした話は幼児教育業界にとっては恰好の商売のネタだろう。

しかし「非認知能力」の多くは、他人から学ぶものだという。

ヘックマン教授がアメリカの一般教育修了検定(日本の高卒認定試験)を分析したところ、興味深いことがわかった。

一般教育修了検定に合格した若者は、ただの高校中退者よりはいい人生を送っていた。

しかし、普通に高校を卒業した若者に比べると、高校に通わずに一般教育修了検定に合格した若者のほうが、年収や就職状況、健康状態までが悪い傾向にあったというのだ。さらに犯罪率や福祉が必要になる割合も高かったという。

この研究から推察できるのは、学校で身につけるのは「学力」だけではないということだ。子どもたちは、先生や同級生との交流の中で「非認知能力」を身につける。そしてそれが、「人生の成功」につながっていくのだ。

実は保育園や学校に行く意味は「学力」以上に、この「非認知能力」を磨くことにある。

社会がトクをする就学前教育

恵まれた家に生まれた人が英才教育を受けること自体は否定しない。だけど、僕はそれよりも「社会全体のレベル」を上げたほうがいいと思っている。それが「保育園義務教育化」というアイディアなのだ。

なぜ多くの人が保育園に通ったほうがいいかというと、それは社会にとって「効率の良い投資」だからだ。

そもそもヘックマン教授たちの研究には、「社会の中でどこにお金をかければ、社会にとってトクか」という興味関心があった。

アメリカでの研究からわかっているのは、大人に対する教育訓練は思ったほどの成果を生んでいないことだ。

たとえば、高校を中退した若者たちに対して、全寮制の学校に入れて再教育をする「ジョブコープ」というプログラムがある。

そこそこの投資効果があると評価されているが、それでもペリー幼稚園プログラムなど乳幼児教育に比べれば「コスパ」が悪いことがわかっている。

それよりも保育園などの就学前教育を充実させたほうが、社会全体がトクをすることになる。なぜなら、この章でみてきた通り、いい保育園に通った子どもたちは、大人になってから失業率や犯罪率が低く、生活保護を受給する割合も低いからだ。

つまり、質の高い乳幼児教育を全ての子どもに受けさせることができれば、日本全体の犯罪率が減ったり、失業保険や生活保護受給者が減るのだ。

ペリー幼稚園プログラムの「社会収益率」は7%から10%と計算されているという。つまり4歳の時に投資した100円が65歳になった時に6000円から3万円になって社会に還元されているということだ。

子どもたちの教育に十分なお金をかけることは、社会にとって結果的に「節約」になるのである。

格差が広がっていく世界の中で

日本は現在、世界的に見れば犯罪率は低いし、失業率も低い国だ。

「凶悪犯罪が増えている」という偏見のまみれた報道もあるが、実は日本は戦後すぐと比べるとはるかに安全な国になっている。たとえば他殺による死亡者は1995年には2119人もいたが、2014年にはその数は357人にまで減っている。

だけど、これからはわからない。これから社会の格差が広がっていけば、この国は相互不信に満ちた、もっとギスギスした社会になっていくだろう。そんな時には教育、それも「就学前教育」が重要なのだ。

特に今、日本では子どもの貧困率の高さが問題になっている。

子どもの相対的貧困率は15%を超え、アメリカやスペインなどに次いで先進国の中ではワースト5位に入る数字だ。さらに、ひとり親世帯の貧困率は約6割で、先進国最悪の状態だ。また、就学援助費の受給率も15%を超えた。

子どもの貧困は、少なくとも「自己責任」ではない。自分ではどうすることもできない子どもの中の、7人に1人が貧困状態の中に暮らしているのだ。

そんな時に、「保育園義務教育化」という形で、誰もが無償で、質の高い教育を受ける権利を持つことは非常に大切だ。

それは格差の解消、「貧困の連鎖」を断ち切ることにも役立つ。

繰り返すが、乳幼児教育は「社会全体のレベル」を上げるために必要なのだ。自分の子どものレベルをいくら上げたところで、その友人や、社会が荒廃していたら、それは「子育てしやすい国」とは言えない。同じレベルの仲間との切磋琢磨で人は成長するのだ。

そしてどうせなら、安全な国で、全ての子どもたちが質の高い教育を受けられる国で、子どもを育ててみたいと思わないだろうか。

2章のポイント
・子どもの教育は、乳幼児期に一番お金をかけるのがいい
・良質な保育園に行った子どもは、人生の成功者になる可能性が高い
・意欲や忍耐力といった「非認知能力」が人生の成功につながる
・「非認知能力」は集団の中でこそ磨かれる
・夏休みの宿題がぎりぎりまでできなかった子どもは大人になっても計画性がない
・格差が広がる日本では、社会全体の「レベル」を上げるために就学前教育が重要

次回は「衝撃の事実。 「子どもが大切」ではなかった昔の日本」
連載第1回目から読む方はこちらへ

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古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから
古市 憲寿

古市 憲寿ライター

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

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