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ドイツの山奥に、家族でしばらく住むことになった理由
2016.01.12 by 山本 祐布子 山本 祐布子

連載:山本祐布子の「子どものいる風景」 山本祐布子の「子どものいる風景」 ドイツの山奥に、家族でしばらく住むことになった理由

Vol.2 BEAUTIFUL PEOPLE IN GERMANY

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昨年の秋、ドイツの山奥にしばらく滞在していました。今まで長年、本の世界で仕事をしていた夫が、突然「お酒作りを始める!」なんて言い始めたのです。

古い農家のゲストハウスが、しばらくの住処

ことの始まりは3年前。ドイツに素晴らしいお酒作りをしている人がいるらしい。その彼は、かつてアートブックのパブリッシャーとして名を馳せたクリストフ・ケラー。夫も知っている本業界の有名人です。その彼が、なぜお酒作り?? 

その後、偶然のような出会いが幾つか重なり、夫はその彼に会いにいく機会を得ることになりました。

二年に一度開かれるお披露目会の「オープンディスティリー」。車をひた走らせ辿りついた場所は限りなく広がる畑と森。深い木立を抜けると、小さな門があり、そこが、彼の蒸溜所の入り口。とうとう来てしまいました。

人々で賑わい、古い納屋ではバンドの演奏が鳴り響き、テントではお披露目のお酒がずらりと並び、良い香りと熱気で圧倒されます。そして、そこにあった、豊かな自然。木々に囲まれ、広い畑のむこうには地平線が見えます。主人も、そして私も思ってしまいました。こんな場所で暮らしてみたい。こんな場所で、子どもたちを育ててみたい。

そして翌年、なんと私たちは再びその場所を訪れ、3ヶ月間という長期で、旅行でもお客でもなく、その場所に暮らすという素晴らしいチャンスを、クリストフさんから与えてもらったのです。主人はお酒作りの修行。私と子どもは、それを支えながら、現地での生活を経験してみようという試みでした。私はイラストの仕事を続けつつの滞在なので、どうなることかとどきどきです。

クリストフさんが住んでいる場所は、昔は麦栽培から精製、製粉までしていた農家の大家族が住んでいたお家で、それを今は2つにわけて母屋とゲストハウスにしています。そのゲストハウスが私たちのしばらくの住処です。

広い敷地には、蒸溜所やセラー、倉庫などのお酒に必要な設備の他、ハーブ菜園や、果樹園、そして、たくさんの動物たちが住んでいます。クリストフに言わせれば動物たちはペットであり共に暮らす生活者。家畜という雰囲気はありません。ラマや、珍しい種類のやぎがのんびりと草を食み、アヒルがおおいばりで池を闊歩し、これまた見たことのないような鶏がそこらじゅうを走り回っています。

そこに、うちの子どもたちも仲間入りです(笑)。みんなは温かく私たち家族をむかえてくれました。

シャイな娘の幼稚園での日々

上の娘は5歳なので、幼稚園に通わなくてはいけません。車で15分くらいの小さな町に、学校と幼稚園があるというのでそこに通わせることを、滞在の前から決めていました。

「子どもなんて、言葉を超えてコミュニケーションできちゃうから、だいじょぶだいじょぶ」なんて、自分に言い聞かせてみるときもあれば、はたまた娘は特別にシャイな子で、東京の幼稚園でもほとんどお友達と口を聞かないくらいだから、はたして慣れない場所で一人で大丈夫?と不安になり、だめならばすぐにやめてしまおう、なんてことも同時に考えていました。

見学に行った日、娘は熱を出して寝込んでしまいました。完全に知恵熱です。これは、だめかもしれない……。しかし翌日諦め気味にようすを伺うと、それでも、娘は、「幼稚園に行きたい。」と、言うのです。

最初は一時間だけ。それを一時間半にのばし、二時間にのばし、その間、私と次女は近くで待っています。娘は、毎朝「行きたい」と言い、先生と一緒に手をつないで教室に入り、保育の間は泣いて私のところに戻ってくるということは、結局一回もありませんでした。

なによりも嬉しかったのは、お友達が、常に娘を気遣い、お世話をしてくれ、手を引っ張ってくれたこと。優しい優しいお友達。言葉はやっぱりわからないけど、娘を好きでいてくれるのです。

なかでもミアという女の子は、はじめての時に先生が、「彼女がミトのお世話係よ」と紹介してくれました。優しく手を差し伸べてくれた、その時を忘れられません。娘はいつもぶっきらぼうで、声も一言も出さないのですが、いつもなんとなくミアはそばにいてくれて、なにかがあれば、隣にいてくれていたようです。

ある時、私たち家族はベルリンに用事があり数日休園することがありました。数日後娘が幼稚園に到着すると、ミアのお母さんが嬉しそうに近寄ってきて、「ミアが、毎日ミトがいない、ミトがいないと悲しがっていたのよ」と伝えてくれました。

あっという間の3ヶ月がすぎ、私たちは日本に戻る時が来ました。最後の登園の日。みんなからと言って、大きなファイルをプレゼントにもらいました。ミアは、なかなか近寄ってきてくれません。後ろを向いて、泣いていました。最後までミアは、近くに来てさよならを言ってはくれませんでした。

帰ってファイルを開くとみんなからのメッセージと、数枚の写真。どの写真を見ても、娘の隣には、いつもミアが立っています。

そして、これからのこと

私たちは、修行をさらに深めるためにまた3ヶ月、ドイツに向かうことになりました。また、ミアや、たくさんの優しい人に会えるのです。私たちの旅は今まだまだ途中で、これからどんなことになるか、想像もつきません。でも、子どもたちの存在や、子どもたちを通して受ける、優しい気持ち。こんなことが私たちの支えとなって、どうにかやってきています。

また、旅の続きをお話ししたいと思います。

山本 祐布子

山本 祐布子イラストレーター

切り絵作品、ドローイング作品を中心に、雑誌、装丁はもちろん広告・エディトリアル・プロダクトと、ジャンルを超えた活動を行う。ブログやインスタグラムでは、2人の娘たちの姿や、日々の小さな出来事等を綴っている。夫の蒸留家修行を見守るため、2015年にドイツ滞在。現在は千葉在住。 yukoyamamoto.jpinstagram.com/yukoyamamotomitosaya

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