連載:山本祐布子の「子どものいる風景」 山本祐布子の「子どものいる風景」 たったひとりで、長い、長い夏休みの時間をすごした、みとちゃん
この連載は……
イラストレーター・山本祐布子さんのエッセイ。ふたりのお子さんと暮らす、家族の日々を綴ります。
vol.20 夏休み
母になって以来、本当に久しぶりに展覧会というものをやります。
場所は東京吉祥寺、ギャラリーフェブさんにて。
「Drawing for/from mitosaya」と題して、これからはじまる家族プロジェクトでもある「mitosaya大多喜薬草園蒸留所」のことをいろんな方に知ってもらおうという目的で、これに関わる方々に協力してもらって展覧会を企画しています。
これが決まったのは、7月の半ばもすぎ。ギャラリーのオーナーである引田夫妻のご厚意でぽっかりとあいた9月はじめのギャラリーを貸すから、そこでmitosayaの宣伝活動をすべし。
9月はじめは目下活動中のクラウドファンディングの資金集めの最終日が迫る運命の月でもある。
そうとなったら急ピッチです。思い当たる人たちにまづは声をかけ、自分もすぐさま制作に入らなくては。そうだ4時に起きて、スケッチだ!制作だ!と意気込みまくる私。
そんな私の目の前にいるのは、思いっきり夏休みに入って家にいまくる長女のみとちゃんです。
とても朝活だけの時間では、足りません。子どもがいる時はいつもはさけていた、日中机にむかって作業をする、これも今回はいたしかたありません。
「ママ今日はなにするの?」
「絵を描く」
「明日はなにするの?」
「絵を描くよ」
性格上、おしゃべりしながらすいすいと描けるタイプではありません。どちらかというと、1人にならなくちゃ集中できない無駄なアーティスト気質を持つ私ですから、みとちゃんには相手している暇が、ありません。ないのです。
背中にみとちゃんの存在を常に感じつつ、机にかじりついて絵の具を溶きます。筆を走らせます。ほとんど口もききません。うまくいかないと、私の元気もなくなります。
長時間かけて作った絵も、気に入らないと、はあ、失敗。やりなおし。ため息をつきます。
そんな母を、みとちゃんはずーっと、ずーっと、見守ってくれました。
つまんないーも、遊ぼうよーも。一言も言わなかった
作業机に並行に配置した、食卓テーブル、そこでみとちゃんも絵を描いたり、粘土をこねたり、不思議な実験工作をしたり、ひたすら本を読んだり、たった1人で、長い、長い夏休みの時間をすごしています。一列になって。私の後ろで。静かに、夏の時間は過ぎていきます。
もっといろんなところ連れてってあげたいのになあ。もっと向き合って遊んであげたいのになあ。
でも、展覧会があるから。
これが、私の夏の大義名分。自分にも、言い聞かせます。
時々私の脇の下から机をのぞきにきます。
「きれーい。」とほめてくれる。
葉っぱのここの部分て、どういうふうだったっけ、思っていると、「ちょっとまって!」と言って、その葉っぱを一枚とってきてくれる。
うまくいかなくて何度も描きなおしている私にむかって「頑張れー」と言ってくれる。
つまんないーも、遊ぼうよーとも、一言も言わなかった。
少し時間をみつけて、みとちゃんに縫い物を教えてあげました。小さなハンカチをちくちく縫って、それがとても気に入ったらしく、運針でできた縫い目をほれぼれとながめてとても満足そう。
絵日記には、数少ない思い出の一つとして、
「ぬいものをしました。じょうずにできました」と、書いていました。
遊園地に行きましたも、水族館にいきましたもなかったけれど、みとちゃんの中にも、すこしでもなにか残るものがあったかな。
短い短い夏が終わり、展覧会もあともうすぐにせまり、私の仕事も一区切りをつけてラストスパートです。
そして、みとちゃんの夏休みも終わります。
ごめんね。
一緒にいてくれてありがとう。おかげでがんばれました。
どうぞよかったら、吉祥寺まで家族に会いに、いらしてくださいませ。
【Drawing for/from mitosaya】
9月4日(月)~10日(日)
吉祥寺 ギャラリーフェブ
http://www.hikita-feve.com/