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Column イラストエッセイ

つい、最近まで、赤ちゃんだった人が……【山本祐布子の「子どものいる風景」】

2017.12.26

この連載は……
イラストレーター・山本祐布子さんのエッセイ。ふたりのお子さんと暮らす、家族の日々を綴ります。

vol.23 それだけで

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快晴。青い空の下、今日は長女のマラソン大会です。

ひと月程前から学校では毎日のようにマラソンの練習があり、毎日毎日体操着を持って出かけていく一年生のみとちゃん。

「みーちゃん、マラソンがんばってるよ! 今日は、二年生を追い越しちゃった」
「みーちゃん、あしはやいよ」

などの日々の報告。

え、、本当に、、、?

えーっと。この間の体育での体力テストの結果がきましたけど、結果はE。
何中のEかと裏を調べると、ABCDEのうちの、E、でした。

幼稚園でもほとんどやる気を発揮しなかった3年間のうち、はじめて走ったリレーでの姿も、私は知っています。
嘘をついているとは、思いませんが、あの、そして、この、みとちゃんが、足が速い、、、
ねえ。。。。

青い空とは裏腹に、私の心はすこし曇っています。はたして、みとちゃんは大きなグラウンドをきちんと走れるのだろうか。。。。ビリッケツで、すごい目立ったり、しないだろうか。。。

心配な気持ちを抱えながら、こっそりと学校の門をくぐり、もう始まっている校内マラソン大会へ。

まずは2年生の走りです。

いたいた、、一周まるっと遅れて、遅れて、最後に拍手をされながら大幅に遅れてゴールする、男の子。。。。
私の気持ちは、ますます暗くなる一方。

一年生が遠くで準備体操をはじめています。みんな同じ、白いシャツにえんじのズボンだから、どの子がみとちゃんか、まったくわかりません。
スタート地点に集まります。

大きな束が、スタートの合図に合わせてコースに放たれます。
どこだ、どこだ。。

いました、いました、どっちかというと、最後の方。小さな、みとちゃんが走っています。

うわーー!走ってる、、、、。みんなと一緒に、走ってる。
もう、それだけで、私の心はぎゅっと締め付けられるものがあり。

それが、また、けっこうがんばっているんです。どっちかというと、最後のほうだけど、決して、そこらへんの子たちには、追い抜かされない。むしろ、疲れてきた子なんかを、追い抜いて、走っている。

観客の近くを走るところがあり、すぐそばを、子供たちが駆け抜けます。
私もずずいと前へ抜けていき、走っているみとちゃんに「いけーーー!」と手を大きく振って仰ぐ真似。仰いだら、少しその風に押されてみとちゃんが飛ばされてくれないかな。

私の声を聞き取ったみとちゃんの、表情が忘れられない。
歪んだ、真剣な表情。「わかってるよ」と言わんばかりの、私を見る表情。

ゴールは、最後から数えた方がはやいくらいだったけど、うんうん。がんばった。

涙が出そうになったから、その後も授業参観があったものの、踵を返して家に帰りました。

ああ、歩いてる

凍えそうな毎日の朝。いつも朝はパパに送ってもらっているけれど今日は私がみとちゃんを近くまでお見送り。横断歩道がない場所を渡らなくてはいけないのが、どうしても心配で、今でもそこまではお見送り。

手を繋いで、その手を私のコートのポケットにしまいます。しょうもないことをお話して、さあ、いってらっしゃい。タッチをして、別れます。

すこし離れてから、こっちを振り向いているかなと思い、振り返ってみる。
みとちゃんは、こちらはもう見ずに、道の遠くを歩いている。
その後姿をみて、

ああ。歩いてる。。。当たり前だけど、歩いてる。

また、そんなことで、私の胸はぎゅっとなり。

子供が、大きくなるにつれて、親が子供に求めることは、とっても多くなってしまいます。

時にいらいらするし、理解できない、そんな感情で悩んだりもする。

だけど、ああ、歩いてる。走ってる。つい、最近まで、赤ちゃんだった人が。

私の腕を離れて、歩いてる。走ってる。

その気持ちに、時々帰ろう。

そう、心に留めた。

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山本 祐布子(やまもと・ゆうこ)

イラストレーター。切り絵作品、ドローイング作品を中心に、雑誌、装丁はもちろん広告・エディトリアル・プロダクトと、ジャンルを超えた活動を行う。ブログやインスタグラムでは、2人の娘たちの姿や、日々の小さな出来事等を綴っている。夫の蒸留家修行を見守るため、2015年にドイツ滞在。現在は千葉在住。 yukoyamamoto.jp https://www.instagram.com/yukoyamamotomitosaya/



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