
連載:山本祐布子の「子どものいる風景」 お手伝いで発見した、娘たちの知らなかった一面【山本祐布子の「子どものいる風景」】
この連載は……
イラストレーター・山本祐布子さんのエッセイ。ふたりのお子さんと暮らす、家族の日々を綴ります。
vol.26 みとさやレストラン

私は今まで、娘達にあまり「お手伝い」ということをさせてきませんでした。
まだ二人が小さかったし、私も仕事に追われる毎日で、どちらかというと、家事は二人のいないうちに終わらせたい。二人がなにか別のことをしているうちに、さっさと片付けたい。
そんな気持ちでやっていたので、気づけばお手伝いらしきことに、あまり触れさせる機会を作っていませんでした。
二人がもう7歳、4歳になり、このままいくとどうもこの二人は、なにも出来ない健全完全なる遊び専門担当になってしまうのでは。。。と、ふと、気になりはじめました。
これまでに一つだけ実施していたことがあって、それは、「マッサージをすると、100円もらえる」という仕事のようなそうでないようなことです。
疲れきった私たちにつけこみ(!?)長女が10分間、本気で全身をたたいたりもんだりして、ふにゃふにゃになった親から100円をいただき、それをお小遣い帳にこまめに書き込んでいたのです。
でも、これでは、ねえ。お手伝いとは、言えません。
ある日、私は思い立って、二人に言い渡します。
「明日は二人だけで、晩御飯を作ってくれる?」
そうすると、二人は
「わーーーい、作る作るーー!! さーちゃんはスープが作りたい!」
「みーちゃんは、キャベツとツナのサラダ!!」
と、大盛り上がり。
まずは、メニューを作ろう。白い紙に書き込んでいきます。
作るもの。チーズ入りのハンバーグ、ブロッコリーと人参のスープ、キャベツのサラダ、パン、デザートは牛乳ゼリー。
紙の下には買ってこなくてはいけない材料を書き込みます。
ひき肉、ブロッコリー、牛乳、チーズ、缶詰のコーン、、、、、
次女は私の書いたメモをさらに自分で書き写し、イラストまで書いてポシェットに大切に入れ、準備万端です。
スーパーでうろうろ、メモ通りに一つ一つ動くものだから、あっちにとことこ、こっちにとことこと、スーパーの中をいったりきたりです。
私一人だったら、コースが出来ていて、たった一周のうちに全てのものがカゴの中に入る、そういう術を身に着けていますが、彼女たちにはもちろんそんなものありません。お買い物を見ているだけでも、私は内心、すこし疲れぎみ。。。
さて、二人の料理が始まります!
お昼をすませたらさっそく準備にとりかかります。
やる気満々の今日の二人の圧の強いこと。
「次のお仕事は?」
「次はなにするの?」
「さーちゃんのお仕事は?」
と監督の私に迫ってきます。
二人の影で粉をはかり、水をたし、鍋を洗い、火をつけ、ヘラをだし、こぼれたものをふく。主役二人はそれぞれに持ち場を見つけ、真剣な顔で取り組みます。
でも、面白いことにふとした場面で二人の気づかなかった特徴に気づくこともあり。
おねえちゃんのほうは、言われなくてもシンクに置かれた洗い物を、ささっと流しています。
几帳面でしっかりものの長女は、片付けることが比較的得意で、こういうところがお料理にも現れます。一方普段片付けが大嫌いな妹のほうはあまり期待はしていなかったんですが(笑)ふとした手つきがけっこう器用で、ゼラチンの粉がこぼれないように、袋を鍋の縁の内側に入れながらちぎるところなんて、なんだ、ちょっとした気遣いもできるではないか(そのおかげで、袋はビリっと大きく破けましたが粉は見事に鍋の中に着地!)
気をよくした私は、とりこんだ洗濯物も畳んでごらんと二人に提案します。
妹は喜んで飛びついてきて、自分の洋服を中心に、楽しそうに鼻歌を歌いながら、それなりにちゃちゃっと、畳んでいます。一方姉はなかなか呼んでも来ません。しぶしぶ来て自分のトレーナーをたたむのですが、几帳面なおねえちゃんらしからず、ぐちゃぐちゃっとなっていて、、、、
「みーちゃん洗濯物たたむのきらい」
なるほどいつも帰ってくると体操着は見事にまるまった状態でしたし、パジャマもいつも、そんな妹が姉のほおりだされたパジャマを畳む姿を私は目撃していた。。。
そうだったのか。。。
もうこの歳にして、得意、不得意、こまかくあるんだなあ。。。と、娘達の知らなかった一面を発見できたような気がしました。
料理は大詰めです。ハンバーグを捏ね、野菜を切り、パンはオーブンで発酵しています。
二人はなにをやっても、
「楽しいーーー!」
玉ねぎを炒めるのが楽しいって。私、忘れてました(笑)
いちいちが楽しい瞬間です。ゼリーをきれいな器に入れるのだって、パンがふわふわにふくらんでくるのだって、フライパンでお肉がじゅーじゅーと良い香りをさせてくることだって。
いつもは私が料理をしている時はテレビを見ている子どもたち。そのほうが家事は進むけれど、あったはずのたくさんの楽しい瞬間を逃していたのかもしれない。。。。と思うと、やっぱり、がんばって子どもたちにやらせなくちゃな。。。と改めて反省です。
しかし、できた頃には私はぐったり。子どもたちもけっこう働きました。
おねえちゃんの最後の一言。
「疲れたけど楽しかった!」って。
よかったね。
ちかい将来、二人のシェフが素敵な「みとさやレストラン」を開いてくれることを願って。。。