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モグリのこと
2016.05.05 by 山本 祐布子 山本 祐布子

連載:山本祐布子の「子どものいる風景」 山本祐布子の「子どものいる風景」 モグリのこと

Vol.6 子羊のモグリ

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2ヶ月の滞在予定のドイツでの生活が、半分をすぎる頃となりました。4月も終わるというのに、木々や屋根の上には雪がうっすら積もっています。咲き始めた花も、動物たちも、寒そうに春を待ち遠しくしているように見えます。

ここに来てすぐの頃、羊の赤ちゃんが生まれました。その中に、お母さんが母乳をあげられない子羊がいました。その子には、人間がミルクをあげなくてはいけません。

ホストであるクリスチャンからの提案。

「祐布子がやってみる?」

え、できるならばやります!と私はふたつ返事。

もうすぐ、ホストの家族は長く旅行にいってしまうということもあり、早めの時期から引き継ぎをして、留守中も私が一人でその子羊にミルクをあげられるようにならなくてはという責任もありました、でも、とても興味もありました。
きっと女性というものは、赤ちゃんにミルクをあげるという行為が本能的に好きなのでしょうかね……(笑)子羊なんて触ったこともない。。。! わくわくします。

夜明けから、日の入りまでの時間、数時間ごとにミルク

はじめは、クリスチャンと一緒に羊の場所に訪れて、あげるのを見せてもらい、次には見てもらいながらミルクをあげる練習です。

お母さんに守られた子羊。小さくて、まるでぬいぐるみみたいです。はじめはお母さんも心配そうに子どもを守っていますが、でもそこから、子羊はひょこひょこと、私のほうに近づいてきます。

膝に載せて、ミルクの先を口にいれてやります。はじめはそれもままならず、口を私の手ですこし押し開けてあげなくてはいけません。

生まれたばかりの子羊の毛は思いの外ごわっとしていて、体も、人間の赤ちゃんを想像していたけど、しっかりとしています。たしかに生まれたらすぐに立たなくてはいけないのですもの、人間よりもずいぶんたくましいのは当たり前です。

そこからは、毎日。3時間おき。ホストが旅行にいっている間は、夜明けから、日の入りまでの時間、数時間ごとに通ってはミルクをあげます。まるでまた、自分に赤ちゃんができてしまったようなせわしなさです。

子羊は、みるみる大きくなっていきます。はじめは膝に載せていたのも、まもなく載せることもできなくなりました。私がミルクをあげる人だと分かったら、遠くからでも鳴いて、私のことを呼びます。時間が近くなってきても、めーめーと、遠くから聞こえます。ハイよーー!っと私も答えます。

ずっと、名前を知りませんでした。名前はモグリ、ドイツではよく知られる絵本の主人公の名前だそうで、モグリという一人ぼっちの子どものキャラクターをなぞらえてつけた名前だそうです。

たしかに、モグリはたった一匹、人間からミルクをもらっています。羊の群れは、人間には決して近づきません。でも、その中からいつも一匹で飛び出してきて、ミルクをもらうのです。

自分たちも通ってきた道

だんだん他の羊も私の存在に慣れてきたのか、あまり遠ざからなくなってきました。私のほうがちょっとどきどきするほど大人の羊もお構いなしにそばで草を食べています。他の子羊たちも、興味深々で近寄ってくるようになりました。中にはそれをみて、自分もほしくなるのかお母さんのおっぱいを飲み始める子もいたり、だんだん余裕もでてくると、観察も面白いものです。
その中で、母親の羊はことの他近くで見守り、ミルクが終わると、ひとつ、メーーーと鳴き、モグリを呼び戻します。

ある朝の時間。遠くの広場までモグリを探しに行きます。
私を見つけたモグリが、遠く、遠くから私(まあ、ミルク、といったほうが正しいですが・笑)をめがけて走り寄ってきます。
もうすぐ、私のお役目も終わり、モグリもそろそろミルクを終わりにしなくてはいけない時期にもなっていました。ミルクを飲み終えても、モグリは離れようとしません。母羊がメーと呼んでも、なんだか名残惜しそうに私にいつまでも付いてきます。群れから離れてはいけないので、あるところで立ち止まり、ずっと私に鳴き続けます。

振り向くと、ジャンプをして見せてくれました。遊ぼうよーっ、なのかな、ありがとう!なのかな。いろんな想像をしてしまいますが、なんとなくその時に、気持ちが通い合ったような気が、勝手にしてしまいました。

後日談では、まだモグリはミルクを飲んでいるそうで(笑)ずいぶんな甘えん坊の羊に育ってしまったようです。
今日もまた、すこし低くなった声で「ミルクちょうだい!」と鳴く声が聞こえます。それを聞くと私の子どもたちまで、「ミルクの時間じゃない?」「ミルク行かなくていいの?」と気にしている様子。自分たちも通ってきた道?!どうやら他人事には思えないようです。

子どもたち! 大きく育ってね!

山本 祐布子

山本 祐布子イラストレーター

切り絵作品、ドローイング作品を中心に、雑誌、装丁はもちろん広告・エディトリアル・プロダクトと、ジャンルを超えた活動を行う。ブログやインスタグラムでは、2人の娘たちの姿や、日々の小さな出来事等を綴っている。夫の蒸留家修行を見守るため、2015年にドイツ滞在。現在は千葉在住。 yukoyamamoto.jpinstagram.com/yukoyamamotomitosaya

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