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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化7どうして日本の父親たちは、育児をしないのか【古市憲寿/保育園義務教育化・7】

2016.11.11

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

前回は、不安なお母さんたちを追いつめているかもしれない「母乳問題」について。

今回は、「母乳問題」に対する古市さんの提案と、「イクメン」の現状についてです。


(書籍『保育園義務教育化』「1章」より)

育児の世界も両論併記をすればいいのに

「母乳教」をはじめ、育児の世界にはとにかく0か100かの戦いが多い。

漫画家の東村アキコさんが『ママはテンパリスト』で描くように、日本のママたちの間では子育てに関する様々な論争が勃発している。

「母乳神話とミルク派の10年戦争」「卒乳派VS断乳派」「フォローアップミルク6・9論争」「ベビーカー論争」など、ママたちは日々激論を交わしているらしいのだ。そこで東村さんは、マンガの中で一切ハウツー情報を書かないことを決めたという。

だけど育児の世界に限らず、真相が不明で、決着していないことは世の中にたくさんある。そんな時に普段はどうしているのか。

両論併記だ。

たとえば邪馬台国がどこにあったのかには、畿内説と九州説がある。どんな教科書もどちらかと断定せずに、両論併記をしているはずだ。

はっきりいって、邪馬台国がどこにあったかなんて、日本人の99%にはどうでもいい話題だろう。だけどこんな話題でさえも、決して片方の説だけに与することはしない。

しかしこれが育児の世界になると「母乳が絶対に正しい」派と「粉ミルクが絶対に正しい」派の宗教戦争になりがちだ。

「自分が絶対に正しい」と主張する人同士の戦いは永遠に終わらない。

だから、育児書や育児情報も、両論併記を増やしたほうがいいと思う。たとえば母乳と粉ミルクのメリット、デメリットをできるだけ中立的に書いてあげればいい。

そうすると何がいいのか。その育児情報を読む人が、自分で授乳方法を決められることに加えて、どちらかが「絶対に正しい」わけではないと知ることができるようになる。

「母乳教」の人は認めたくないかも知れないが、僕が調べた限りでも母乳と粉ミルクには一長一短がある。また国によってもアメリカやイギリスは母乳派が多いが、フランスは粉ミルク派が多いといった違いもある。

だったら、不幸な宗教戦争を生まないために邪馬台国方式、つまり両論併記を増やせばいいと思う。

頼りにならない男たち

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「イクメン」という言葉が登場し、父親の参加する育児が注目を浴びている。

『日経キッズ』や『FQJapan』など男性向け育児雑誌が発刊されたり、政府も「育メンプロジェクト」を立ち上げたり、父親の育児参加は珍しいものではなくなった。

しかし日本の父親たちは国際的に見て、全然育児をしないことがわかっている。

総務省の「社会生活基本調査」を見れば、6歳未満の子どもがいる夫婦がそれぞれどれだけ家事と育児をしているかを確認することができる。

2011年の調査によれば、女性は一日平均7時間41分を家事に費やしているが、そのうち3時間22分は育児にあてていた、一方で男性はといえば、育児と家事を合わせて1時間7分。そのうち育児時間は平均わずか39分に過ぎない。

アメリカでは男性が一日のうち、平均3時間13分(うち育児1時間5分)、スウェーデンでは平均3時間21分(うち育児1時間7分)を家事に費やしていた。

世界的に見て、比較した国々の中で、日本のお母さんは多くの時間を育児に費やしている一方、お父さんは育児にかける時間が異様に少ないのだ。

だけどこれは何も、日本の男たちがダメだという話ではない。本当にダメ男もいると思うが(僕も何人かは知っている)、日本の男性は世界でも有数の長時間労働をこなしているのだ。

OECDの調査によれば、日本人の休日も含めた一日当たりの平均労働時間は世界最長で、フランスの倍以上の長さだ。一方でレジャーにかける時間は最短だった。

特に都市部のサラリーマンは労働時間が長く、育児に関わる時間がないという男性も多いだろう。

これは、人々の意識にも現れている。時事通信社が2011年に実施した世論調査によれば、「父親も育児を分担して積極的に参加すべき」と答える人は39.1%に留まった。「母親が育児に専念すべき」と考えている人はさすがに6.6%しかいないが、53.2%の人は「父親は許す範囲内で育児に参加すればよい」と考えている。

まだまだ育児は依然として「お母さん」ばかりに背負わされているのだ。

次回は、「「子どもがかわいいと思えない」。理想と現実のギャップ」
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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日・水曜日・金曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから