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Column あの人に聞きました

保育園義務教育化9虐待をしてしまう親に共通すること【古市憲寿/保育園義務教育化・9】

2016.11.16

社会学者・古市憲寿さんの著書『保育園義務教育化』の内容をご紹介していく連載。

前回は、子どもをかわいいと思えないほど、育児で孤立化してしまっているお母さんたちがいるという話でした。

今回は、「少なくとも子どもが小さいうちは、母親は仕事を持たず家にいるのが望ましい」という「三歳児神話」についてと1章のまとめです。


(書籍『保育園義務教育化』「1章」より)

お母さんの育児不安

Baby cot with colorful toys hanging

孤立したお母さんほど、育児不安を抱える割合が高くなることもわかっている。

内閣府の調査によれば、仕事を持って働くお母さんよりも、専業主婦のほうが、「育児の自信がなくなる」「自分のやりたいことができなくてあせる」「なんとなくイライラする」といった不安を抱える傾向にあるという。

これは「専業主婦のお母さん」がダメだという話ではない。専業主婦であっても、きちんと「ネットワーク」があれば、お母さんは育児不安に陥らずに済むことがわかっている。それは祖父母との同居でもいいし、近所づきあいでもいいし、もともとの友人との交流でもいい。社会との接点をきちんと持っているお母さんは、育児不安が軽減されているという多くの研究がある。

まあ考えてみれば当たり前の話だ。

お母さんは子育ての「プロ」ではない。特に一人目の育児に関しては完全な「素人」。

そんな素人に対して、世間はやたら「きちんと育児しろ」というプレッシャーばかりをかける。そこで自分の親や夫や保育士さんや、きちんと相談相手がいる人はいい。だけど、そうじゃないお母さんは、不安ばかりを抱えることになるだろう。

しかも育児に「正解」はない。育児書やインターネットの育児サイトには、本当に無数の育児方針が書かれている。そして、お母さん同士、めちゃくちゃ論争している。

何を食べさせればいいのか。反抗期をどうするか。言葉を覚えるのが遅くないか。

だが子どもによって置かれた状況が違う以上、万人に当てはまる「正解」は、本来ほとんどないはずだ。

そんな時、育児経験者が周りにいれば「あんまり気にしなくてもいい」といったアドバイスをもらえるだろう(現にだいたいのお母さんは一人目より二人目、二人目より三人目のほうが育児が適当になっている)。

だけど、孤立した育児ではそうもいかない。誰もが無料で電話相談ができる「育児ホットライン」などもあるが、CMをガンガンやっているわけでもないので、それを知っているのは「情報強者」のお母さんくらいだろう。

虐待死の44%が0歳児

子どもを虐待してしまう親たちもいる。

厚生労働省によれば、児童虐待死の実に約8割は子どもが3歳までの時に起きているという。しかもそのうち約半数は、子どもが0歳の時。

こうした悲惨な児童虐待死は年間50件近く起こっているが、加害者のほとんどは母親だという。夜泣きや食事の拒否に我慢できなかったりと、様々な理由で子どもに手をかけているのだ。

また、死亡にまでいたらない児童虐待事件も多く発覚している。最近では年間約7万件もの相談が、児童相談所に寄せられているという。

虐待をしてしまうお母さんは、孤立して誰にも相談できずに子育てしていることが少なくない。もちろん、ほとんどのお母さんたちは、子どもを無事育てあげる。だけど児童虐待は、何も加害者であるお母さんを責めて済む話ではない。

子育てを経験した人からよく聞くのは、「子どもに手を上げてしまう気持ちがわかる」という話だ。

せっかく準備した食事をめちゃくちゃにする。母乳をあげようとしても、抱きかかえても少しも泣き止まない。そんなことが毎日のように続くと、どうしても子どもに手を出したくなる……。

虐待は、様々な要因が重なって起こることが知られている。

特に虐待をしてしまう親は、(1)社会的に孤立していて助けてくれる人がいない、(2)子ども時代に大人から十分な愛情を与えられなかった、(3)経済不安や夫婦仲など生活にストレスがあるといった状況に陥っていることが多いという。

児童虐待の現場支援をする川崎二三彦さんは、著書の中で「児童虐待の加害者は、人権侵害の被害者」と述べる。

多くの児童虐待をしてしまう親は、不遇な子ども時代を過ごしたり、夫や社会から支援を全く受けていなかったりすることが多い。

だから、児童虐待を防止するためには、まずお母さん自身をケアしてあげることが大切なのだ。

「三歳児神話」の嘘

お母さんたちは、子どもから離れた時間を持つことが重要だという研究もある。

同じ専業主婦でも、子どもから離れることがないお母さんはとても育児不安が大きいが、まとまった時間、子どもから離れる時間を持てるお母さんだと育児不安は少ないというのである。

だから働くお母さんだけではなく、専業主婦のお母さんも、もっと保育園を活用できるようにしたほうがいいというのが本書の主張だ。

だけど、まだまだ日本では三歳児神話が根強い。

三歳児神話とは、「子どもが3歳までは、常に家庭において母親の手で育てないと、子どものその後の成長に悪影響を及ぼす」という考え方のことだ。

事実、国の調査でも、約7割の親は「少なくとも子どもが小さいうちは、母親は仕事を持たず家にいるのが望ましい」と答えているという。確かに、環境がそれを許し、家で子育てをしたいというお母さんはそれでいいだろう。

だけど、三歳児神話そのものは、国も公式に「合理的な根拠はない」ものだと否定している。

1998年に厚生省(当時)が発行した『厚生白書』は、子どもにとって乳幼児期が大事だと認めながらも、「保育所や地域社会などの支えも受けながら、多くの手と愛情の中で子どもを育むことができれば、それは母親が一人で孤立感の中で子育てするよりも子どもの健全発達にとって望ましい」としている。

要は、子どもと家にずっと一緒にいてストレスを抱えているお母さんよりも、きちんと自分の時間を持って活躍しているお母さんのほうが、結局は子どもにとってもいいということだ。

国もたまにはまともなことを言う(その割には、保育園の整備とか本当に全然追いついていないけど)。

実は2章で見ていくように、子どもを良質な保育園に通わせることは、子どもの発達に非常に意味があるという研究成果が続々と発表されている。

つまり、子どもを早いうちから保育園に通わせることは、何ら咎められることではなく、むしろお母さんにも赤ちゃんにもハッピーだということだ。

1章のポイント
・この国は「お母さん」というだけで「人間」扱いしてもらえなくなる
・「三歳児神話」には合理的根拠がないことは、国も認めている
・「子どもがかわいく思えないこと」があると答えたお母さんは約8割
・孤立したお母さん(特に専業主婦)ほど育児不安になる確率が高い
・虐待死の44%が子どもが0歳の時に起きている

次回は、「保育園に通った子どもは、人生で「成功」する?」
連載第1回目から読む方はこちらへ

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「保育園義務教育化」連載一覧

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。共著に『国家がよみがえるとき』(マガジンハウス)などがある。

この連載について
こちらの連載は、古市憲寿さんのご厚意により、書籍『保育園義務教育化』(小学館)の本文より、約8割ほどの内容を、順次Hanakoママウェブに公開していく、という企画です。毎週月曜日・水曜日・金曜日に更新します。古市さんの「この問題をできるだけ多くの人に、自分の問題として意識してもらいたい」という強い思いによって実現したものです。共感したかたはぜひ、家族や友人とシェアしてくださいね。
古市さんのインタビューはこちらから
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