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Column 子育てエッセイ

坂上みきの「君はどこから来たの?」・13どんなお産にもドラマが。高齢出産、あの日のこと【坂上みきの「君はどこから来たの?」】

2017.09.05

ラジオパーソナリティ・坂上みきさんの人気連載!

ひょんなことからニュージーランドの男性と出会い、
紆余曲折を経て、息子が生まれた!
日々雑事に追われつつ、その感慨をかみしめる新米ママの
一喜一憂を大公開。

この連載は……

結婚後、大きな決心をして、子どもを授かるに至ったラジオパーソナリティ・坂上みきさんが、一人息子との触れ合いや友人たちとの会話を通して遭遇するさまざまな感情をストレートに伝えていきます!


高齢出産、いよいよ始まる!

「そろそろ、日取りを決めましょう」

ドクターからそう提案された時、一瞬、何を言われたのか理解できず、「へ?」と漏らした後「ああ、私、出来たら自然で産みたいんです!」と明るく元気に答えていた。

「へ?」。今度はドクターのほうがびっくりして、

「あなたね、自然分娩がどんなに大変かわかっていますか?」
「あ、大変なのは、友人からも聞いていて、知ってます、知ってます。でも、せっかくのチャンスですからね、母になる、あの痛みを経験してみたいんですよ」
「・・・」
「ダメなんですか?」
「ダメとかじゃなくて! 自分の年齢わかってますか? 危険なんですよ。リスクを回避するためにも、帝王切開で計画的に産むしかありません」

キッパリと告げられた。

そこで始めて、自分の置かれている状況に気づく。

「鼻からスイカ出すっていうじゃないですか?」とか「上唇をビヨ~ンと引っ張ってきて、頭にすっぽり被せる感じ? っていう人もいますよね。ぷぷ」などとよく言われる「痛み表現」を持ち出して、「あれ、やってみた~い」「いいじゃないですか」などと笑いあう場の空気では、とてもじゃないが、なかったのだった。(そんな人もいないか?)

「承知しました」。私は手帳を出し、ドクターは卓上のカレンダーを見つめ、私たちは、出産日を検討し始めた。

「この日はどうでしょうか?」「手術が込み合っていますね」
「では、この日は?」「う~ん。学会ですね」
「じゃあ、このあたりで?」「それもまた、別の学会がありますね」

ってことで、「ここしかない」というドクターマターのピンポイントで出産の日取りが決定した。学会と学会のはざま。情緒のかけらもない、息子の誕生日。

でも、よくよく考えてみれば計画帝王切開の場合は、こちらの都合やあちらの都合、皆そんなことで日にちを決めるわけだから、嘆くこともない。ちょっと驚いただけ。逆に、サバサバとして潔いではないか、とすぐさま思い直した。っていうか、言い聞かせた。

出産予定日の前日、一人で受付を済ませ、軽い検査を受けたら、あとは自分の病室でくつろぐ。「すわッ、破水した。陣痛が来たァ~」という自然分娩と違って、帝王切開は手持無沙汰である。本番まで、体を休めておくこと以外、何もすることがない。
 
大阪から姉が来てくれた。両親はとっくに亡くなっているので、頼れるのは一つ違いのこの姉だけ。高齢出産のデメリットは、親をアテにできないことである。こういった時のケアはもちろん、子育て中に「ちょっと見ていてくれない?」と気軽に頼める若くて元気な親御さんがそばにいる人は、本当に幸せ、とても有難いことなのですよ。

いつもながらのダラダラ茶飲み話をして、「じゃあ、明日ね。11時半にまた来るわ」そう言って、姉は近くのホテルへと帰って行った。

母に聞きたかったこと

出産当日。

いよいよである。嬉しいような、コワいような。もうこの膨れ上がったお腹とはサヨウナラ。日に日に暴れまわり、面白いほどブルンブルン左右上下に動き回っていたお腹、まさに“生き物が蠢いている”といったそのサマを、携帯動画で自撮りして、別れの時を楽しんだ。

そうこうしているうちに、姉が来て、夫が来て、手術着に着替えて、ストレッチャーに乗せられ、「おお、人生初のストレッチャー! 初乗りだわ」と軽く興奮し、エレベーターに乗り込み、手術室へと降りていく。

「医療ドラマのまんまじゃないか。ドクターX」などと興奮は続き、ダンと手術室の扉が開くと、先生を筆頭に、たくさんの看護師さんが並んでいた。お、白い巨塔! 

ストレッチャーからベッドに移り、麻酔医の説明が始まったあたりから、好奇心マックスのわくわくワンダーランド状態が沈静化し、やや神妙な面持ちになる。

不妊治療のころから、麻酔は何度も経験済み。それでも、「このままずーっと起きなかったら・・・・」「まったく効いてないのに、手術が始まってしまったら・・・」と毎回、同じ不安感が頭をよぎる。が、毎回、驚くほど効きがいいし、毎回、予定通りの時間にバッチリ目が覚める模範患者なのだった。

今回は部分麻酔。大きく背中を丸めたら、そこにブスッと一撃。瞬く間に効いてきて、私の下半身はすでに感覚がない。が、上半身は、何ら変わらず、頭は冴えわたり、すべてを目にし、耳にすることができる。

ところが、横たわった胸のあたりにカーテンがスルスルと引かれ、こちらから手術の様子は全く見えない。

手術室用の割烹着のようなものと帽子を着せられた夫が、傍らに座り、手を握ってくれた。彼からは、少し首を伸ばせば様子が見えるらしく、小声でちょこちょこと、報告してくれる。

「始めます」というような合図があって、わさわさと人が動く様子は伺えるものの、何も感じない。

手術室の煌々と明るいライトに「これも医療ドラマだ、コード・ブルー」などと別のところに意識が働くことは、もはやまったくなく、その手術の逐一を感じようと全身で集中した。ほとんど感覚がないのに。

しばらくして、ドクターが「ちょっと押しますから、違和感があるかもしれませんよ」とおっしゃり、確かに、ずん、ずん、と鈍い何か感じたが、痛いのとは違う。そのあとすぐだったか、ちょっとしてだったか、突然、「フンギャー」という大きな鳴き声が手術室に高らかに響き渡った。おお、おお、おお、おお。

ものの、10分。
私自身は、なんのいきみも、努力もしていない。
す、すいません。

それでも、涙がみるみるあふれ出る。
全身が喜びで爆発するようなこの高揚感。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
誰彼かまわず、物にだってさえ、感謝したくなるようなこんな気持ち。
ちょっと味わったことがなかったかもしれない。

夫が首を伸ばし、息子の様子をのぞき込んで「ゲンキ、ヨカッタ」と片言の日本語で語りかけながら、指でOKサインを出している。ほどなく、おクルミでくるまれた息子が、看護師さんに抱かれ、横たわった私の傍にやってきた。

その顔を覗き込んだ時、ふっと「この子は、逞しく生きていける」と感じた。

お告げのように、降りてきた感じ。それは単なる母の願望なのだろうが、その根拠のない確信によって、ほっと安堵することができた。

何十時間も痛みに耐えながら産んだお母さんには、申し訳ないくらいラクして産んだけど、子供が生まれた瞬間の喜びは、同じだと思いたい。どのお母さんに聞いてもみんな違う。お産は、他人と比べるものではなく、個々のドラマだなぁ、とつくづく。

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家族の一員になりました!それにしても、小さかったなぁ。2594g。

ラクした、と言ってもお腹を切ったわけで、あとの痛みは、それなりに結構なことだった。痛くて寝返りも打てず、トイレに行くのも全てがまるでスローモーション。おまけに痛み止めにアレルギーがあるので、全身に発疹が。赤鬼さんのようになった身体は、自撮りしておこうか、なんて気持ちも湧かないほど、キモかった。

自分が生まれてきた時はどうだったのか? 自宅出産だった、と聞いたことがあるが、難産だったのか、安産だったのか、そして、私が産まれた瞬間、母はどんなことを思ったのか? そのどれも質問したことがない。聞いてみたかったなぁ。

「母に聞きたかったことリスト」がまたしても溜まっていく。

2
ハロー!とご挨拶してくれたかのような。大体、寝てるか、泣いてるか、な時期の貴重なスマイル。
3
名前がまだないのでブレスレットには、”坂上みきbaby”と書かれていた。
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坂上みき(さかじょう・みき)

ナレーター、イベント司会、ラジオパーソナリティを務める傍ら、映画コラムやエッセイを執筆。東京マラソンでは、自己ベスト3時間58分で完走。
2006年に12歳下のニュージーランド人と結婚、2012年に男児出産。
現在は、日本テレビ「暇人ラヂオ」に出演、ラジオ日本「坂上みきのエンタメgo!go!」ではパーソナリティを務めるなどして活躍中。
「最近インスタを始めました! 子どもの撮った写真をアップしていきますので、ぜひフォローしてくださいね!」 @mikisakajo

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