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Column 子育てエッセイ

坂上みきの「君はどこから来たの?」・20何かにすがりつきたいほど切実だったあの頃【坂上みきの「君はどこから来たの?」】

2017.11.20

ラジオパーソナリティ・坂上みきさんの人気連載!

ひょんなことからニュージーランドの男性と出会い、
紆余曲折を経て、息子が生まれた!
日々雑事に追われつつ、その感慨をかみしめる新米ママの
一喜一憂を大公開。

この連載は……

結婚後、大きな決心をして、子どもを授かるに至ったラジオパーソナリティ・坂上みきさんが、一人息子との触れ合いや友人たちとの会話を通して遭遇するさまざまな感情をストレートに伝えていきます!


面倒くさいのが女の人生!

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ベルリンの壁の前で。西から東ベルリンに入る列車の中では、緊張が走ったのを覚えている。

思えば私の人生は、移動中に考えた、あるいは願ったことで、成り立っているのではないか?

仕事、結婚、出産と大きな節目に、なぜその道を選んだのかを振り返ると、車窓を眺めながら、犬と散歩しながら、海辺を走りながら、頭の中をぐるぐるめぐっていたことが、いつのまにかそうなった、という感じなのだ。

1989年、30歳の時、一旦仕事を辞めて、ヨーロッパ・アメリカを4か月ほど旅した。

行先も決めず、終わりも決めず。もう帰りたいと思うまで、って、振り返れば、なかなかスリリング。あの頃の私は、好奇心と冒険心に溢れていて、行動力があったんだな。守るものができた今、なかなか、こうはいかない(その気になれば、出来てしまうのかもしれないが)。

30歳というのは女の大きな転期である。結婚するのか、仕事を続けるのか、全く違うことにチャレンジするのか、その先の自分をじっくり見定めるための旅だった。

スペイン→ポルトガル→イギリス→フランス→ベルギー→オランダ→スイス→ドイツ→イタリア→オーストリア→ハンガリー→チェコスロバキア。まさに「ベルリンの壁」が崩壊した年で、ヨーロッパはワサワサと興奮に包まれており、歴史の転換期に居合わせているという事実に、どこか自分も浮足立っていた。

とはいえ、毎日「次はどこに向かおうか」「どこに泊まろうか」「何を食べようか」と目の前のことにいっぱいいっぱいでもあり、スマホもない時代のこと、今は廃刊になったトーマスクック(ヨーロッパの列車の時刻表)片手に、ユーレイルパスをかざしては、困ったら列車に飛び乗り、国を、街を、行きつ戻りつし、気ままに旅を楽しんだ。

友人から餞別としてもらったTHE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」をカセットテープで聴きながら、飽きることなく車窓からの風景を眺めていると、今までのこと、友人のこと、家族のことやなんかが、つらつら浮かんできては流れてゆき、これからのことも、「栄光に向かって走る」という大それた思いに至らないまでも、「見えない自由」が約束された、明るい未来が待ち受けているような、すっきり晴れやかな気持ちになれた。

帰国後、ほどなくしてラジオの仕事を得て、東京で暮らすようになる。

そして40歳のころ、今の場所に引っ越し、夫に出会ったのもこのころだ。

「結婚」という形式にこだわってはいなかったが、誰かと暮らしてみる、身近に寄り添ってみる、ということにはこだわっていたかもしれない。

一人には、もう飽き飽きしていた。誰かを思いやりながら、たとえ、時にファイティングすることがあったとしても、泣いたり笑ったりを共有する「暮らし」というものを経験してみたかった。

でも、そこに持っていくには、どうすればいい? 真っ向からお願いして、断られると傷つくし。自然に持っていく、などという芸当が出来れば苦労はしない。う~ん、とりあえずは「願い」として、チャンスが来るまで自分の中で温存しておこう。

そんなことがとりとめもなく、ぐるぐると頭に浮かんでくるのは、必ず、犬との散歩の時だった。 

早朝、体がシンと引き締まるような空気の中、マンションの敷地の外周を、ぐるりと1周するのが毎日の程よいお散歩コース。イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルという中型犬の我が家の愛犬ココは、若いころ、その犬種通りスプリング=跳ねるように歩き、グイグイとリードを引っ張り、転ばされたこともしょっちゅうあったが、年齢とともに落ち着きをみせ、散歩しながら「暮らし」を考えるには、ちょうどいいアンダンテになった。

時折、早朝ロケのドラマの撮影に出くわす。なるべく遠巻きに足早に行き過ぎようと努めるが、見知ったスタイリストさんがいたりすると、「あらぁ、このお近くに住んでらっしゃるの?」と声かけられ、さらに「お一人で? あ、ワンちゃんと?」とやや残念そうに言われると、そこは、ちょっと今、自分でもナーヴァスになっていることなので・・・とも言えず、曖昧に返事してそそくさと去る。ああ・・・面倒くさいったら。

そして、ほどなくして・・・ほどありか? 47歳で結婚。
 
子供が欲しい、という気持ちは夫と出会ったころからあった。でも、なかなか恵まれず、欲しい、けど、出来ない、諦めようか、諦めきれない、そんな宙ぶらりんな気持ちが嫌で、何か打ち込めるものはないか?と始めたのがマラソンだった。

何かにすがりつきたいほど切実

週末、海沿いを走る。キラキラの水面を眺め、潮風を頬に受けながら、リズムよく走ることほど、気持ちのいい事はない。至福である。週末過ごす我が家から神奈川県葉山町にある森戸神社まで、往復10km。トレーニングにはちょうどいい距離だ。

海辺の陽光は穏やか。タッタタッタ軽快に走りながら、日々のこと、未来に望むことが、めぐるめぐる頭ン中をめぐる。子供のいる情景を思い浮かべ、いつか子犬のように走る子を追いかけながら、幸せを感じることがあるのだろうかと。

森戸神社の鳥居をくぐったところで歩をゆるめる。走るのをやめ、息を整え、参道の右側に並ぶ「社」のひとつひとつの前に立ち止まっては、静かに手を合わせるのが習慣になっていた。一番手前の総霊社では、最も身近で亡くなった人たち、父と母、祖父母、伯父や伯母を思い浮かべながら。

その向こうは、ペットのための小さな祠。愛犬ココを思う。

さらに進むと子宝を願う水天宮があった。子を授かりたい人は、お守りと共に子宝石をひとつ選んで持ち帰ることができる。肌触りのいい丸みを帯びた何とも愛嬌のある石。そして、子供が出来たら、その石に子供の名前を書いて、再び、納めにまいります。お礼参りだ。水天宮のすぐ隣の「子宝石の納所」には、名前の入った丸い石がシアワセそうにいくつも積まれている。羨ましいなぁ、横目でみながらそう呟いていた。

じゃあ、とっとと自分もいただいて帰ればよいものを、こんな高齢で出産の確率も低いのに、頼っては申し訳ないのではないか、と気後れしていた。

ある時、意を決し、いつものように立ち止まって手を合わせた後、私も、と姿のいい愛らしい石をひとつ頂戴して、ジョギングウェアのポケットに忍ばせ、ゴソゴソしないよう右手でしっかりとポケットの中で握りしめ、何とも言えぬ重量を感じながら、神妙に復路を走って持ち帰った。

決して信心深いほうではないのに、何かにすがりつきたいほど切実だったのだ、と思うとあの頃の自分を抱きしめてやりたくなる。

自分が41歳の時、母が亡くなった。しばらくの間、仕事に追われて、あるいは仕事に追われるフリをして、悲しみを遠くに追いやっていた。が、ふと何気なく信号待ちで立ち止まった時、突然、容赦なく、わーと悲しみに襲われ、涙が滝のようにあふれ出て困惑したことがある。

「立ち止まる」という行為は、亡くなった人と直結しているんだと、強く感じた。「立ち止まる」ことは、悼むことなのだと。

反して、「流れる」ことは、生きるということ。列車で移動したり歩いたり走ったりしながら、様々な思いが巡ることは、生命力が宿るからなのだと、合点がいった。

近ごろの私は、立ち止まっては、「この子を見守ってください」とお願いし、この子の未来はどんなだろう?とつらつら思い浮かべてみる。子犬のように走る息子を追いかけながら。

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走りながら様々なことを考える。ドーパミンのおかげかな?
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坂上みき(さかじょう・みき)

ナレーター、イベント司会、ラジオパーソナリティを務める傍ら、映画コラムやエッセイを執筆。東京マラソンでは、自己ベスト3時間58分で完走。
2006年に12歳下のニュージーランド人と結婚、2012年に男児出産。
現在は、日本テレビ「暇人ラヂオ」に出演、ラジオ日本「坂上みきのエンタメgo!go!」ではパーソナリティを務めるなどして活躍中。
「最近インスタを始めました! 子どもの撮った写真をアップしていきますので、ぜひフォローしてくださいね!」 @mikisakajo

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