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Column 子育てエッセイ

坂上みきの「君はどこから来たの?」・20黒紋付もりりしい息子。玉砂利の参道を、手をつなぎながら歩いた【坂上みきの「君はどこから来たの?」】

2017.12.04

ラジオパーソナリティ・坂上みきさんの人気連載!

ひょんなことからニュージーランドの男性と出会い、
紆余曲折を経て、息子が生まれた!
日々雑事に追われつつ、その感慨をかみしめる新米ママの
一喜一憂を大公開。

この連載は……

結婚後、大きな決心をして、子どもを授かるに至ったラジオパーソナリティ・坂上みきさんが、一人息子との触れ合いや友人たちとの会話を通して遭遇するさまざまな感情をストレートに伝えていきます!


息子に晴れ着をきせてリベンジ

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家紋の入った黒紋付。開けた途端、ふ〜とため息。背筋が伸びる思いがした。

753、漢字で書かないと何だか国道246みたいで、七五三っぽくない。

でも、あえてこう書いてみたのは、それぞれの数字が粒だつ気がしたからだ。昔は医療事情もよろしくなく、乳幼児期に亡くなってしまう子供もたくさんいて「やっと3歳になったぞ」「おお、5歳までたどり着いたじゃないか」「うんうん、7歳までよくぞ育ってくれたもんだねえ」と、感慨もひとしおに、3.5.7という節目の年に、親がお祝いをしたのが事の始まりだという。

私は7歳の時に祝ってもらった。

両親は商売に忙しくしていた時期で、先の予定を立ててもままならない。そこでいつものごとく、父が急に思い立って決めたのだろう。

平日のポッカリ空いた11月の小春日和に、小学校の門の前で待ちぶせし、拉致するように車に乗せ、ちゃちゃっと晴れ着を着せて、石切さん(大阪府東大阪市にある石切神社)まで、車を走らせ、参道を小走りに駆けあがり、パンパンと手を合わせたら、今度は駆け下り、母と私を家のずい分手前で下ろして、父はまた仕事に戻って行った。

せっかちの父らしい、なんて、せわしない七五三なの。記念撮影もなければ、スナップ写真さえ残っていない。おかげで、神社での記憶がほとんどない。

ポツンと田舎道に残された私と母は、そこからゆっくりと手を繋いで歩いた。

赤い小花の晴れ着が嬉しくて、千歳飴が嬉しくて、誰かに出くわさないか、ちょうど下校時間の友だちに出くわさないか、「私はこのために早退したのよ」と見せびらかしたい気持ちを膨らませ、晴れやかに紅潮した頬に、小春日和のなめらかな風が当たるのを楽しんでいた。

母はどんな思いでいたのだろう。そのころお気に入りだった浅葱色の羽織が、歩くたびにゆれている。いつもより歩が緩やかな気がする。母も見せびらかしたかったに違いない。「わたしの娘が、7歳にまで成長したんですよ」と。繋いだ手のぬくもりの記憶から、そんなことを想う。

息子が5歳になった。

「お宮参り」をおざなりに済ませてしまった反省から、この5年間、まるで小骨がノドに刺さったままのような感覚で、少々大げさに聞こえるかもしれないが、七五三でリベンジをと、己に強いてきた。

思い起こせば、出産して退院してからの1か月というもの、何も思い出せないくらい、私たち夫婦はボロボロだった。

のべつ幕なしに泣く息子を抱えて、寝かせようたって寝てくれなくて、1日の、24時間の切れ目などなく、この過酷さが永遠に続くかと思われ、2人とも壊れる寸前だった。

それでも、1か月あたりで、「お宮参り」をしてあげなきゃ、という思いだけは強くあって、慌てて友人から借りた白のベビードレスを着せ、甥っ子のお下がりの、姉の嫁ぎ先の紋(すなわちサカジョウ家の紋ではない)が入った着物を被せ、ジャーと近所の神社に行って、しゃしゃっとお参りし、記念写真はスマホで自撮り、そして夫は、仕事に出かけて行った。せっかちの父のこと、ちっとも笑えないじゃないか。

案の定、思い出の「お宮参り」の写真は、育児疲れで冴えない紗のかかった表情の両親と、着物が覆いかぶさってほぼほぼその表情が見えない息子、という、ひどい出来栄えだったのだ。

口車に乗っかってみた!

男の子の場合、次は「成人式」までこういったこと、もうございませんのでね。

と老舗のデパートの貸衣装屋さんが、開口一番そう言った。

盛大にしてやるべきだ、という圧力を絶妙な言葉で投げかけてくる。でも、確かにおっしゃる通り。これから15年、ここまで改まった祝い事はない。

すっかり口車(?)に乗せられて、七五三の多少の出費の覚悟ができた。

すかさず「ご予算は?」と問われ、「う~ん、特に決めてないんですけど」と言った途端、キラリと光る衣装さんの目。

「これなんかいかがですか?」と勧められた、飛び立つ鷲のゴージャスな刺繍があしらわれた羽織は、個性的で息子にも似合いそうで申しぶんない。チラリと値札をみる。一、十、百、千・・・丸が5つ。ジュ、ジュ、十万円。

「えーと、これお羽織だけの値段ですか?」

「いえセットになっていますが、これだけの羽織ですと、袴も、グレードを上げませんと釣り合いませんでしょ。それがプラス1万5000円。草履もアップグレード7500円、他にも・・・」

「あのー、小さいことで恐縮ですが、羽織や袴の値段って、私にはよくわからないんですが、草履は、その値段だせば、レンタルじゃなく買えちゃったりなんかするんじゃないのかなぁ、なんて」となるべく、愛嬌たっぷりに進言してみた。

「そうかもしれませんね」いともあっさり、悪びれもせず返答された。

ああ、そういう世界だったんですね。ご祝儀事だから、そこは、勢いで行っちゃえ! チマチマ気にするんじゃないよ。ってか。

幸いなことに(?)、その刺繍を羽織った途端、息子が、「重ッ!」とすぐさま脱ぎ捨て、なんの変哲もないシンプルな黒紋付を指さし「ボク、これがいい」と言ってくれたおかげで、随分、節約できた。なんて親孝行な息子なんだ。

しかも紋付である。他家の紋ではなく、坂上家の「丸に抱き茗荷」が5つも施されている。念願かなって、私の父も母も、草葉の陰できっと喜んでくれていることだろう。

記念撮影も、お宮参りの反省から、いわゆる写真館のプロにきちんと撮ってもらって3面台紙に残す、と決めていた。

もう、値段はとやかく言いませぬ。ご祝儀相場に慣れたってこともあるけど、せっかくのお祝い事、値段ばかりを書きつらねるのも、どうかと思われるのでね。

七五三、当日。

襲名披露かよ!とつっこみたくなるような黒紋付もりりしい息子と、母親らしい淡い色の訪問着は似合わず、銀鼠の着物に古代紫の羽織をまとった置き屋の女将のような母と、ネイビーのイタリアンスーツで決めた『LEON』から抜け出したような父は、浮足立ちながら、嬉し恥ずかし写真館へと向かった。

続いては、参拝のため明治神宮へ。玉砂利の長い参道、パワースポットの「清正の井戸」を擁する庭園での撮影は、写真家のハービー・山口さんにお願いした。

積年のノドの小骨が、いつの間にか取れていた。

大人になって息子は、この日のことをどんな風に思い出すのだろう。

全力で笑わせてくれた、写真館のお兄さんのことだろうか。

11月なのに真冬のように寒くて、オプションの草履にはほとんど足を通さず、黒紋付に青のムートンブーツで歩いたことだろうか。

最後は「疲れた、もう歩けないよ」とギブアップして、父に抱っこしてもらったことだろうか。

母とは、玉砂利の参道をずーっと手をつなぎながら歩いたよね。いろんな話をしながら。

「ねえねえ、僕の頭の中ってどうなってるのかな?」って突然言い出すからびっくりしたよ。「インサイドヘッドの影響?」って聞くと「まあね」って。

5歳って、そんなことを考えたりするんだね。

遠い昔の七五三、あの日、母と私は何を話したのだろう。全く覚えていないけれど、あの日の母の気持ちは、こんな感じだったんだろうなぁ、とすっと理解できた気がして、ゆっくりゆっくり、玉砂利を踏みしめた。

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明治神宮内の庭園を散策。フォトジェニックだね、と大いに盛り上げてくれたハービー・山口さん。
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ピコピコハンマーまで登場させ、全力で笑わせてくれた写真館のお兄さん。
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坂上みき(さかじょう・みき)

ナレーター、イベント司会、ラジオパーソナリティを務める傍ら、映画コラムやエッセイを執筆。東京マラソンでは、自己ベスト3時間58分で完走。
2006年に12歳下のニュージーランド人と結婚、2012年に男児出産。
現在は、日本テレビ「暇人ラヂオ」に出演、ラジオ日本「坂上みきのエンタメgo!go!」ではパーソナリティを務めるなどして活躍中。
「最近インスタを始めました! 子どもの撮った写真をアップしていきますので、ぜひフォローしてくださいね!」 @mikisakajo

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